愛を知らない
一木けい(著)
/ポプラ社
作品情報
高校二年の橙子は、クラスメイトとほとんどかかわることなく日々をやり過ごしてきた。支離滅裂な言動をとる変わり者と思われ、親しい友人もいないが、クラスメイトのヤマオからの推薦で、合唱コンクールのソロパートを任されることに。当初は反発したものの、練習を進めるにつれ周囲とも次第に打ち解けていく。そしてある事件をきっかけに明らかになった橙子の秘密とは―。心を強く揺さぶる感動の青春小説。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (57件のレビュー)
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初めて読む作家さん。文章が、素人の域を出ていなくて、少しびっくりし、戸惑いながら読んだ。でも、確かに、心を動かされるものがあった。話題になったのも頷けた。力がある1冊だった。
幼い頃から親に虐待…を受け、愛着障害を持つ女の子の物語。合唱コンクールの練習に励む高校生四人が主な登場人物。
愛着障害を持つ女の子は、幼い頃、自分を施設から引き取ってくれた育ての親に、試し行動を繰り返し困らせた。高校生になって、随分と落ち着いたとはいえ、クラスメイトへの態度もぶっきらぼうだ。人からよく思われようなんていう気持ちは皆無と思える行動をとる。
この物語を読んで1つ強く思ったことがある。私も、この女の子ほどではないが、愛着障害を持っている自覚がある。愛着障害というものを知ったのは、大人になって、ずいぶん経ってからだ。
若い頃は、今思えば、試し行動を私もしていたように思う。ただ、もうずいぶん長い間していない。なんでだろう?もう良くなったかな?なんて思いながら、理由を考えてみた。
試し行動を取るのは、こんな態度をとっても、あなたは私を想ってくれますか?と切望する気持ちからであって、対象は、この人から愛されたい、この人を愛したいと思う人に限定される。だから、そういう相手がいなければ、試し行動は現れない。これが理由だった。我ながらとても悲しい分析になってしまった。
だから、試し行動をとられた人は、「自分はその人から愛されているんだ、そして自分にもっと愛して欲しいんだ」と捉えて欲しい。そして、その人と関わり続ける気があるならば、その人をとても想っていることを言葉にして、繰り返し伝えてあげて欲しい。愛着障害を持っている人は、ただただ愛に飢えていて不安なのだ。とても厄介だけれど、同時に純粋でもある。相手に対して欲しているものが、物やお金や、その人と仲良くなることで得られる地位や権力ではなく、ただ1つ、愛情なのだから。
本から話がそれてしまったけれど、こんなふうに、心の深いところを揺さぶられる、価値のある1冊だと思う。ただ、もう少し先まで描いて欲しかったり、大人の登場人物の人格や言動に確固とした一貫性を持たせて欲しかったりと色々があり、出版に携わった周りの方がもう少しアドバイスしてあげてもよかったんじゃないかと、残念に思う気持ちも残った。この本の、他にはない勢いを、プロの手で邪魔したくなかった気持ちもわかるような気もするけれど。続きを読む投稿日:2024.02.07
「誰も彼も、見たいものだけ見て、信じたいものだけ信じるよね。この世界にあるのは、そんなきれいなものばっかりじゃないのに。ー」(P.154)
「誰かを傷つけないために言わないことで、別の誰かが傷ついたら…?ただ黙っとくのがほんとうに、いいことだと涼ちゃんは思うの?ー」(P.155)
「それで、その人のすべてを、わたしの中の引き出しに分けることにしたの。たしかに大事にしてもらった。愛をもらった。守ってもらった。つらいときに優しくしてくれた。情に厚くて、セクシーで、すごく魅力的な人。だけど、そのよい方ばかりに目を向けると、つらくなっちゃうのよ。そんな人に対してこんなことを思う自分がろくでなしに思えて。だから、自分の中のぜんぶの感情を認めて、分けたの」(P.230)
「怖いくらい追いつめてくる人は、恐怖の中で生きているんだと思う」(P.231)
合唱コンクールでソロに抜擢された橙子にはある秘密があった。芳子さんと仲良くいっているように見えたが、家では管理され、暴言を吐かれる日々。血の繋がりのない母娘が上手くいくことは不可能なのだろうか。かつて橙子に愛情を注げていたはずの自分もいるはずなのに娘が成長し、壁ができてしまった。修復出来なくなるまで壊れてしまうなんて相当だが、小さなすれ違いが重なるとこうなってしまうのかなとも思う。冬香先生の少し闇のあるような雰囲気や、高校生であるにも関わらず、深夜働き続けるヤマオなど、個性的な登場人物が多め。良い人だと思っていた芳子さんの変貌ぶりや、真逆の顔が怖すぎて、人の印象なんて他人によって簡単に左右されてしまうのだと思う。合唱コンクールに向けて練習し、本番用の帽子を買いに行く4人は青春そのもので羨ましく思った。クラス一体となり努力する感覚、本番が近づくにつれて一体感の出てくるあの感じをまた味わいたいと懐かしくなった。勝手ではあるが、決して嘘はつかない橙子のような人も面白いし、ヤマオのように明るく、真っ直ぐで誰かを救える人間も必要だと思った。続きを読む投稿日:2023.11.15
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