- 最新巻
その本の物語 下
村山早紀(著)
,こよ(イラスト)
/ポプラ文庫ピュアフル
作品情報
どこにも行けない。まるでガラスの水槽の中にいるみたいで、すぐに息が苦しくなって――。南波は、学校を休み、書店でアルバイトをしながら、病院に足を運んでいた。きょうも病室で朗読をする南波、うっすら笑みを浮かべ眠り続ける沙綾。だが、魔女の子ルルーの長い冒険物語が、いよいよ終わりに近づいたとき、誰も知らない新たな物語が呼び出された――。傷ついた魂の恢復と人間への信頼を謳いあげた、傑作長編ファンタジー!
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商品情報
- シリーズ
- その本の物語
- 出版社
- ポプラ社
- 掲載誌・レーベル
- ポプラ文庫ピュアフル
- 書籍発売日
- 2014.07.01
- Reader Store発売日
- 2021.06.11
- ファイルサイズ
- 8.5MB
- ページ数
- 351ページ
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.2 (35件のレビュー)
-
あなたは、『魔女とか魔法とか』を信じているでしょうか?
『魔女』と聞いて何を思い浮かべるかは人それぞれだと思います。そもそもそんなもの物語の中の存在と一笑に付される方もいらっしゃるでしょう。しかし、…中世ヨーロッパにあっては、『魔女』の存在を大人たちが信じた先に『魔女狩り』という蛮行を繰り返したことは歴史に深く刻まれてもいます。未知なるものを恐れ、噂が恐怖の感情を呼ぶ中に追い詰められていった数多の人たち。なんとも悲しい人間の歴史の一コマです。
そして時は流れ、『魔女』は国境を越え、この国のテレビ画面を席巻する時代が訪れました。「魔法使いサリー」、「魔法の天使クリィミーマミ」、そして「魔法少女まどか☆マギカ」と数多のアニメ作品が子どもたちの心を虜にしてきました。あなたもそんな作品を見て心ときめかした過去があるのではないでしょうか?
さてここに、1999年から刊行された「風の丘のルルー」という『魔女』が活躍する作品を新たに書き下ろされた物語に鮮やかに融合させた物語があります。十二歳の『魔女のルルー』が活躍する様を見るこの作品。そんな物語を包みこむ外側の物語の主人公・南波の祈りを見るこの作品。そしてそれは、『世界はいつだって、魔法と奇跡に満ちている』という言葉を読者のあなたも噛み締める物語です。
『お先に失礼します』と、アルバイト先の書店を後にしたのは主人公の南波(みなみ)。そんな南波は『頭上にある神棚に目がとまって、軽く黙礼を』します。『祈ることや、願うことってたぶん、人間には必要なんだ。神様とかそういう存在が、本当にいるかいないか、わたしにはわからないけれど、でも』と思う南波は『手首に巻いた手作りのミサンガ』を見つめます。『我ながらセンス良くできてるんだけど、ちょっと丈夫に作りすぎた。これじゃあいつになったら切れるかわかりやしない』と『右に二本、左に三本。そして、願い事はたったひとつ。みんな同じ』と思う南波。『駅の裏手』にある『小さな暗い空き地』へと立ち寄った南波は『ジーンズのポケット』から『白と水色、ピンクと緑のチョークを取り出』します。『草むらの中に身を屈めて、月の光の中で、壁に花を描』くと、『ゲリラは誰にも姿を見られてはいけない』とその場を後にする南波。『チョークで描いた花の絵だもの、そんなに長持ちはしない。でもきっと何人かはあの花を見て、笑ってくれるだろう』と思う南波は、『街に花の種をまく人のことを、「花ゲリラ」というんだと教えてくれたのは、沙綾(さあや)だった』、『最初に描いたのは、いつだったろう?』と記憶を辿ります。『十二月の終わりに沙綾が入院したときいて、年が明けてもずっと退院しないときいた頃?…いやその後の、どうにも目が覚めないらしいと、病院であの子のお父さんにきいた日の夜?』と思う南波は、それが『寒い夕方だった。古い小さな公園の、沙綾がずっとそこでわたしを待っていたという公園のベンチで、わたしはひとり座っていた』と過去を振り返ります。そんな公園で『沙綾は妖精を見たことがあるといっていた』と思い出す南波。それは『ふたりだけの秘密』でもありました。そんな『あの日』、『自分にクリスマスプレゼントに買った』というクレヨンで『街灯の明かりの下で、花の絵を描いた』南波は、『何で自分なんかが、元気で生きていて、呼吸をして、目を開けているんだろう、と』思います。『あの子は眠ってしまったのに』と思い『小さい子みたいに泣きながら帰った』南波。そして、今の南波は『それからだった。わたしは街に、花の絵を描くようになった』と思います。『初夏の夜風の中を、急ぎ足で歩』く南波は、『もう少ししたら、向日葵を描こう』、『あの子が一番好きだった花を』と思う南波。『街にたくさん向日葵が咲けば、眠っているあの子も喜んでくれるだろうか』と思う南波は、『六月の昼下がり。夏が近い、白い光が差し込む病室の中で』『また古い本の頁をめく』ります。そして、『ヨーロッパの北の方の、辺境の風野村のそばの風の丘にある小さな家』に暮らす『小さな魔女』の物語を南波が朗読する先の物語が描かれていきます。
“きょうも病室で朗読をする南波、うっすら笑みを浮かべ眠り続ける沙綾。だが、魔女の子ルルーの長い冒険物語が、いよいよ終わりに近づいたとき、誰も知らない新たな物語が呼び出された”と内容紹介にうたわれるこの作品。「その本の物語」という書名に含まれた指示代名詞が何を指すのかがとても気になるこの作品。そんな指示代名詞が指す『その本』とは村山早紀さんが1999年から2004年にかけて7巻に渡って発表された「風の丘のルルー」という作品を指しています。この書名を聞いて、あっ!と思い出された方もいらっしゃるかもしれません。そう、「風の丘のルルー」は、児童文学としてポプラ社から出版された作品であり、子供の頃、夢中になったという方も多々いらっしゃるのではないでしょうか?この作品はそんな「風の丘のルルー」の物語から四つの物語を「その本の物語」という作品の中に”サンドイッチ”のように挟み込んで一つの新たな作品として構成されています。そして、表紙に『下巻』と記されている通りこの作品は上下巻から構成された「その本の物語」の後半に当たります。そんな作品の『上巻』を私が読んだのは二年前のことになります。当時と今ではレビューの書き方が変わってしまった私ですが、極力『上巻』のレビューと違和感ない形にまとめていきたいと思います。まずは、上記で触れた”サンドイッチ”構造の説明のためにこの『下巻』の構成に触れてみましょう。
・〈★頁の間の物語3〉
→ 『わたしは街に、花の絵を描くようになった』という日々を送る南波は、『あの子が一番好きだった花』である『向日葵を描こう』と思います。『街にたくさん向日葵が咲けば、眠っているあの子も喜んでくれるだろうか』と思う南波。
・〈第3話 風の少女〉
→ 「風の丘のルルー」の第四巻〈魔女のルルーと風の少女〉が収録されています。
・〈★頁の間の物語4〉
→ 『わたしはどうして、あの日、公園にいかなかったんだろう』、『わたしはどうして、あの子を守ってあげられなかったんだろう』と『沙綾が目覚めなくなってから、何度も思』ってきた日々を振り返る南波。
・〈第4話 赤い星の杖〉
→ 「風の丘のルルー」の第五巻〈魔女のルルーと赤い星の杖〉が収録されています。
・〈★頁の間の物語5〉
→ 『七月五日。病院の七夕のイベントがある』と『浴衣を着て、病院にいった』南波は、『今日は本を開かない。七冊もう全部、読み切ってしまったから』と思いつつ『沙綾のそばに腰を下ろ』します。そして、『子どもの頃に、沙綾にきいた物語を語』り始めた南波。
・〈エピローグ〜つばめ〉
→ 『そして七月が終わり、八月になり…』というエピローグが描かれていきます。
上記でお分かりいただけるかと思いますが、この作品オリジナルの物語が、「風の丘のルルー」の二つの物語をまさしく”サンドイッチ”のように挟み込む構成となっています。小説「その本の物語」の中に小説「風の丘のルルー」が挿入されていくという構成は、まさしく”小説内小説”を作品に取り入れたものです。この世には数多の”小説内小説”を含む作品があり、私はそれらを愛好しています。もちろん、”小説内小説”と言ってもその構成は多々あります。例えば、恩田陸さん「三月は深き紅の淵を」のように同名の小説が名前だけ小説内に登場するというものから、辻村深月さん「V.T.R.」のように「スロウハイツの神様」という作品内に”小説内小説”として登場した作品がリアル世界に実際に刊行されたというものまでその扱われ方はさまざまです。そんな中でこの村山さんの試みはリアル世界に刊行されている作品を全てではないとはいえ、別の小説の中にそのまま収録してしまうという大胆なものです。しかもそれだけでは終わりません。村山さんは、既刊の「風の丘のルルー」の世界観を、外側に新たに用意した物語で包み込んだ上で、今回新たに創造したストーリーとの融合によって新たな一つの物語として構築し直すというとても大胆な試みをされているのです。もちろん、「風の丘のルルー」は現在でも入手することが可能です。しかし、文庫本でも4冊に分かれた児童文庫を入手する必要があります。名前を聞いて懐かしいけどそこまではしたいとは思わない、でも読んでみたい!そのような需要を取り込むのがこの作品です。しかも、”サンドイッチ”構造を取るこの作品は大人が読んでも十二分な読み応えを感じさせる物語が外の物語として存在します。そして、外側の物語に挟み込まれた、本来児童文学である「風の丘のルルー」から持って来た”小説内小説”も読み応えを強く感じさせてくれるのです。児童文学であることをすっかり忘れて夢中になる読書、これはこの構成がなせる技であり、村山さんのこの試みは高く評価されるべきだと思います。
では、『上巻』の時と同様にこの作品に挿入された「風の丘のルルー」の二つの物語をご紹介しましょう。『わたしは人間が好きなの。たとえ人間から嫌われても、人間の友達がひとりもいなくても、きっとわたしは生きている間、人間を好きでい続けるわ』と語る『魔女のルルー』の物語です。
・〈第3話〉: 『魔女といえば、空飛ぶほうきがつきもの』と言われたことを思い出すルルーは、『魔法書で勉強しながら、一本のほうきを作りあげ』ると『空へと舞い上がり』ます。そして、『湖畔』の街へと辿り着いたルルーは、ジャンという男の子と出会います。ルルーが『魔女』だと知ったジャンは『ギルバート様の目も、みえるようにしてくれるよね?』と懇願します。そして、ギルバートを訪ねたルルーは『荒れ果て』た家に暮らすギルバートを見て『言葉を失い』ます…。
・〈第4話〉: 大昔に『氷の吐息で街を滅ぼそうとした』竜の伝説が残る『水晶の街』にどうしても行きたいと思うルルーは『遠くの人とお話ができる』道具を家に残し『魔法のほうき』で旅立ちます。辿り着いた街で『片目の犬の幽霊』が出ると聞いたルルーは、竜と戦い死んだ飼い主を探して犬が彷徨っていることを知ります。翌日『竜の塔』へと出かけたルルーは天井に『赤い宝石を飾った杖』を持つ乙女の姿を目にします。一方『ガラスの棺』の中から『竜の顔』が浮かび上がり…。
二つの物語はいずれもルルーの『魔女』としての生き様を見るものです。そんな『魔女』としての役割を果たそうとするルルーは『風の丘』に『くまのぬいぐるみ』のペルタと共に暮らしています。
『ルルーはまだ子どもの魔女です。百二十年を超えるほど生きていても、心はみた目の通りの子ども、人間の十二歳と一緒なのです』
年を取る歳月に人間とは10倍もの開きがある中に、心は人間の十二歳と同じというルルー。そんなルルーの前にはさまざまな難局が訪れます。この作品は元は児童文学です。幼き少年少女たちがハラハラ、ドキドキしながらルルーの活躍を信じて精一杯に応援しながら読み進める姿が目に浮かびます。その一方で、まるでそんな少年少女たちと同じように手に汗握りながらルルーの活躍に心の中で声援を送っている自分自身に気づきました。これは大人向けの小説を800冊以上読んできた私にもそうそう経験することのないことです。村山さんの作り上げる素晴らしいファンタジー世界の前では対象年齢などという愚かな概念は意味をなさないのです!
『わたしには、好きになった人達の ー 優しい人間の思い出がいっぱいあるもの』
そんな思いの先に人間を愛し、人間のために力の限りを尽くしていく『魔女のルルー』。物語は”サンドイッチ”にされた物語の先、いよいよ外側の物語の決着へと進んでいきます。それは、『上巻』『下巻』併せて文庫本650ページという圧倒な物量の物語をここまで読んできた読者を待つ感動的な結末です。この作品は「風の丘のルルー」という作品が、「その本の物語」という別の作品の中に記される”小説内小説”の構造を取る物語です。そして、そんな物語は〈★頁の間の物語5〉にてまさかの完全融合を見せるのです。内側の物語と外側の物語が奇跡の融合を見せるその瞬間。
『世界はいつだって、魔法と奇跡に満ちている』
そんな言葉が納得感を持って読者の心に深く深く刻まれていくその感動的な結末に、素晴らしい作品を読んだ感いっぱいの喜びの中に静かに本を置きました。
『魔女といえば、空飛ぶほうきがつきものですものね』
『十日かかって』、『魔法書で勉強しながら、一本のほうきを作りあげ』たという『魔女のルルー』。この作品では「風の丘のルルー」という既刊の物語を”小説内小説”として外側の物語に鮮やかに融合させていく素晴らしい物語世界が描かれていました。村山さんの作り上げる極上のファンタジーに酔うこの作品。『わたしは人間が好きなの』と人間のために奮闘するルルーの健気な姿にあたたかいものが込み上げるこの作品。
汚れた心がどんどん洗い流されていく清らかな読書。やさしい思いに心が満たされていくあたたかな読後感。
そう、まさしく絶品!
村山早紀さん、このような素晴らしい作品をありがとうございました!続きを読む投稿日:2024.05.15
「風の少女」
死んでほしかった訳は。
どうしても必要だったとはいえ、その行為がバレたくないからという理由で危険な目にあわせてたなんて最低すぎるだろ。
「赤い星の杖」
長年旅を続け辿り着く。
幼い魔法…使いと魔女の二人が揃っていなければ災厄は再び訪れ、あの街どころか世界が終末を迎えていたかもしれないよな。続きを読む投稿日:2023.09.21
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