この作品のレビュー
平均 4.5 (15件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術社とのめずらしい組み合わせのユニークな日記。昭和52年度田村俊子賞受賞作(第1巻紹介文)
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昭和39年7月から始まり、昭和51年9月までの日記が上中下3巻に収められている。作家武田泰淳氏の妻百合子氏の日記だが、時々泰淳氏の文章や、娘花さんの文章も挟み込まれている。
百合子氏の文章は、その生き方そのものと同じように天衣無縫。泰淳氏の文章は、さすが小説家という表現があったりするが日記の中で読むには違和感を感じる。娘の花さんは当時13歳ころと思われるが、両親のセンスを共に受け継ぎながらも自分としての表現をされていてすごいなと感じた(カメラマンになられたらしい)。
他人の「日記」というものに関心がわき、読みだした。富士山麓での生活とはどういうものか。
作家の生活とはどういうものか。
作家夫人というのはどういうものか。
そんな興味で読み始めたが、それらのことを、普段の生活日記の中から肌で感じ取ることができる。
作家夫人の日記といえど、今日あったこと、ご近所さんとのコミュニケーション、買い出しの様子、富士五湖で水泳を楽しむ様子、ペットを含めた家族団らんの様子、朝昼夕のメニュー紹介、時々時事という普通の日記の感じ。であるけれども、やぱり百合子氏独特の個性が表現されている。意外とうんこ話がお好き。
毎日欠かすことなく、朝昼夕の食事の内容が紹介されているが、お金持ちのご様子でたぶん「節約」という感覚は不要で、感性のままに買い出しをされて、感性でその日のメニュー考えて作られているように思う。
しかしこれが、意外と時代を経てもセンスが感じられ、たぶん当時としてはハイカラな食事だったんではないかと思われる。出版当時はレシピ参考本としても読まれたのではないか。
文庫本(古本)で読んだが、各巻400ページ超の量で、上巻だけでだいたいの興味に応えてくれる内容が出てきて、中巻も下巻もその書きくちは変わらない(日記なので)ので、上巻読んでほぼお腹いっぱいになってくる。従って、中巻、下巻はキーワードを見つけてからその周辺を読むという走り読みに変更。
やはり時代が感じられる。中巻では1968年(昭和43年)の日記で「チェコ事件(ソ連がチェコに突入)」の報道について書かれていたり、「メキシコオリンピック」の開幕式のことが書かれていたり。
下巻にはいって、昭和44年のアポロ11号月面着陸や、昭和45年大阪万博(アポロ11号が持ち帰った月の石が展示されてた~)のこと、雫石での自衛隊機と全日空の衝突事件、三島由紀夫の割腹自殺のことなど、登場する。
なんかこの頃の出来事はすさまじいなと感じながら、自分はその頃何歳だったのかとかを照合しながら読む自分がいる。
ともかく日記の中にも交通事故の話がたくさん出てくる。交通事故で亡くなる人も多い。一人の日記にこれだけの事故の記述があるということは、全国でものすごい数であったことが想像される。光化学スモッグや公害という言葉、エコノミックアニマルという言葉も登場する。「私の城下町」や「フォーリーブス」も登場する。読みながら一昔前へのタイムスリップができる。
下巻最後、夫泰淳氏が病気と闘いながら生を全うするまで、妻としてつきそう日々の様子が描かれて、日記は終わっている。
「日記」文学の面白さ、もう少し広げていってみてもいいかなと思う。投稿日:2023.06.16
『富士日記』三巻を再読して思ったこと。
百合子さんがお世話になった人に必ずといっていいほどお礼を渡している、その姿勢がさすが大正生まれだな、と。
奔放な人と思われがちだけど、実は律儀。
あと、聡明だか…ら色々なことが見えてしまって、辛いだろうけど、書くことで発散していたんだろうな。
飾らない、ありのままの自分をさらけ出している所が本当に魅力的。
辛い時にも百合子さんがいるからと思い、この三巻を蔵書としている。続きを読む投稿日:2024.02.20
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