この作品のレビュー
平均 4.2 (62件のレビュー)
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1.著者;遠藤氏は小説家。12歳の時に伯母の影響でカトリック協会で受洗。日本の風土とキリスト教の対峙をテーマに、神や人種の問題を書き、高い評価を受けた。「白い人」で芥川賞、「海と毒薬」で新潮文学賞・毎…日出版文化賞、「沈黙」で谷崎潤一郎賞・・等を受賞。「狐狸庵山人」の雅号で軽妙洒脱なエッセイも多数執筆。ノーベル賞候補に上がる程で、今でも読み継がれている作家の一人。
2.本書;世代・考え方・環境が異なる5人の男女が人生の意味を求めて、インドのガンジス川ツアーに参加。深い悩みを抱えた5人がツアーで巡り会い、道しるべを探し求める物語。遠藤氏は、その一人一人に自身の人生を重ねている。カトリックの家に生まれ育った大津、結核を患う沼田、この二人は遠藤氏の人生の一部だ。遠藤文学の礎となるキリスト教、汎神か唯一神か。「深い河」は最終章。十三章構成で、毎日芸術賞受賞。氏の遺志で「沈黙」と共に、棺の中に納められた。
3.個別感想(印象的な記述を3点に絞り込み、感想を添えて記述);
(1)『六章;河のほとりの町』より、「(大津)日本人として僕は自然の大きな命を軽視することには耐えられません。いくら明晰で論理的でも、このヨーロッパの基督教の中には生命の中に序列があります」・・・「(大津)神とはあなた達のように人間の外にあって、仰ぎ見るものではないと思います。それは人間の中のあって、しかも人間を包み、樹を包み、草花をも包む、あの大きな命です」「(南仏の修道院の先輩)それは汎神論的な考え方じゃないか」
●感想⇒「ヨーロッパの人達の信仰は理性や意識で割り切れぬものを、受け付けません」とあるように、欧米の考え方は、道理や論理を重んじます。日本はこの合理主義的な思想を学び、戦後に世界に類を見ない経済発展を成し遂げました。しかし、物的豊かさを享受した半面、心の豊かさを満たしたかは疑問です。我が国は経済的に豊かになったと思いますが、競争社会を助長し、貧富の差が拡大したのも確かです。宗教は多くの人々を救うと同時に迫害や対立を生じさせています。今も宗派の違いにより、各地で民族問題や地域紛争が起きています。「人間を包み、樹を包み、草花をも包む、あの大きな命」こそ、遠藤氏の宗教観(どの宗教もお互いに寛容であるべきだ)であり、耳を傾ける時だと思います。
(2)『十章;大津の場合』より、「(磯部)人生というものはまず仕事であり、懸命に働く事であり、そういう夫を女もまた悦ぶと考えてきた。そして、妻の中に自分に対する情愛がどれほど潜んでいるか、一度も考えなかった。・・・だが臨終の時、妻が発した譫言(私必ず生まれ変わるから、この世界の何処かに。探して、私を見つけて、約束よ)を耳にしてから、磯部は人間にとってかけがえのない結びつきが何であったかを知った」
●感想⇒「人生というものはまず仕事であり、懸命に働く事であり、そういう夫を女もまた悦ぶと考えてきた」。世間には、私を含めこうした考えの人が多いと思います。私は本書を読んで、遠藤氏の持論に覚醒しました。生活と人生は違う事を。「生活は優劣の差がつく競争社会、人生は権力差がなく競争の無い社会」です。生活は能力や立場が平等でないが、人生は平等なのです。「人間にとってかけがえのない結びつき」即ち、人と出会いながら、本当に心を通わせられる人と交流し、今を生きることが大切。日本社会では、欧米のモノ重視と個人主義が横行し、孤独になって苦しんでいる人がどんどん増えていると思います。宗教に限定する事無く、誰にも言えない苦しみを分ちあい、寄り添えるモノがあるといいですね。
(3)『十一章;まことに彼は我々の病を負い』より、(ガンジー語録集より)「本能的にすべての宗教が多かれ少なかれ真実であると思う。すべての宗教は同じ神から発している。しかしどの宗教も不完全である。なぜなら、それらは不完全な人間によって我々に伝えられてきたからだ」「様々な宗教があるが、それらはみな同一の地点に集まり通ずる様々な道である。同じ目的地に到達する限り、我々がそれぞれ異なった道をたどろうとかまわないではないか」
●感想⇒NHKの「日本の信仰調査」によれば、“無宗教→49%、宗教を信仰している→39%(仏教→38%、キリスト教系→0.9%)”。他の調査でも、日本は人口の29%が神を信じていない無神論者。日本人の信仰心は薄いと言えます。私は、宗教の目的は二つあると考えます。「普段から心を安定させる」「困った時に心を奮い立たせる」です。但し、これらを充足する方法は「宗教」以外にも方法があると思います。信頼のおける人(親族・友人・知人・・)、先人(の言葉)等です。私は無宗教派です。心の安定と奮起には、❝先人に学ぶ❞事と❝尊敬する先輩諸氏のアドバイス❞を参考にしています。個人の考えは一様ではないので、宗教にだけ捕われる事なく、「熟慮し、自身に見合った方法を見つけ、信じること」でしょう。それが、「同じ目的地に到達する限り、我々がそれぞれ異なった道をたどろうとかまわない」のだと思います。
4.まとめ;遠藤周作研究で著名な、山根道弘氏は、本書を「遠藤の文学と人生の総決算」と言ってます。「諸々の宗教はお互いに敬意を払いながら、❝寛容さ❞を持つべきだ」というのが、遠藤氏の思いなのでしょう。私はキリスト教徒ではありませんが、遠藤周作は好きな作家の一人です。遠藤氏を理解するには棺の中に入れられた「深い河」と「沈黙(レビュー済)」は必読です。蛇足ですが、純文学者・遠藤氏のもう一つの顔である狐狸庵山人として、執筆されたエッセイ「現代の快人物(狐狸庵閑話)」や「勇気ある言葉」等は、肩ひじ張らずに楽しく読めるので私のお気に入りです。(以上)続きを読む投稿日:2024.02.17
高校生の時に課題図書だった「沈黙」は読みにくかったイメージがあり、遠藤周作のキリスト教信仰をテーマとした小説は避けていましたが、「深い河」は好きな本の一つとなりました。
投稿日:2024.03.13
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