この作品のレビュー
平均 4.4 (8件のレビュー)
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去年『なにかが首のまわりに』で初めてアディーチェという作家を知り、この『アメリカーナ』で彼女の著作を二作読んだことになります。
そして思うのは、この人の視点とそれを表現する感性はとても瑞々しくて、読…めば読むほど自分の中に新しい風を吹き込んでくれるということです。
『なにかが首のまわりに』『アメリカーナ』ともに、黒人差別が物語の大きなテーマとなります。黒人差別を描いた小説や映画は、自分も今までいくつか触れてきました。
そして思うのは、それらの作品は人種差別の悲劇や苦しみや怒り、あるいはそれを乗り越える人間の強さというものを、表現していたということです。
そうした作品ももちろん素晴らしいのですが、作品に込められた熱量があまりにも熱くて、差別は許せない、絶対いけない、であるとか、人の強さに感動したりということは多々あるものの、
そこから差別を自分の身近に考えることができずに終わることもよくあったと思います。多分そうした熱量の物語を観る、読むだけで自分のキャパはいっぱいになってしまうのだろうなあ。
それだけ、物語の熱量が熱いことには違いないのですが。
それに対してアディーチェは、アメリカ出身の黒人ではなくナイジェリア出身。解説によると19歳の時に渡米したそう。自らを「黒人」と認識しなかった祖国から、アメリカに渡った途端「黒人」とされ、様々な社会の壁にぶつかるという現実。
彼女はアメリカの国家や歴史に根づいた差別に対し図らずも、無垢な状態から飛び込むことになったのだと思います。
だからこそ、彼女の人種差別に対する視点はとてもフラット。人種差別の壁に対して過度に怒りを爆発させたり、嘆いたりするのではなく、彼女の作品の登場人物たちは、その壁に困惑し、立ち止まり、迷います。だからこそ、読者である自分も、作中の登場人物たちと同じように、立ち止まって、そうした問題の存在を、より身近に感じることができるのです。
さらにアディーチェ作品は、歴史や文化に埋もれ、自分たちには見えなくなってしまう壁を可視化すらさせてしまいます。下巻の中で印象的だったのは、主人公のイフェメルがアメリカのファッション雑誌に対しての矛盾をぶちまける場面。
だれにでもできるメイクアップの色を選ぶヒントとして、その雑誌は頬をつまみ、そのときに変化する肌の色を見ることを教えます。しかし、それは頬をつまめば色は変わるという前提の元で書かれていて、そこに黒人は含まれていない。
そのほかにも髪質や何気ない会話の節々といった文化的側面から、そこに当然のように含まれていない、あるいは過剰に特別扱いされている黒人たちの存在を明らかにしていきます。
この身近に埋め込まれた矛盾をつく視点は本当にすごい! アディーチェ作品は黒人差別を描くというよりかは、まるであぶり出しのように浮かび上がらせるのです。
さらに彼女は、アメリカに渡ることで、変わっていくアイデンティティに対する違和も描きます。イファメルが久々に両親と会う場面は、たまに実家に帰省する際の、どこか気恥ずかしい感じをより強くしたものと言えるかもしれません。
変わってしまった自分を、かつての自分を知る家族に見せることの決まり悪さ。これを描けるのも、またアディーチェの感性の瑞々しさを強く感じた場面です。そして、アメリカにいたからこそ感じることになる祖国に対しての違和もまた読ませる。
アメリカで様々な経験をして、祖国へ帰る決心をしたイフェメル。そこに待っているのは、かつて同じ夢を抱きながらも、別々の道を歩まざるを得なくなった元恋人のオビンゼ。
最終章に到り物語は、甘さと切なさを詰め込んだ恋愛小説の様相も見せます。正直恋愛ものは苦手なのですが、イフェメルとオビンゼに関しては、二人の様々な苦労を知っているからか、割と自然に読めたように思います。
そして、作品の引き際もちょうどいい。読んでいるうちに、ちょっとドロドロしたところも見え始めて「これは、どう決着をつけるのか」とハラハラしながら読んでいたのですが、ギリギリのバランスを保った落としどころだったと思います。
恋愛の酸いと甘い、ドロっとした苦さに、もう戻らない時を思わせる切なさ、これらをちょうどいいバランスで、ラストにこれでもかと詰め込むか……。もう帰ろうと思ったら、豪華な幕の内弁当を帰りがけに渡されたような、そんな感じです。
イファメルとオビンゼの苦労と感情をしっかり描いているからこそ、ラストにこうした畳みかけを無理なく詰め込み、恋愛のあらゆる要素を感じさせられる展開に持っていけたのではないかと思います。
人種差別というテーマを、いい意味でフラットに描き、登場人物の変化や成長もしなやかに描き、恋愛も甘く切なく、そして少しの毒を交えて描く。読み終えて改めて世界から評価された作品であり、そして作家であるという理由がよく分かります。
自分の中の好きな外国人作家となると、アガサ・クリスティーや、スティーヴン・キングといったビッグネームがまず挙がってくるのですが、このチママンダ・ンゴズィ・アディーチェも、これからはすっと挙がってきそう。
本当に去年『なにかが首のまわりに』を読めて良かったと思います。このことに関しては、自分で自分を褒めたい(笑)続きを読む投稿日:2020.02.07
たまーに出会う、”泣きながら一気に読みました”の類の小説。上巻は1週間と10時間のフライトでコツコツ読んだが、下巻は10時間のフライトで読み終わった。熱にうなされるように。行ったこともないラゴスの太陽…や、アメリカ白人のパーティーの様子が、次々と現れては消えていった。
小説家によって短編と長編の得意分野があるとすれば、チママンダ・ンゴズィー・アディーチェ氏は間違いなく長編の方がその魅力を出せるんだと思う。
『なにかが首の周りに』を翻訳文学試食会で教えてもらい、読んでみた時は、おそらく字数的に、「アメリカ人のアフリカ人に対する典型的な見方」に触れたアフリカ人というテーマに絞らざるを得ず、面白いのは面白いんやけど、短編集でそればかりがずらっと並ぶと、すこしばかり食傷気味な気分になってしまった。
アメリカーナでも、恋愛小説ではあるが、米国の人種問題に真正面からぶつかっていて、『なにかが首の周りに』と同じぐらいの(いや、それ以上の)、アメリカ白人に刷り込まれた黒人に対する差別意識が描写されており、また、アフリカ生まれの黒人人とアメリカ生まれの黒人といったような、「黒人」と周りからはひとくくりにされてしまうような集団ごとの意識の違いも描かれている。
この物語は、ナイジェリアで朝のテレビ小説があったらきっと題材にされるようなストーリーである。人種、女性、恋愛、親子、夫婦、親戚、ありとあらゆる人間と人間の関係が描かれ、それぞれの心情描写がとても細かく、登場人物のどれ一人をとっても、リアリティーさに欠ける人がいない。
私は以前開発の仕事に携わっていたが、常々、「開発される側」がどう思っているのか、ということには意識していたつもりだが、実際には、イフェメルの独り言のように考えられていたのかもしれない。
くぼたのぞみ氏の安定的な翻訳も健在で、今度は『パープル・ハイビスカス』を読んでみようと思う。続きを読む投稿日:2024.04.16
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