帝国主義論
レーニン(著)
,角田安正(訳)
/光文社古典新訳文庫
作品情報
自由主義から集中、独占へ、そして世界再分割としての列強間戦争の勃発――急速な発達を遂げ、帝国主義という新しい段階に到達した資本主義の実態を、産業界、金融界の動向から徹底的に分析。20世紀初頭の世界情勢を正確に描くことで、結果として今日のグローバル経済の矛盾、資本主義に忍び寄る危機を浮き彫りにした、レーニンの代表的論文。変貌を続ける資本主義をいまいちど理解するための必読書
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この作品のレビュー
平均 3.6 (12件のレビュー)
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近代に誕生した資本主義は、形を変えて発展し続けて今でも存在する。レーニンがこの本で説いた「帝国主義」とは、金融の影響力が強まり、企業があらゆる面で独占したり、国内で余った資本を国外に輸出する資本主義…である。そのため、産業資本主義のような自由競争はなされていないと言われる。このように、資本主義は発展するたびに、異なった性質を帯びるようになるのだが、本書がマルクス『資本論』では十分に考察されなかった「植民地」の記述が特徴的である。レーニンが生きた時代、日本を含む世界列強は、アジア・アフリカ地域をめぐって国同士が競争をした時代であった。この内容は第5〜7章にかけて考察されるが、ここで語られる内容は、今を生きる人たちも十分学べるのではないだろうか。20世紀頃と異なり、今世紀はかつての植民地が独立して跡形もなく消えたが、依然として国家は存在し、各国家が特定の資源をめぐって、とりわけ米中が競っている。ゆえに、本書を地政学の書として読み込むことができる。続きを読む
投稿日:2023.04.09
社会主義関係の本といえば、マルクスにしろ、エンゲルスにしろ、とても難しくて、とても読みにくい。
用語が難解なこともあるけれども、なんだかこれらの本には、現代史上の思想的・政治的格闘による怨念がとりつい…ているようで、おどろおどろしいところがある。
ロシア革命の立役者であるレーニンの書物も、もちろんそんな中の一つ。
有名な「帝国主義論」だから、読むには心してかからなければならない。
社会主義関係の本に共通なのは、本文が始まる前の「序文」がやたらと長くて煩雑なことで、「フランス語版への序文」とか「ドイツ語版への序文」だとか、「第1版への序文」とか「第2版への序文」とか「第3版への序文」とかいっぱいあって、こっちがまだ右も左も分からないでいるのに、すでに3回は読んでいるはずだという顔をして知らない人名や地名が多数出てくる難解な注釈をたくさんつけてきたりするので、そこでもうメゲてしまうのである。
序文なんか飛ばしてしまえばいいようなものだが、有名な本なので、一応はじめからキチンと読まなければならないと思うし、それに、訳者には申し訳ないが(注の作成はご苦労様でした)、もう二度と読むことはないだろうから、せめてすべてのページに眼だけは通しておこうと考えて、律儀に最初から読んでしまうのである。
ところが、本書を読んでびっくりした。
予想に反して、驚くほど平明なのである。
本書の「序文」はこうである。
本書は、一九一六年春にチューリヒで執筆した。執筆の場がチューリヒだっただけに、当然のことながらフランス語と英語の参考文献がいささか不足した。ロシア語の参考文献は、はなはだしく不足した。しかしそれでも、英語で書かれた帝国主義に関する重要文献、すなわちJ・A・ホブソンの『帝国主義論』は利用した。同書の扱いには、細心の注意を払った。それだけの価値があると確信したからである。(p11)
歯切れのいい文章だ。
序文は二つしかなくて、すぐに本文だ。
その出だしはこうである。
工業が飛躍的な成長を遂げている。また生産が大企業に集中している過程が、いちじるしく急速に進んでいる。そして、それら大企業の規模は拡大の一途をたどっている。
これは、資本主義の最大の特徴の一つである。この過程を示す遺漏のないデータは、現代の工業統計の中に見出せる。(p34)
まるで雑誌かなにかの経済記事を読んでいるみたいだ。
本書はこうした簡潔な文章で書かれている。
「帝国主義論」の正式な書名は「資本主義の最高の段階としての帝国主義ー一般向け概説書ー」である。概説書と言うからには、レーニンの立場と主張を分かりやすく説明して一般に普及させるのが目的だろうから、もともと原著そのものがやさしく書かれているのだろう。しかし飜訳された日本語の書物がそうなるとはかぎらない。防衛大学校教授の角田安正訳によるこの本は、その点でまったく素晴らしい。もしこれほど分かりやすい飜訳が50年前に出版されていたら、日本のマルクス・レーニン主義者はきっと倍ぐらいに増えていたに違いない。
こういうふうにスラスラ読めるせいか、レーニンの著作というのは、理論書というより、意外とジャーナリスティックな文章なんだということがわかる。雑誌の経済記事みたいといったけど、たしかに、エコノミストとか文藝春秋とかに連載されていてもおかしくない感じだ。当時のさまざまな社会経済情勢を取り上げ、批判と分析を行い、たたみこむように自説を展開している。論旨の明快さやスピード感はきわめて現代的だ。
考えてみれば革命の実践家レーニンにとっては、他の人々に自己の革命理論を学んでもらい、それに賛同して革命の戦線に参加してもらうことがなによりも重要だったはずだから、読んでもらいたいのかもらいたくないのか分からないようなヒトリゴト的プチブル的(この言葉を一度使ってみたかった!)文章を書くひまはなかったはずで、とにかく読んで理解してもらうことを目指していて、そして取りあげる対象が現実の社会の出来事ということになれば、スタイルが現代のジャーナリズムに近づくのも当然だろう。
そして有能な革命家として、優れた扇動家でもあったはずのレーンの文章だから、読んでいるこちらが次第にワクワクどきどきしてきて、いっちょ革命でも起こしてやろうかという気になってくるのも当然だろう。それは大げさだけど(この書物では革命についてはほとんど触れられてない)、たいへん面白い読み物であるのは間違いない。
ところで、この書物では、レーニンは資本主義の最高の段階として独占的資本主義=帝国主義が現れることを説いている。
この書物では触れていないが、そこからプロレタリアートによる革命→プロレタリアート独裁という道をたどって社会主義国家の実現をめざすということになるのだろう。
本書で述べられている、資本主義が最初の自由経済からはじまって、金融独占による帝国主義にまで至る道筋の説明は、きわめて説得的で反論の余地がないように思える。
ではどうして、それから先が彼の説いたとおりにならなかったのだろう。
つまり資本主義の最終段階である帝国主義から、社会主義に転化しなかったのだろう。転化するどころか、いまでは社会主義国家は消え去ろうとしている。生き残っているのは、レーニンやマルクスやエンゲルスが見たら恥ずかして首をくくりそうな国家ばかりである。
すなわち、どの資本主義国家よりも搾取と抑圧と貧富の差が激しいのではないかと疑われる中国。国民はお金儲けが大好きだ。独裁国家のカリカチュアとしての北朝鮮(漫画的なだけに現実の隣人には恐るべき存在である)。それに社会主義国の最長老カストロ議長がひきいるキューバ。
キューバの内情はよく知らないので除くとして、中国や北朝鮮のような国家ができたのは彼らの著作のせいだと言ったら、三人とも前非を悔いて頭を剃って出家するかもしれない。
現実の世界がかってレーニンが予測したとおりにならなかったのは、訳者があとがきで書いているように、ソ連という社会主義国が成立し、危機感を抱いた資本主義側が自らを修正して社会主義的要素を取り入れ、延命に成功したせいかもしれない。それは正しいのかもしれないが、では、資本主義の問題はそれで解決したのだろうか?
資本主義の最終形態が独占であり、それに一定の修正を施したのが現在のわれわれの社会だとして、はたしてこれで終わりなのだろうか。
まさか現在の状態が人類のめざした最高の段階だという人はいないと思う。
ではこの次の展開は?
現在、それを誰か語っているのだろうか?続きを読む投稿日:2017.12.09
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