この作品のレビュー
平均 4.5 (21件のレビュー)
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歩道橋といっても日本で普通に見る、あのただの立体横断歩道とは異なる。
台湾の台北市・中華路には1961年から92年代まで「中華商場」という大型商業施設があった。それは鉄筋コンクリート三階建の建物が南…北に台北駅の手前から愛国西路まで1キロにわたって立ち並び、それぞれの棟に〈忠〉〈孝〉〈仁〉〈愛〉〈信〉〈義〉〈和〉〈平〉という名前がついていた。商場は中華路の車道の真ん中に建てられていたため、中華商場の建物を南北に結び、同時に車道と鉄道を東西に跨ぐ歩道橋が中華商場各棟の二階で直結し、幅も広く、沢山の露店商で賑わったらしい。
これは短編集であるが、それぞれの話の主人公たちは皆、子供のころ商場で育ち(みな商場のお店の子供)、大人になって回顧するという設定だ。そして記憶の中の共通項が、歩道橋の露店でマジックを行っていた“魔術師”だ。
商場の住人達は商場の中に店兼住居を構え、そこの子供たちの行動範囲は殆ど商場の中ばかり。各店(家)にトイレはなく、汚い共同トイレを使用している。外で親に秘密の行動したいときは「う○こ行ってくる」と言って家を出る。
占いやさんとか筆耕やさんとか本を雑に積み上げただけの古本屋さんとか、古切手やさんとか味は絶品だけどいつも店の親父が丼鉢に親指を突っ込んで品を差し出す牛麺やさんとか…清潔ではないが古き良き活気に満ちた台湾の「商場」が描かれている。
反面、物悲しさに溢れている。主人公の商場の子供達の家庭はだいたい不幸なのだ。初めは商売が上手くいっていたのに、お父さんが飲んだくれになって、そのお父さんを探しに行ったお兄さんが電車に轢かれ、そのショックでお母さんまで早死してしまったり、母親が父親にDVを受けるのを見てられなくて、家出してしまったり、何かの事情で両親が居なくて親戚の家で遠慮しながら暮らしていたり…。商売が振るわないから、子供に歩道橋で露店を出させる親もいる。
魔術師は歩道橋の屋上に寝泊まりしていて、普段はキットさえあれば誰でも真似出来るような安っぽいマジックを披露しているのだけれど、たまにゾワッとするような“魔術”を行う。ある時、母親にDVばかりする父親に耐えかねて家を出た少年に言う。「女子トイレの一番奥の個室の壁に描かれているボタンを押してごらん。」そのとおりにすると、トイレの個室がエレベーターに変わって、あるはずのない99階にたどりつき、それから3ヶ月くらい、その少年は透明人間になった。家族の店の前に立っていても全く気づかれず、家族は血眼になって彼を探し続けていた。結局、家族の所に戻ってきたのだが、その“魔術”はその後の彼の悲しい運命を予言していたのだと、40歳を過ぎた同窓会の後で分かる。
何なのだろう。この、行ったことも見たこともないのに(もしかしたら映画か何かで見たことぐらいあるかもだけど)、懐かしい感じ。確かに主人公たちと私は、ドンピシャで同じ世代なのだけれど、当時の台湾と日本では大分違う。
魔術師は言った。
「世界にはずっと誰にも知られないままのことだってあるんだ。人の目で見たものが絶対とは限らない。」
「ときに、死ぬまで覚えていることは、目で見たことじゃないからだ。」
目で見てなくても、私は中華商場を“覚えている”のかもしれない。
続きを読む投稿日:2022.07.03
商場が舞台なので賑やかな内容と思いきや、常にシーンと静まり返った雰囲気。どこか夕立前の雲の鬱屈さを彷彿とさせた。読めば読むほど哀愁漂う当時の台湾がありありと浮かび上がってくるようで、なんだか不思議な感…覚だった。
子どもの記憶の曖昧さが相まって、より哀愁漂う雰囲気になっていたと思う。個人的には「九十九階」と「ギター弾きの恋」がお気に入り。続きを読む投稿日:2024.01.20
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