いまだ人間を幸福にしない日本というシステム
カレル・ヴァン・ウォルフレン(著)
/角川ソフィア文庫
この作品のレビュー
平均 3.2 (18件のレビュー)
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<目次>
第1部 よき人生をはばむもの
第1章 偽りの現実と社会の檻
第2章 巨大な生産機構
第3章 停滞する社会の犠牲者たち
第4章 民主主義にひそむ官僚独裁主義
第2部 日本に…運命づけられた使命
第1章 日本の奇妙な現状
第2章 説明責任を果たそうとしないバブルの張本人
第3部 日本人はみずからを救えるのか?
第1章 さらなる変化に見舞われた世界
第2章 不確かな日本の新時代
第3章 日本民主主義の可能性
<内容>
なかなか衝撃的な1冊。種本は1994年という古さだが、2012年に第3部をほぼ書き下ろしのようにして文庫化したもの。一瞬の風だった民主党政権、東日本大震災後の状況を踏まえているが、ターガード・マーフィーの『日本~呪縛の構図』と似たような分析がされている。こちらはオランダ人ジャーナリストだが、外から見た日本は、官僚が牛耳っている世界で政治家はその官僚にいいようにコントロールされ、うまくコントロールできない(例えば小沢一郎のような)政治家はアメリカなどと排除のキャンペーンを張られてしまうらしい。官僚の縄張り主義、前例主義は江戸時代から続くらしいが、こうした本を続けて読むとこちらが洗脳された気がする。訳が読みにくいのでやや手こずるが、官僚の思いもよらぬ形で、日本を変えるキャンペーンが若者あたりから生まれないか、と思うのであった。続きを読む投稿日:2016.05.11
日本社会の本質をついたとされるベストセラーの加筆された一冊。とはいえ、かなり前の著書のため、現時点での評価はなかなか難しいものです。
民主党への政権交代、東日本大震災、冷戦後の世界情勢といったものを踏…まえた内容になっていますので、現在とは異なっている点と、根底に流れているものと見極めることが必要な気がします。
日本は、戦後復興の中で進められ、結果構築された体制からなかなか脱却できておらず、そのため、官僚の独裁、中枢における説明責任の欠如、社会の政治化が進み、改善されていない現状を指摘します。そしてこれを打破するためには、政治化の存在の重要性とそれを選ぶ国民がいかに関心を持つようにするかを提言しています。
この提言の部分はもう少し具体的なものを聞いてみたかった気がしますので、物足りなさがあります。説明責任や政治家がどうすべきかといった部分は理想としては理解できるものの、ではどこから手をつけるべきだと著者が考えているのかは、もしかすると他の著書を参考にする必要があるかもしれません。
また、以下の3点は、何となく気になった部分です。
・自滅に進む機構の原因は、無関心と無能さ
・アメリカに依存し続けることの危険性
・日本の政治家がもっと関心をもつべきなのは、原子力エネルギーに代わる動力源として、太陽光エネルギーの技術の開発を進めること
▼日本国民が完全な市民としてふるまえないのは、市民に必要な知識が与えられていないからだ。官僚や経済機構の役人たちが日本を実際にどのように管理しているかは、たてまえの陰に隠されているのでわからない。日本の市民たちの明日、そして遠い将来に影響をおよぼすようなきわめて重要な事柄が、おおやけに議論されることはない。
▼成熟した大人の日本人は、たとえひどいあつかいを受けようがそれに甘んじて、静かに耐えながら、他者をもそのようにふるまえるかどうかで評価するのである。「しかたがない」とあきらめることを大人になった証拠と見なすのは、この国の長い伝統なのである。
▼権力者たちは現実を正確に伝えれば、現状に変化が生じるのではないかと恐れている。特に官僚は自分たちの機構が強化されるのでないかぎり、どんな変化が生じるのではないかと恐れている。彼らがいまの地位にとどまるためには、国内状況の安定がなによりも重要だ。国や地域を問わず、官僚が現状維持に最大の努力をするのはそのためだ。かなり官僚化の進んだ日本では、現状維持を望む傾向はことのほか強い。それにはどうしても現実を偽って伝え続けなければならない。おもて向きは民主主義国である日本が、なぜいまだに官僚たちにがっちりと牛耳られているのかは、日本の市民がつねにみずからに問いかけるべき一番重要な問題のひとつである。
▼日本の問題とは、皮肉にも、戦後、日本がなし遂げたふたつの偉業が原因となって生じている。戦後の日本を築き上げた人々は、その規模の壮大さと影響力の深さにおいて、以前の海外の権力者たちには決して真似できないほどの成果を上げた。
①工業製品を生産するための体制の構築。機構同士がいく重にも結びついた、これまで世界のどこにも存在しなかったほどの効率を誇る体制。
②産業規模の拡大をつねに最優先課題とし、それに反対できないような社会の構築
▼社会のほぼ全体が政治システムに組み込まれている、ということだ。そして日本はまさにそうなっているのである。我々はこれを社会の「政治化」と呼ぶことにしよう。
▼企業が個人の家庭生活の質や人格形成にこれほど大きな影響を与えた国は、日本をおいてほかにない。
▼重要な点は、民主国であれば大抵はそなわっているはずの、物事を変化させるようなメカニズムが日本には欠如していることだろう。というよりそうしたメカニズムが未発達だと言うべきなのだろう。変化のメカニズムとともに、もうひとつ民主国には欠くことのできなものがある。それが説明責任である。日本の政治システムの大きな問題は、だれも日本でなにが起きているかについて「説明責任」を負う者がいないことである。
▼ヨーロッパなどの他諸国であれば、本来、政治的な影響力の強い中産階級が占めるはずの重要な位置を、日本では企業が占めているのだ。
▼第二次世界大戦後、日本では政治的に重要な中産階級が存在しない代わりに、それを成文法や不文律といった規定によっておぎなおうとする政治文化が発展した。そのために、ますます官僚に対して政治支配がおよばなくなっていった。
▼日本になにが必要かははっきりしている。それは文民と政治によって軍を管理する、ということだ。実に多くの理由から、政治的な説明責任の中枢が必要だ、ということだ。
▼日本にとってなによりも必要な、政治的な説明責任の中枢を築けるのは政治家だけである。なぜなら読者が選ぶのは彼ら以外にはいないからだ。だからこそ読者は、政治家たちがどのような立場にあり、どのような役割をになっているか、真剣かどうか、彼らが日本のシステムという根本的な現実を認識しているかどうか、そして国民に対して責任感があるかどうか、といった事柄に、なによりも関心をもつべきなのである。
<目次>
第1部 よき人生をはばむもの
第1章 偽りの現実と社会の檻
第2章 巨大な生産機構
第3章 停滞する社会の犠牲者たち
第4章 民主主義にひそむ官僚独裁主義
第2部 日本に運命づけられた使命
第1章 日本の奇妙な現状
第2章 説明責任を果たそうとしないバブルの張本人
第3部 日本人はみずからを救えるのか?
第1章 さらなる変化に見舞われた世界
第2章 不確かな日本の新時代
第3章 日本民主主義の可能性続きを読む投稿日:2021.06.12
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