- 最新巻
嵐が丘 下
エミリー・ブロンテ(作)
,河島弘美(訳)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.2 (44件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
この小説の素晴らしいところをわたしなりに3つあげてみよう。
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ひとつ、設定が優れてよい。物語の舞台となるのは、ヒースクリフ咲く丘の一件の屋敷。その丘は遮るものがなにもないために、一年中強い強い風が吹く。ゆえに「嵐が丘」とあだ名される。荒涼とした大地と空。それでも秩序よく暮らす領主一族のもとに、ある日ひとりの少年がひきとられることとなる。「ヒースクリフ」と名付けられた少年と領主の娘。彼らは強く惹かれあうが、互いを愛すれば愛するほどに憎しみが増す。憎むことでしか愛を表現できない悲しい恋は、やがてこの一族を破滅へと導く。嵐のような愛。
またひとつ、作者の語り手の人選がよい。この物語をわたしたちにきかせてくれるのは、もちろん複数人いるわけだが、おもにこの屋敷に使えるばあやが語る。このばあやがなんともよい仕事をしている。ばあやは、基本的に冷静につとめて客観的に事態のいきさつを話すが、ときどきばあやの主観がポロリと漏れることがある。「おいおいばあや、心の中とはいえそんなこといってよいのかい」とツッコミたくなったり、彼女が一枚噛むことによって物語がより重層的になる。筋を追うだけの生真面目な作業を読者にさせないのである。
くわえて、たとえばばあやでなくて、ヒースクリフなり屋敷の娘キャサリンなり、どちらかの視点、あるいはどちらもの視点でこの物語を紡いだ場合、今日までも版を重ねるほどのスーパーベストセラーにはならなかったのではないかとわたしは考える。というのも、ばあやが語るのは、この史的稀にみる不器用なふたりの愛憎劇だけでなく、その背景となる嵐が丘全体の物語であり、近しい第三者が証言するからこその(作品上の)リアリティーが物語を壮大にさせる。もし主人公たちの視点で書かれていたならば、おそらくはこうはならず、恋愛に関することを超えたメッセージを発することはできなかったのではなかろうか。
さいごにひとつ、物語の構成が妙である。長編小説は、長いがゆえに中だるみが生じたり(正直こんなに紙を使う必要があるのかと疑問が湧く作品も多数)、おわりに向かって作者都合になったり、そもそもはじまりがどんなものだったのか忘れてしまうぐらい読者を疲弊させる場合がある。わたし個人は、正直なところ長編小説は苦手であり、上下巻などあるものは相当におもしろくないかぎり読みきれる自信がないくらいだ。『嵐が丘』の場合、先に述べた懸念は不要である。はじまりはたしかに謎が多過ぎて、読み進めようかいったん積読にまわそうか迷った。しかし、はじまりが霧に満ちているからこそ先に進みたくなる。おわりを読まずにはいられない。『嵐が丘』は、他の優れた作品と同じように、物語が循環する。はじまりからおわりまでの直線ではなく、はじまりがおわりであり、おわりがはじまりなのである。興醒めな作品の場合、起点から広がる小宇宙がおわりにむかってしぼんでしまう。おわらせようとする作者の意識が邪魔だてをするのである。しかし、『嵐が丘』は違う。小宇宙はしぼまず、着地点に到達したつぎの瞬間に言葉のひとつひとつがつながりひとつの有機体をつくる。そして起点にもどるのである。はじまりの時点でおわりを書いている。作者の手から離れて、ヒースクリフとキャサリンが駆けた風荒ぶ丘は、読者の頭のなかにたしかな重みをもってあらわれるのである。
以上がわたしの考える『嵐が丘』の素晴らしいところである。あとにもさきにも、これほど先を急いで読んだ小説はない。古典ではなく、わたしには生きた物語である。投稿日:2016.12.07
キャサリンとヒースクリフの純愛
ヒースクリフがキャサリンの面影を感じたり、
ヘアトンに自分を重ねるところは切なくなったが、
人の道を踏み外して行ってきた悪魔のような行いの
数々を忘れられなかった
(…希望の埋葬方法もエドガーが不憫だった)
キャサリンとヘアトンが幸せでありますように
続きを読む投稿日:2024.01.11
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