女人入眼
永井紗耶子(著)
/中央公論新社
作品情報
『商う狼』で新田次郎賞をはじめ数多くの文学賞を受賞。
大注目の作家が紡ぐ、知られざる鎌倉時代を生きた女性たちの物語。
「大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」
建久六年(1195年)。京の六条殿に仕える女房・周子は、宮中掌握の一手として、源頼朝と北条政子の娘・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉へ入る。気鬱の病を抱え、繊細な心を持つ大姫と、大きな野望を抱き、それゆえ娘への強い圧力となる政子。二人のことを探る周子が辿り着いた、母子の間に横たわる悲しき過去とは――。
「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれる謎多き事件・大姫入内。
その背後には、政治の実権をめぐる女たちの戦いと、わかり合えない母と娘の物語があった。
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この作品のレビュー
平均 3.9 (44件のレビュー)
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続けて鎌倉関連本。今回は大姫入内計画について。
先日読んだ『修羅の都』で京での鎌倉派介入策として送り込んだ九条兼実と丹後局との政争がここでは違う形でクローズアップされた。
最初は丹後局、九条兼実、卿…局の三グループの関係が分からなかったので自分で相関図を書きながら読んだ。
帝の寵愛を受け、男児を生むか女児を生むかでこれほど運命が変わるとは。
主人公は丹後局の命を受け、大姫入内計画を進めるために鎌倉へ下向した女房名「衛門」こと周子(ちかこ)。
なぜ彼女が選ばれたのかと言えば、大江広元の娘だからだ。これが史実なのかフィクションなのかは分からないが、周子が広元の娘であることはこれまでの人生においても、鎌倉での日々においても良くも悪くも影響を与える。
この作品での大姫は『修羅の都』の大姫とはまるで違う。当初は虚ろな目をして何を考えているか分からない、かと思えば突然子供のように激高する扱いの難しい娘だ。それは義高の死による『気鬱の病』からだろうと言われているが、ここで描かれる大姫と義高の物語は現実味があって興味深かった。たった七歳で義高に愛を捧げる大姫よりはよほど理解できる。
当初はこのミッションを成功させ、大姫入内の際には『一の女房となる』立身出世の欲を抱いていた周子だっただけに、大姫の心許ない様子に最初は戸惑い苛立つ。だがやがて彼女の心中を知ると別の想いが湧いてくる。
周子は父・広元が京を見限り鎌倉へ行ってからは母と二人で生きてきた。学問や様々な知識を武器に己の才智で二十年の人生を『魑魅魍魎が跋扈する』京で生きてきたのだ。
丹後局のような『強さ』こそが憧れだった彼女にとって、大姫との出会いは自分の価値観や人生観をひっくり返すものとなった。
ただ大姫の最期は分かっているだけに、周子がその後どうなるのか、京に戻れるのかどうなのかが気になって読み進めた。
大姫と関わるうちに見えてきたのは、北条家なしには頼朝ですら安泰でいられない鎌倉幕府の姿。頼朝・政子夫婦、政子と大姫を始めとする四人の子供たちの関係、そして鎌倉での勢力争いは実に危なっかしい。
『鎌倉もまた都と同じく魑魅魍魎が跋扈する』場所であったことを知る周子だった。
政子は…ただただ恐ろしい。この政子はこれまで読んできたどの作品とも違う、ダークというのとも違う、別の怖さがある政子だった。
タイトルの『女人入眼』は九条兼実の弟で天台座主の慈円の言葉。
『男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは女人であろうと私は思うのですよ。言うなれば、女人入眼でございます』
『泰平の世を寿ぐ晴れやかな気持ち』で聞いてから二十数年後、それが全く違う意味になっているとは。
丹後局が都で繰り広げた『女の戦』など愛らしいものに見える。彼女は男の戦を『碁石をまとめて碁盤の上にばらまいてしまう』と表現したが、鎌倉の戦は碁石を蹴鞠で碁盤ごと倒してしまうようなものだった。
大姫の死の真相がどうなのかは分からない。『修羅の都』の大姫の死も驚かされたが、こちらもまた斬新で辛い話だった。周子が鎌倉でやったことは意味がないどころか苦しみを増しただけだったのか。
周子のその後がまた興味深い。あまりにも苦すぎる鎌倉での日々を経て、丹後局とも政子とも違う強さを手に入れたということか。周子が長寿だったら鎌倉の凋落の兆しを見て留飲を下げたかも知れない。続きを読む投稿日:2022.06.02
読み始めた当初は進まずだったが、舞台が鎌倉に移ってからが早かった。鎌倉殿の13人を思い出しながら、鎌倉の大姫と義高をめぐり、あまりスポットがあたらない周子と海野幸氏目線の鎌倉をみる。
御台所政子の描写…に圧倒される。
都で囲碁を打っていたら、鎌倉から蹴鞠が飛んできて、碁盤ごと倒す。碁盤での勝敗最早意味をなさない、なるほど。続きを読む投稿日:2024.04.07
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