ほんのこども
町屋良平(著)
/講談社
作品情報
横溢する暴力と身体、無垢なる魂の軌跡。「やさしく恋するみたいに他の人体を壊す」
元同級生あべくんからのメールにあった文章から着想したシーンをつないで、
商業作家はあべくん自身の人生を小説にしようとする。
父による母殺傷事件、両親がころしころされていたあべくんはやさしく恋するみたいに他の人体を壊す。
殴られても反発するようによろこぶ身体。やさしさや暴力で愛撫し合い痛みをこらえるようによろこぶ身体。
物語にかえろうとするから人生はつらく、日常が重すぎてひとをころしたくなる。
恋人をころして自分も死んだところで折り返し、あべくんの物語は無限に再生を繰り返す。
小説家があべくんなのかあべくんがかれなのか、やがてふたりの境界は曖昧になり、問い自体が意味を失う。
言葉を与えられていない領域に光をあて小説は紡がれ、大量虐殺の記憶が時空を架橋しやがて物語は侵蝕される。
――世界文学に接続する芥川賞作家の真骨頂・新境地。――
鴻巣友季子さん絶賛!読書量と強靭な知性に瞠目!
“すべてのポートレイトは画家の自画像であり、すべての小説は自伝を目指すと言う。おそらくすべての小説はどこかしら、一人称の失恋なのだ。”
“小説でなにかを「再現」することは、過去のよみがえりのように見えて、未然の予告なのだ。すべてのフィクションは自伝を目指し、すべての自画像は他人の顔をしている。”
“かきあうこと、傷しあうこと、死にあうこと。「かれ」と「私」、その人称空間のよじれは経験と真実味との落差そのものだ。落差から、小説は来る。”――鴻巣友季子(翻訳家)
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この作品のレビュー
平均 3.4 (5件のレビュー)
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評価の仕方が分からず、感想の書き方もわからない。音楽的な、文学的な。怒涛の散文に圧倒され、誰が誰かも理解できないまま、もう理解することも辞めてしまって、日本語が日本語でなくなってしまった。
それでも…風景や匂いや音なんかは感じ取れて、話は進んで行くけど、やっぱり通常読書という行為から得ようと思う「その本の意味するところ」なんてものは最後まで読んでも皆目読みとることは出来ずに、ただただ圧倒されてしまう。
こんな本がまぁ世界に1冊、こんな本を書く人が1人いてもまぁいいかなって感じ。あまり頻繁には出会いたくないけど。
病みつきになるのか、うんざりするのか、芥川賞を取った作品に手を出してみるべきか、非常に悩ましい。本著の再読だけは、とりあえずはやめておこう。続きを読む投稿日:2022.02.02
「だれも信じていないはずの出来事が起きる。」
昨日読み終わった町屋良平さんの最新作『ほんのこども』の一節です。(P237)
なんとなく近々の「ロシアのウクライナ侵攻」の驚愕?憂慮?を想起してしまいま…す。
予言的ととってしまいそうです。まあ、文学は普遍性が感動を与えるものですから。
その続きの文章はこうです
「だれも信じていないはずの出来事が起きる。出来事が世界を圧倒し、信じるためのフィクションが戸惑う。物語の現実性が、現実の物語性とぶつかって、ありえてはいけない場が山脈のようにうるうる浮きあがる。こんなのは物語の空中交換が孕んだ悪辣の延命というか、そののびた大地で果たされる妄言の現実化といった、フィクション化された現実の間隙をつく自暴自棄と憎悪のまざった歴史的忘我なのでは?」
なんだかわかりにくい文章で、ほとんど全編このようでしたから読むのに苦労(時間がかかり、図書館借り出し期間ギリギリ)でしたが、妙に惹かれてもいくんです。わたしは文間から立ち上るものを読むのが好きですが、そんな余裕がないくらいびっしりと書かれた文面、よーし読みこなしてやれって! 笑
ストーリ展開は、語り手の友人あべくん(主人公?)は成長過程に虐待児だったので、長じて暴力的に生きるのですが、そのあべくんの志向(嗜好)がホロコースト関係の書を読むのを好み、語り手も彼を知りたくて同じように読んでいき、哲学するように、あべくんを読み解いていくのです。しかも、私小説にして書きたいという、書き手(小説家)という設定ですからややこしいのでした。
傑作なのかどうか、わかりません、でも、ぼんやりわかればいいんじゃありません!?
ところでこの本の前に深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』を読んだのですが、それぞれの本のカバーイラストを描いたのが同じ小山義人さん。何とも言えないぞわっとした印象をうけます。
何を読んでも「現況」を連想してしまうループにはいってしまったのか!と思っています。続きを読む投稿日:2022.04.26
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