快楽としての読書 海外篇
丸谷才一(著者)
/ちくま文庫
作品情報
中身があって、面白くて、書き方が洒落ている。そして、その本をすぐに読みたくなる。それが丸谷書評の魅力だ。海外の傑作を熱烈に推薦した114篇。聖書とホメロスの新訳を味わい、中世フランスの村の記録に驚く。ナボコフ、クンデラ、エーコ、カズオ・イシグロ、そしてマルケス、バルガス=リョサの魅力を語り、チャンドラー、フォーサイスを楽しむ。書評傑作選第2弾。
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商品情報
- シリーズ
- 快楽としての読書 海外篇
- 著者
- 丸谷才一
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま文庫
- 書籍発売日
- 2012.05.09
- Reader Store発売日
- 2023.01.27
- ファイルサイズ
- 2.1MB
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この作品のレビュー
平均 4.5 (7件のレビュー)
-
本を切らしてしまった。読むに価する本をどうにかして調達せねばならぬ。そういうときどうするか。私なら書評に頼る。新聞や雑誌には書評欄というスペースがあって、週に一度は新刊の紹介記事が載っている。何度か試…すうちにお気に入りの書評家が見つかる。そうなればしめたものだ。彼らの紹介する本を探して読めば、まず大概外れることはない。
ところで、何もすぐに書店に向かう必要はない。書評はそれだけで立派な読み物である。ここに採りあげたような書評だけを集めた本もある。古くはホメロス、聖書から、ナボコフ、バルガス=リョサ、それにカズオ・イシグロまで、百冊を越える書物の書評が収められている。
巻頭を飾る「イギリス書評の藝と風格について」は、云わば「書評」論。イギリス書評の伝統と現在に範をとりながら書評のあるべき姿を問う。そこに書かれた「四条件」は、丸谷の書評について解説を依頼された誰もが引用したがる決定版である。そのひそみに倣って引く。第一は、再話性。どんなことを書いた本なのか、読んでなくても人に話せる程度の内容紹介が必須だということ。ネットに溢れる書評には最低限のこれすらないものが多い。第二は評価。これのない書評はないがそれだけに難しい。第三は文章の魅力である。流暢、優雅、個性の三つを兼ね備えるのが理想だが、この辺で書いていて恐ろしくなってくる。そして、最後に来るのが批評性。「それは対象である新刊本をきつかけにして見識を趣味を披露し、知性を刺激し、あわよくば生きる力を更新することである」。
数が増える順にクリアするのが難しくなるが、当の丸谷の書評に最も顕著なのは、四の批評性の素晴らしさ。厖大な知識量に、持ち前の批判精神が相俟って他を寄せ付けない。
もちろん文章の魅力にも事欠かない。書き出しから結びまで、頼まれ仕事も多いだろうに、気を抜かず、最大限にその藝の力を発揮する。たとえば、チェーザレ・パヴェーゼ作『丘の上の悪魔』の書き出し。「若さを失つた読者はこの長篇小説を読んではいけない。青春の風がまともに顔に吹きつけて来て、息苦しくなるから」。読むなと云われれば読んでみたくなるのが人情というもの。レトリックで惹きつけるこの手にのせられて、パヴェーゼを手にとった中年読者は評者一人ではないはず。
書き出しがあれば、結びもいる。「海外篇」だから、翻訳についての評価は欠かせない。ウィリアム・モリス作『世界のかなたの森』の結び、「小野二郎の訳は推奨に価する優れたもの」のような、作家お気に入りの型を持つ。時に「推奨」が「嘆賞」になったりする。書名『快楽としての読書』は、中井久夫訳『カヴァフィス全詩集』の結び、「その偉大な、そしてほとんど未紹介の詩人を、彫心鏤骨の、しかも生きがよくて清新な訳で読む。快楽としての読書といふべきか」からとられたにちがいない。
自薦書評集だけあって評価の低い本はない。ただ、それだけに誉めてなければ訳の評価は高くないと分かる仕掛けだ。内容については、特に出版する側の意向もあるのだろうが、訳書の題名のつけ方に注文が多い。かつて自著の『笹まくら』という題名に文句をつけられた恨みがあるのかもしれない。内容紹介については実直そのもの。ネタバレには注意しながらも、ほぼ粗筋は分かる紹介ぶり。これなら読まずとも人に語れよう。
ジョイスはもちろん、ナボコフ、マルケス、バルガス=リョサ、エーコと愛読する作家の既読の本の書評を読み、なるほど、そういう見方があったか、と改めて書棚に手を伸ばすことも一度ならずあった。一冊で何冊分も読書の愉しみを味わうことのできる至福の書評集である。続きを読む投稿日:2013.03.24
私が読んだことある本は『ペレアスとメリザンド』ぐらいだったな…。
性の表現についての記述がかなり多い気がするけど、それだけ書かなければならないほど、人間にとって性の問題というのは重いものなんだろうなと…感じます。
そして毎回毎回、書評の最後に「〇〇の訳はよくやっている」みたいな賞賛の言葉がついているのだけど、それはもともと訳が素晴らしい本しか紹介してないってことなんでしょうね。たまに「ここが課題」みたいなことが書いてあることもあるけど。
そして、著者のその言葉が信頼できる理由は、著者は原書も読んでるっぽいということ。
原書は原書で、翻訳は翻訳で楽しめるものなんですね。
そして翻訳について。
著者が有名な作品の新訳を出すのは相当勇気がいるし難しいみたいなことを書かれています。
それは確かにそうなんだけど、いち読者としては是非新訳出して欲しいなと思う。
翻訳はやっぱり時代と共に古くなるのです。
古くなると価値が下がるわけじゃないけど、読み解くためにひと手間かかるようになる。
原書を、その言葉を知らなくても読み解けるように翻訳したのに、その翻訳を読み解くのにもうひと手間必要になってしまうのです。
丸谷さんのように、わざと歴史的かな遣いで表現するみたいな手段はあるだろうけど、翻訳者はそういう目的を持っている訳ではないでしょうからね。
長く読み継がれる名訳というのももちろん大事。
だけど今の時代に合った訳というのも欲しいなと思います。続きを読む投稿日:2020.05.29
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