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地の星 なでし子物語
伊吹有喜(著)
,関美穂子(イラスト)
/ポプラ文庫
作品情報
遠州峰生の名家・遠藤家の邸宅として親しまれた常夏荘。幼少期にこの屋敷に引き取られた耀子は、寂しい境遇にあっても、屋敷の大人たちや、自分を導いてくれる言葉、小さな友情に支えられて子ども時代を生き抜いてきた。 時が経ち、時代の流れの中で凋落した遠藤家。常夏荘はもはや見る影もなくなってしまったが、耀子はそのさびれた常夏荘の女主人となり―。 ベストセラー『なでし子物語』待望の続編。
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商品情報
- シリーズ
- なでし子物語
- 出版社
- ポプラ社
- 掲載誌・レーベル
- ポプラ文庫
- 書籍発売日
- 2022.08.04
- Reader Store発売日
- 2022.08.04
- ファイルサイズ
- 1.5MB
- ページ数
- 358ページ
- シリーズ情報
- 既刊3巻
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.3 (9件のレビュー)
-
あなたは、『どうして』○○なんだろう…そんな風に思い悩むことはないでしょうか?
袋小路、手詰まり、そして八方塞がり…人が生きる中ではそんな風にどうにもならない状態に追い込まれることがあります。それは…、学校で、仕事で、そして家庭においてなど舞台はさまざまです。そんな中では、『どうして』○○なんだろう…と思い詰めてもしまいがちです。そこには、すっかりマイナス感情に囚われた自分と向き合う時間が続いてしまいます。
そんな時あなたならどうするでしょうか?信頼している誰かに相談する人もいるでしょうし、少し時間を置いてみるという人もいるかもしれません。もしくは、そんな懸案自体をどうにか先送りして、考えること自体から逃げてしまう、そんな人もいるかもしれません。相談できる人がいればそれでいいですし、時間を置いて解決するのであればそれもいいでしょう。問題から逃げて、逃げて、逃げて、逃げ切れるのであればそれも一つの解決方法かもしれません。しかし、世の中そんなに甘くはありません。逃げたツケはきっと未来のあなたを苦しめることになると思います。この世を生きるということはなかなかに大変です。そうたやすく生きていけるほど世の中は甘くはないのだと思います。
さて、ここにそんな場面において考え方を変えるということを『魔法の言葉』として大切に思う女性が主人公となる物語があります。『江戸の昔から山林業と養蚕業で栄えてきた』『遠藤一族』の『女主人』となった二十八歳の女性を描いたこの作品。かつては英華を誇った一族の『凋落』を見る今に、そんな一族の象徴を守ろうと奔走する女性の姿を描くこの作品。そしてそれは、そんな女性が『「どうして」と思わない。「どうしたら」と考える』その先に、『今とは違う景色が広が』っていくのを見る物語です。
『静岡県・天竜川を遠州灘から車でさかのぼること二時間半から三時間。南アルプスへ続くやまなみのなかに峰生と呼ばれる集落があ』ります。そんな『峰生を見下ろす広大な丘の上にある』『常夏荘』に暮らすのは『女主人』で『おあんさん』とも呼ばれる耀子(ようこ)。『明治時代に米相場と絹の取引で巨万の富を築いた遠藤本家』が築いたその建物群でしたがバブル崩壊の余波を受け、塀の崩れさえ修復できない状態にありました。『この一族の凋落を表している』というその状況。そんな中、東京に暮らす夫の龍治と離れて、耀子は喘息気味の娘・瀬里(せり)、義母の照子、そして昔からここで働いている鶴子と共にこの家に暮らします。そんな耀子は、『十八のとき、まるで溺れるように』『結婚した』時のことを思い出します。『暮らしが落ち着いたら、大学への進学を』と『すすめてくれた』龍治。しかし、『出産と育児でそれはとても難しくな』りました。『これでよかったのだろうか』と『時々、自分の生き方について考える』耀子は、『自立、顔を上げて生きること。自律、美しく生きること』と願ったことが『できているのだろうか』とも自問します。そんな時、娘の瀬里が着物を着て現れました。『王子様がくれたの』という言葉に『瀬里が大叔父と言っていることに気が付いた』耀子は『常夏荘に、立海(たつみ)が来た』と思います。『この十年間、会ったことも、話したこともないのに』と思い『動けな』くなる耀子は、『今から十八年前』のことを思い出します。『東京から転地療養に来た小学一年生の立海』と、『常夏荘の使用人だった祖父のもとで暮らしていた小学四年生の耀子』の運命の出会い。『「ヨウヨ」、「リュウカ君」と呼び合い、身を寄せ合うように』過ごしたあの日々。しかし、『高校卒業後、すぐに龍治の花嫁となった耀子は今年で二十八歳』。龍治の『年下の叔父』にあたる立海はまさか二人が『結婚するとは思い』ませんでした。場面は変わり、そんな立海を迎えたのは継母の照子。突然の立海の来訪に『もっと早うに連絡してくれはったら、お食事の用意もしましたのに』と迎える照子は立海の東京での食事の様子などを訊きます。そんな立海は、『常夏荘を売るという話が出ているんだけど、龍治から聞いている?』と訊きます。『常夏荘を買い取って、公園墓地として開発したい人がいるそうだ』と説明する立海は『常夏荘を手放したら、照子はどうする?東京で暮らす?それとも別の場所で暮らす?』と、続けます。それに『ここ以外のどこで暮らせと?』と照子が返すと『照子や皆がそれを望むなら、僕は…』と言う立海は『そろそろ行かなくては』と立ち上がりました。『江戸の昔から山林業と養蚕業で栄えてきた』『遠藤一族』の象徴とも言える『豪壮な邸宅、常夏荘』の売却というまさかの事態を前に『おあんさん』と呼ばれる耀子の人生が大きく動き出す物語が始まりました。
“遠州峰生の名家・遠藤家の邸宅として親しまれた常夏荘…時が経ち、時代の流れの中で凋落した遠藤家。常夏荘はもはや見る影もなくなってしまったが、耀子はそのさびれた常夏荘の女主人となり ー”と思わせぶりな内容紹介が読書意欲を掻き立てるこの作品。伊吹有喜さんの代表作の一つでもありシリーズ化もされている「なでしこ物語」。そのシリーズの第二段として刊行されたのがこの作品です。しかし、その説明は合っているとも間違っているとも言えるのがこのシリーズの悩ましいところです。というのもこのシリーズは作品の刊行順と時系列が一致しないという問題を抱えているからです。シリーズ通しての主人公はいずれも耀子です。では、彼女の年齢込みで一覧にしてみましょう。
①「なでしこ物語」: 2012年11月刊行、舞台1980年8月〜、耀子10歳
②「地の星 なでしこ物語」: 2017年9月刊行、舞台1998年5月〜、耀子28歳
③「天の花 なでしこ物語」: 2018年2月刊行、舞台1988年秋〜、耀子18歳
問題点がおわかりいただけたでしょうか?刊行年で見れば①→②→③となるシリーズ三部作ですが、時系列で見れば、①→③→②となってしまうのです。伊吹さんの大ファンとしてリアムタイムに刊行直後に読んでいけば当然に刊行順になります。しかし、私のように2019年の暮れから読書を始めた人間には上記の結果論が分かった上での読書となるため選択の余地が生まれます。読書は一度読んでしまえば記憶を消さない限りやり直しはできません。ということで、①を読んだ私は刊行順で②に行くべきか、時系列で③にすべきかを相当に悩みました。ブクログのレビューを見てもそれぞれの選択をした人がそれぞれに意見を述べられており、どちらにも納得感のある説明があるためにかなり迷いました。結局、時系列で読むことにした私は①→③と読み、そして今回、シリーズの最後として②を読むことになりました。そして、読中、読後に感じたのは、これ以外の読み方があるのだろうか?というものでした。時系列で読んだので主人公・耀子が『常夏荘』の『おあんさん』=『女主人』となるまでの経緯も③でよく分かっていますし、『一族の凋落』へと向かう時代の変化も③を先に読んだことでとても自然に感じられます。ということで、シリーズの読み方を迷われている方には、私は時系列に沿って①→③→②と読むことをオススメします。ただ、時系列で読んだ私は刊行順で読んだ時の感情の流れはもう知ることはできません。もしかすると、そちらの方が読み味としては正しいのかもしれません。そうです。あなたも私がかつて悩んだように散々読み順について悩んでください(笑)。これも読書の楽しみです。そして、どんな順で読んでも伊吹さんの代表作であるこのシリーズはあなたを裏切りません。読んでよかった!そんな読後があなたを待っています!
さて、そんなシリーズの時系列での最終作(あくまで現時点です。伊吹さんは続編を匂わされています)となるこの作品の舞台は1980年から18年が経った1998年と時代が進んだ先の物語が描かれていきます。そんな舞台に描かれる『常夏荘』は、①③という前二作からは予想だにしなかった『凋落』ぶりを読者に強く印象付けていきます。『長らく遠藤一族の繁栄の象徴であり、よりどころとなっていた』はずの『常夏荘』、それが、
『平成十年になった今、昔は城壁のように美しかった常夏荘の塀はところどころ崩れて、修理できぬままになっている』。
というように冒頭に描写される様には驚くしかありません。栄枯盛衰、もしくは諸行無常という四文字熟語が頭に思い浮かびます。それは、『バブルと呼ばれた空前の好景気が崩壊していく』中に、『不動産を中心に多角的な投資をしていた遠藤家の家業は手ひどい打撃を受け』たと説明もされますが、まさにさもありなんという状況です。また、③の物語で盛大に催された『四年に一度、旧暦の七夕に』行われる『峰生神社の大祭』の開催が危ぶまれるといった状況まで描写されます。『目玉とも言える山車が老朽化』し、『大規模な修繕か新調が必要』であるにも関わらず、従来のように『遠藤家の当主が多大な寄附』をできなくなってしまっているという状況、さらには『過疎化が進んで、稚児行列をするにも子どもが集まらない』という今のこの国のどこにもありそうな山村のリアルな現状が語られていきます。『広大なこの敷地は撫子紋入りの特注の瓦を載せた白壁が取り囲み、三つの入口がある』というその『建物群は、明治期に作られた城のようだ』とも言われた『常夏荘』の威容に圧倒された①③の物語とこの②の間に大きな溝が存在するのを感じます。その意味でも①→③→②の読み順は自然だと思います。
そして、そんな物語でもシリーズ通しての主人公を務めるのが間宮耀子です。③の物語で遠藤龍治と関係を深めた耀子は、龍治と結婚し、瀬里という娘を持つ身の今を遠藤家の『女主人』として生きています。古の世より、『本家の女主人のことを「おあんさん」と呼んで』きた慣わしそのままに『おあんさん』と呼ばれるようになった耀子。そんな耀子には、①で運命の出会いを果たした立海、そして③で急接近した龍治という遠藤家の二人の男たちとの関係性があります。遠藤龍巳の子である龍一郎は照子と結婚し龍治が生まれました。一方で龍巳は晩年に小夜という愛人を設け、その子が立海になります。年齢は龍治 〉立海であるものの、龍治から見ると立海は叔父にあたるという複雑な二人の関係性。そんな立海と耀子の①での運命の出会いが読者には強く印象付いているはずです。その一方で③の展開の先にある②の物語。その時系列的続編に当たる②では当然に立海や龍治の存在、関係性が気になりますし、どんな登場の仕方をするのかは気になるところです。しかし、物語は予想外な方向に大きく展開します。それこそが、上記もした『常夏荘を売るという話が出ている』というまさかの展開です。物語の象徴とも言える『常夏荘』、そんな『常夏荘』がなくなってしまうとなると、これはもうシリーズ存続を揺るがす一大事です。そして、そこに伊吹さんが用意したのは、『遠藤家の凋落』を類推させもする村人のこんな一言でした。
『おあんさんが峰前にパートに出てる時点で、お察しせにゃいかんね』。
『峰生から一つ浜松方面に山を越えた、峰前という集落にあるスーパー』でパートとして働く耀子というまさかの展開。『ものを売ろうって気はあんのか?あるなら、声をもっと出せ』と注意を受ける耀子というその光景は①→③と読んできた読者には衝撃以外の何物でもありません。しかし、そんな耀子の心の内には違う炎の煌めきがありました。
『守られるだけじゃない、守る力が欲しい。この先、この家に何が起きても流されずに、自分の足で立っていられる力が欲しい』。
そんな強い思いの中に展開する物語は、読み味としては、まさかの”お仕事小説”へと変容していきます。そして、この”お仕事小説”としての力強い物語展開がこの②の最大の見せ所でもあります。それこそが、以下の台詞に現れてもいます。
『おあんさんと呼ばれても、昔みたいに奥様でいられる余裕はありません。常夏荘は今、崩れた塀も直せないでいる。優雅に暮らしていられる時代は終わったんです』。
そんな現代の『おあんさん』を体現する耀子の物語。そんな物語に満を持してあの言葉が登場します。
『「どうして」と嘆いたところで何も始まらない。「どうしたら」と考え続けて前へ進めば、今とは違う景色が広がるはずだ』。
このシリーズのキーワードとも言える『どうして』と『どうしたら』という言葉の登場が、行き詰まりの物語の中に一つの起点を作っていきます。一方で、迫り来る『常夏荘を売るという話』に対峙することになる『おあんさん』耀子。そんな物語は、現時点でのシリーズ最終作としての結末へと向けて、読み味抜群の”お仕事小説”として、それでいて「なでしこ物語」ならではの独特な世界観の中に幕を下ろしました。シリーズ総計1,000ページを超える素晴らしい物語の未来を感じさせるその結末に、読んでよかった!という思いが強く去来するのを感じました。
”白馬に乗った王子様に、ここではないどこかへ連れていってほしい…けど、自力で行くんです(笑)”
そんな風にこの作品の”裏テーマ”が”ときめきとワクワク”だと語られる伊吹有喜さん。そんな物語には、『江戸の昔から山林業と養蚕業で栄えてきた』『遠藤一族』が平成の世に生きる姿が描かれていました。シリーズ三部作としての物語の奥行きがそれぞれの人物像に奥深さを感じさせていくこの作品。まさかの”お仕事小説”として、今までに見ることのなかった、それでいて極めて耀子らしい生き方の選択に心ときめくこの作品。
伊吹さんがこの作品に込められた深い思いを主人公・耀子の最後の選択にはっきりと見ることのできた素晴らしい作品でした。続きを読む投稿日:2023.03.27
正確には3.5かな
悪くない。文章もあらすじも結末も
ちゃんとまとまっていて分かりやすい。
ただ読み始めに感じた恋愛部分が、実際にはほとんどなくて、ちょっと肩透かし
決して悪い意味ではなく
いい意味で…
これなしに物語として成立させたのだから
むしろ立派続きを読む投稿日:2024.03.21
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