この命、何をあくせく
城山三郎(著)
/講談社文庫
作品情報
私は本が好き。旅も好き。本と旅を組み合わせれば、1プラス1が4にも5にもなり、そこに私だけの新しい世界が生まれる。1回かぎりの人生、少しでもあくせくせずに過ごそうではないか。生きることの奥深さを味わえる今こそ。作家生活約半世紀、人生の哀歓を知り尽くした著者が綴る36の練達のエッセイ。(講談社文庫)
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商品情報
- シリーズ
- この命、何をあくせく
- 著者
- 城山三郎
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2005.09.15
- Reader Store発売日
- 2013.11.01
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 303ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (4件のレビュー)
-
1.著者;城山氏(故人)は、経済小説の先駆者。帝国海軍に志願するも、特攻隊の訓練中に終戦。その後、大学で教鞭をとる。城山三郎のペンネームで応募した「輸出」で文学界新人賞受賞、「総会屋錦城」で直木賞を受…賞し、執筆に専念。他にも、吉川英治文学賞や菊池寛賞など受賞。経済小説を軸に、歴史や伝記小説などの著作がある。実直な主人公が組織の中で、どのように生きるべきかを問うた作品はビジネスマンから圧倒的な支持を受けました。
2.本書;城山氏のエッセイ。36項構成(第1項;ジャラン、ジャラン~第36項;いくつになっても)題名は、島崎藤村の「千曲川旅情のうた」の一節。『テンポの速い人間が多くなり、社会のテンポが加速度的に速くなってくると、「その中で生きることはもちろん、それを傍観していることも息苦しくなってくる」そこでひそかに、「この命なにを齷齪」と、つぶやきたくなると』。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第7項;遊兵狩り』より、『病み衰え、「お迎えを待つ眼」になっている兵士を、「貴様らのような兵隊は閣下には見せられん」と追い散らす。そして、しばらくして前後に護衛兵を配し、元気な参謀達を従え、立派な服を着た師団長がお通りになる。無理な命令を次々に出してきた男である。「えらい奴は、厳命はいくらでも出せるのである。不可能な事であっても」「国民など、虫ケラ同然に扱わなければ、戦争は出来ないし、軍隊は成り立たない」。・・・過去だけでなく、今もその種の男達が生きている』
●感想⇒日本は国内外に色々と問題を抱えていますが、無頓着で暮らしている国の部類だと思う。城山氏は書いています。「ガイドライン法・・一億総背番号制と、自由を奪う恐れのある立法が立て続けに進められており、悲惨な戦争に何を学んだのかと、悲しくもなる」。本書は、2005年に出版されたが、すでにマイナンバー・国家安全保障戦略の改定等がどんどん進行しています。マイナンバーにより確かに効率性が増し、便利になったと思うものの、個人情報が丸裸にされる等、「国民など、虫ケラ同然に扱わなければ」という感も否めません。我が国の舵取り役を果たすべき❛政治家、高級官僚、産業界幹部・・・❜が確固たる価値観を構築し、城山氏の危惧(悲惨な戦争に何を学んだのか)を払拭する事を願います。私達に出来る事は限られますが、期待される政治家を選ぶとか、戦争の道だけは避けなければなりません。
(2)『第22項;建物も物を言い候』より、『「金儲けは易しいが、経営とは違う。世のためになって利益を上げるのが経営であり、だから経営は難しい」・・・その点JR東日本の経営陣は、完全に失格である。人口の高齢化が進み、当然、駅のトイレを増やすべきなのに、東京駅など各駅が競ってトイレを潰して売店に。このため、客はトイレの前で行列。・・・改札口にも階段にもいたるところに広告。・・・世の中の為どころか、客を踏んだり蹴ったりであり、この暴走はさらにひどくなる』
●感想⇒「世のためになって利益を上げるのが経営」とはいうものの、利益を優先する企業が多い。一時期、企業の社会的責任が叫ばれたが、株主に選ばれる経営者にとっては、株主への利益還元を優先するのも理解できる。しかし、昨今の企業不祥事を見てみると、「客の自動車損壊、データ改ざん、不適切販売・・・」、枚挙にいとまがありません。「赤信号皆で渡れば怖くない」とばかりに、名だたる大企業の不正が日常茶飯事です。今は亡き❝土光敏夫氏(東芝社長や経団連会長等を歴任)❞の逸話です。「行革の鬼といわれる程の仕事人間であったが、普段の生活ぶりは非常に質素で蓄財家でもなく、生活費以外の残りはすべて寄付したそうです。「不祥事を知らなかった」とうそぶく経営者もいると思います。そういう人に限り、高級車での送り迎え等は当たり前なんでしょう。少しは土光氏を見習って欲しいものですね。
(3)『第36項;いくつになっても』より、『私は本が好き。本はいつでも、どこでも、望む世界へ連れて行ってくれる。古今東西の人間の中にまで。そして、そうした人間たちの人生を、わが事のように追体験させてくれる。つまり数多い人生を歩ませてくれる。・・・買う楽しみ、与えられる楽しみもいいが、つくる楽しみ、寄与する楽しみも、奥が深い。・・・若者顔負けの元気さは無くても、静かに健やかに遠くまで、心の旅を続けることができるのでは無いか』
●感想⇒私が入った会社の人事部の幹部には読書家が多くいました。そして、毎月推薦図書を紹介していました。さらに、読書感想文大会を企画、参加作品を某出版社に審査してもらい、優秀作品を表彰するというイベントもありました。勉強会も盛んで毎月1冊は本を読み、感想文をグループ回覧していました。そうした読書環境に恵まれて、本を読んで感想をまとめるという習慣がついたように思います。黄山谷(中国の学者)が言っています。「三日書を読まざれば面貌憎むべく語原味なし」と。某氏は「書を読んでいないと人相が悪くなり、教養が備わらないから、言葉に味がなく、人間的な厚味が感じられないことだ」と言います。これまでに、仕事や人間関係で悩まされる事が多々ありましたが、そうした際には愛読書を読んで勇気付けられました。今後も人間学を学び、良い面貌になりたいものです。
4.まとめ;辞書には、❝あくせく=心にゆとりがなく、せわしく事を行うさま❞とあります。城山氏は、あとがきに書いています。「あまり先の事は考えず、少しでも穏やかにのびやかに、一日一日を楽しくと、痛切に思うばかりのこの頃である」と。城山氏がこの本を書いたのは、70歳代後半であり、人生を振り返っての言葉だと思います。現代は、IT社会であり、情報の量とスピードの中で生活しており、❝あくせく❞せざるを得ません。最後に、尊敬する先輩の言葉です。「情報化の波に飲み込まれる事の無いように、週に一日位は自分を見つめる事が必要だ、人間なのだから」と。私の大切な座右銘の一つです。(以上)続きを読む投稿日:2024.01.25
18年ぶりの再読。
他の文庫本に比べて、字が大きく行間も広めにとってあり、小さい文字が見にくい身にとって読みやすい。
題名は、島崎藤村の「千曲川旅情のうた」の一節だそうだ。
「テンポの速い人間が多くな…り、社会のテンポが加速度的に速くなっている」ゆえに、この言葉をつぶやきたいと。
まったく同感の思い。
戦争体験の著者が、「ガイドライン法、盗聴法、国旗国歌の法制化、一億総背番号制と、国民の自由を奪うおそれのある立法が立て続けに進められており(著者執筆当時)、悲惨な戦争に何を学んだのかと、悲しくなる」とも。
現在でなら、マイナ法や個人情報保護法などが該当し、著者の懸念は増すばかりだろう。
その他、身辺雑記や読んだ本などを淡々と綴られており、じっくりと腰を据えて味わいたい一冊。続きを読む投稿日:2023.09.25
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