無責任の新体系
荒木優太(著)
/晶文社
作品情報
海外に出かけテロリストの人質になると「自己責任」論が叫ばれる一方、甲子園球児の不祥事が発覚するとそのチームが不出場となるように「連帯責任」の縛りも強い。若者は、社会から同時に押しつけられる「責任論」とどう対峙すべきなのか? 自由に生きる道はあるのだろうか? 丸山眞男、和辻哲郎、高橋哲哉、加藤典洋、ロールズ、アレント、レヴィナスらのテクストを読み解きつつ、日本社会における匿名性の可能性と限界について考察するフリーター系社会超批評。作戦名は「ウーティス(誰でもない)」。
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この作品のレビュー
平均 2.5 (3件のレビュー)
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Kindle版で読んだ。
この方の著書はずっと前に『小林多喜二と埴谷雄高』を読んだきりで、デリダともアガンベンとも違うような闊達さをもった才気ある書き方を評価した。
彼は文学専門かと思っていたが本書は…社会哲学的な内容だ。
最初の方は「日本の無責任」を巡って書かれている。
自己と周囲との「あいだ」の日本的な「空気」が重視され、何か過ちがあった場合にも「責任」はその空気の流れの方に転嫁されて自己という個体は責任から逃れる。
この「あいだ」というテーマについては、私も木村敏氏の著作により大いに惹き付けられてきた。心的な意味で個人は完全に独立しているわけではなく、他者との「関係性」にこそ心的な流動的自己が形成されつづける。病の発生もそこに起因する。
この魅力的な考え方は、しかし本書において日本的無責任の起源でもあると指摘されており、読んでいて私は衝撃を受けた。「責任」という問題は、私にとって死角であったのだ。不意を突かれる形となった。
本書では和辻哲郎にも言及されている。確かに和辻の「あいだ」は魅力ある考え方だが、そこから和辻は奇妙なまでに安易な方向に思索を展開し、全体主義という危険性に到達してしまうのだ。この点は私も否定的に見ていた。
「あいだ」というテーマが社会的な責任という別の課題を回避してしまうという本書の指摘は私にとって「痛いところ」だったのだが、本書はそうした責任論とは別の方向に屈折して展開される。
アレントのペルソナ、公的領域論、レヴィナスの倫理-他者論を経て、ロールズ、ブルデューといった私にとってもなじみ深い著作についても論じられる。
そして論点はキュクロプス(単眼、視野狭窄性)対ウーティス(匿名性、実は多次元を見渡しうるメタ視点つまり知的段階としての)という構図へと収斂する。
『おそらくは「無責任の体系」を断ち切る快刀乱麻は諦めねばならない。断ち切ったと思った瞬間、強く体系化されているのが人間の無責任なのだから。むしろ断ち切ると同時に縫い合わせを始める匿名性の弥縫策だけが最悪を回避できる。』
この辺りが本書の最終的な着地点だ。
しかしなんとなく最後の方は、自分としてはすっきりとしない感じで、「責任」という、これまで深くは考えてこなかった問題の重さは消化しきれないように感じた。だがたぶんそこは私自身の個人的な問題だ。
ロールズやブルデューの読みなど、荒木氏は私とはかなり違った読み方をしており、やはり読み取り方も人によって違うんだなと感じ、もう一度それらを読み返さなければならないと感じた。
「責任」に関しては、極限としてのレヴィナスから感銘深いヤスパースの戦争責任論などを含め、本書巻末の参考文献にある書物を新たに参照して再考したいと思っている。
軽快な「自由」を生きていると感じる荒木氏の思考はスピード感があってやや辿りがたい面もあるが、それは「他者の思考」として敬意を持って押さえつつ、このうねうねと曲折して進むような書物も、(着地点の見えない初読では辿りがたかった部分をも見通しを持って)再読しなければならないと感じている。続きを読む投稿日:2019.10.07
( ..)φメモメモ
仕事で大きなミスをしたとき、上司からその帰責を問われる。誰も傷つかない唯一の答え方は「誰かがやりました」であり、その先に待っているのは「誰もがやりました」のすり替えだ。「誰」が特…定できないならば、責任は拡散して、ある集団のメンバーが小さくその責めを分担することになる。責任のシェアリング、これを古い言葉で連帯責任という。続きを読む投稿日:2022.02.02
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