地球にちりばめられて
多和田葉子(著)
/講談社文庫
作品情報
「国」や「言語」の境界が危うくなった現代を照射する、新たな代表作!
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る――。
誰もが移民になりえる時代に、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。
「国はもういい。個人が大事。そこをいともたやすく、悲壮感など皆無のままに書かれたのがこの小説とも言える」
――池澤夏樹氏(文庫解説より)
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商品情報
- シリーズ
- 地球にちりばめられて
- 著者
- 多和田葉子
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2021.09.15
- Reader Store発売日
- 2021.09.15
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 312ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (28件のレビュー)
-
ドイツ在住の作家の描く(日本にとっては)ディストピア小説。代表作「献灯使」と違い、不思議とのんびり明るい。移動時間に少しずつaudibleで聴いて約3週間、約9時間でやっと終えた。矢野敦史さんの朗読で…、女性語り部分は違和感あるが、途中女性に変化しつつある人も出てくるので、これはこれで良かったのかもしれない。
第一章はクヌートが語り手。デンマークのコペンハーゲン大学の言語学者。テレビで見て、自前の言語を作ったヒルコという女性と知り合う。忽ち彼女に魅了される。クヌートは彼女の「今や消滅した国の言語を話す人を訪ねる旅」に付き合うことにする。
第二章はヒルコが語り手。どうやら1人語りの時は人工語ではなくて日本語を使ってるよう。英語は話せるけど、話さない。移民状態の彼女は、英語話者は強制的に米国に送られると恐れている。日本から外国へ留学している時、人づてに「日本は消滅したらしい」と聞く。詳しくは誰も教えてくれない。何故か、最後まで分からなかった。
第三章は北ドイツ在住、学生のアカッシュが語り手。顔は明らかにインド人。女性化進行中。
第四章は北ドイツ、博物館学芸員のノラが語り手。ドイツ語、英語を話し、数日前にノルウェーに行ったきりの寿司職人「テンゾ」の自称恋人。一行は日本人らしき「典座(てんぞ)」を探しにオスローに行くと決める。
第五章はテンゾが語り手。実は彼はグリーンランドのエスキモー人、ナヌークだった。彼の半生が語られる。
物語はこの後、第十章まで続いて、フランス・アルルまで飛んで、スサノオという通り名の、福井で少年時代を過ごしたまごうことなき日本人も登場したりする。
みんな、名前を名乗った時点で、デンマーク人なのか、ドイツ人なのか、インド人なのか、エスキモーなのか、判明するところが面白い。それはそうだ。スサノオは明らかに日本人だ。ヒルコは学者らしい偏った知識を持っていて、テンゾと聞いて直ぐに禅宗の食事係を意味する「典座」を連想し、「彼は日本人よ」と推測を述べた。
デンマークって何処?複雑な島国。地図を見てやっと、ドイツにもノルウェーにも国境を接している、アイスランドは元植民地だったことを知った。さまざまな人種が国を跨いで移動して、さまざまな言語が飛び交い、そして少しずつわからないけど、少しずつ何故か理解が進んでゆく。AIが進んだいま、更に国を跨いで言語は、人類を繋げるツールになりつつあるのかもしれない。
スサノオの回想を介して、近未来の日本も少し分かる。
どうやら、少年のときでも、福井の海から魚はとれなくなっていて、故郷PRセンターでは、ロボットが釣りをしたり、網をかけたり、再稼働された原発の宣伝をしていたりしていたていた。文脈から推察するに、スサノオやヒルコが海外にいる時、かなり深刻な原発事故が起こり、日本は例外なく全員死んだ模様だ。
ドイツにはグリュック(幸福)という地名が多くあり、グリュックスタット(幸福の町)という処では、昔原発が出来そうになって反対運動で有名になったのだそうだ。以来、ドイツ人はグリュックと聞くと、原発を連想するのだそうだ。
そういう描写の暫くあとに「福井という言葉は、魚という幸福が井戸のように無限に出てくる地名だ」と説明がある。あゝ「原発銀座」と言われた「福井」も、本当に原発事故があった「福島」も、わたしたちも「福」と聞けば、原発事故を思い出しても、不思議はないのではないか、などと「小説に書いてない連想」をしてしまう(そう言えば、「福竜丸」という原爆に遭った漁船もあった)。
そういう「言葉遊び」がたくさんある。
序でに「小説に書いてない連想」ということで、連想すると、とうとう何故、どの様に「(日本らしき国が)消滅したのか」謎のままなのだけど、真面目に文章に即して考えると、ヒルコも、スサノオも、母国が消滅したらしい、ということは思っているけど、家族知人がどうなったのか?全く知らないし、ほんとはどうしてこうなったのか全く知らないのである。どうやら、その時外国にいたわずかな日本語を母国語とする人々が、世界に散らばっているだけの様だ。そんなことが「あり得るのか?」どんな深刻な原発事故でも、たくさんの移民が世界に散らばることぐらいはできるはずだし、地球に放射能汚染が広がって、外国人がこんなにのんびりしているはずがない。わたしは連想する。近未来だから、もしかしたら、事故が起きた時、チェルノブイリみたいに、「日本そのものをコンクリート詰めにした」のかもしれない。そうやって、海ごと放射能を地球の一箇所に閉じ込め、世界中の人々が、そのことを見ない様にしたのだ。だから、数十年後のヒルコ、スサノオが情報から遮断されていることも、クヌートたちが、一切「日本」という言葉自体を最後の最後まで口にしなかったのも理解できる。これは余談でした。
でも、言語が存在する限り、国は消滅しないと、わたしは思う。
続きを読む投稿日:2024.05.08
池澤夏樹とリベラルな味付け。
池澤夏樹の最近の小説『きみのためのバラ』やなんかも、まづ海外みたいなノリから始まる(案の上といふか、解説も池澤である)。冒頭の時点でヨーロッパばかり出てきて、通俗小説風…。舞台はすこし未来。かんじきにナビがついてゐる(これがSFとして現実感があるかと問はれれば、微妙)。
語り(文体)は軽くて、すこし魅力的だ。
主人公は章ごとに変る群像劇。ただしこの登場人物たちがいちいちクセが強く思へる。
1章。移民をテーマにした卒論の、ひまなデンマークの学生「僕」(=クヌート)。寝っ転がりながら、ふとTVを見る。言語を新しくつくったHirukoといふ女性が出てゐて、なぜか惹かれて放送局に電話をかけてしまふ。そしてHirukoと会ひ、鮨がフィンランド料理かどうかとか、年金問題のために日本から脱出したムーミンとか、キザな会話がつづく。
リベラルの味がする。
いかにも導入らしい導入だが、フィクションくさい。いままで放送局に電話をかけたことのない男が、急に思ひ立って電話をかける。どうしてHirukoにそこまで惹かれたのか(=なにやら言語に性欲を感じてるらしい)。Hirukoとの初対面のやりとりも敬語ではなく、タメ口。絵空事を承知で読む娯楽小説みたい。
3章。主人公はインド系のアカッシュ。ここでもまづ日本の皮肉が語られる。アカッシュの生物的性別は男だが、ジェンダーは女。しかもベジタリアン。さらにクヌートに一目惚れして、Hirukoに嫉妬してゐる。
まあ、なんだか都合がよくて作為に満ちてゐる。
和尚やなんかの言葉に、クヌートとHiruko、アカッシュのあひだで方言論争・言語論争が始まるが、起源が日本か否か、正直わたしは感心がない。井上ひさしの『東京セブンローズ』みたいに、一歩誤れば、日本語ナショナリズムになりかねない。
言語はその国の文化背景を理解するうへで大事だが、あくまでグローバリズムにおいて言語は道具だ。多様性を認めつつ、グローバリズムを推進することなど、はたしてリベラルにとって可能なのか。続きを読む投稿日:2024.05.07
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