枕草子/方丈記/徒然草
酒井順子(訳)
,高橋源一郎(訳)
,内田樹(訳)
/河出書房新社
作品情報
「春はあけぼの……」一条天皇の中宮定子に仕えた宮中での生活を英知とユーモアの筆致で綴った平安の清少納言「枕草子」。「ゆく河の流れは絶えずして……」波瀾に満ちた人生を送り、鎌倉前期の大火や地震などの自然災害や人災に見舞われた体験を綴った最初の災害文学・鴨長明「方丈記」。「つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて……」鎌倉末期の無常観に基づいた随想や人生訓を鋭い洞察で記した兼好「徒然草」。現代の名手による新訳・全訳で収録。
解説=池澤夏樹
解題=枕草子…藤本宗利
方丈記・徒然草…浅見和彦
◎月報=上野千鶴子・武田砂鉄
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この作品のレビュー
平均 4.3 (21件のレビュー)
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<枕草子>
「平安時代OLのブログ」らしく、酒井順子訳がしっくりくる。
積もった雪がいつまで保つか賭けた話や「・・・そんな定子様が素敵」で終わるシリーズもよい。「こっそり書きためていたのが出回って…しまった」というくだりは笑った。
<方丈記>
まさかのカタカナ英語まじり訳。「モバイルハウス建てた」とはそういうことか。
<徒然草>
たしかにつれづれなるままに書いてある。出家の話、達人の話、妖怪の話、豆知識...。「ダメな奴は何をやってもダメ。見苦しいから人目につかないようにすればよい」とは誰もが思っていることかもしれない。現代は好き好んで目立とうとしているのではなく、無理やり競争の場に追い立てられて悪目立ちする結果になっている人が多いような気もするが。
1000年前も現代も人の心はあまり変わっていない。続きを読む投稿日:2017.02.25
池澤夏樹編集のもと、気鋭の文学者を集めて現代ならではの「日本文学全集」を新たに編纂したシリーズの一冊。この全集から発刊された角田光代さん訳の『源氏物語』を先日読み終わり、次は『枕草子』でも読んでみるか…ー、と思っていたので手に取ってみました。
収録されているタイトルからもわかるように、この巻は日本文学における「随筆」を中心にしており、時代をまたぎながら古典作品の良さを知ることができるようになっています。
随筆の「随」には、「なりゆきに任せる」という意味合いがあるらしく、その意味で言えば最初に来る『枕草子』にもそんな気の向くまま、誰に気兼ねすることもなく、書きたいことを書いたという雰囲気が感じられました。四季の美しさや、行事の面白さをとらえ、想いを的確に文章とする感性の鋭さもさることながら、ちょっと腹立たしく感じたことや、個人的にいいなとおもってることについてもあれこれ書かれているので読んでて普通に面白い。1000年前の人だって「ドアをちゃんと閉めない人」に対してムカついたりするんだなあ、そりゃそうか。妙に親近感を覚えてしまう箇所も多数あり、そういう”繋がる”感覚が読んでいてうれしくなります。清少納言の視点には一種の「客観性」が常にあり、物事の風情をしっかりと感じ取り楽しみつつも、そんな自分の姿をひとつ上の位置から眺めているようでもあり、それらを的確に表現する冷静な筆致にこそ、独自性と先見性と文学性が宿っているように思いました。
続いて『方丈記』についてですが、こちらは訳者が高橋源一郎さんでして、かなりトリッキー、というかクセつよな訳に仕上がっています。なんせタイトルのルビが「モバイル・ハウス・ダイアリーズ」なので。訳文にしてもタイトルにしてもカタカナを多用しているため、「翻訳」というよりも「吹き替え」と言った方がしっくりくる読み心地となっており、愉快な印象や異世界感が強まっているなあと思いながら読みました。私は『方丈記』を読むのが初めてなのですが、人によっては「ふざけんな!」と怒りを覚えそうな気がします。うーん、どうなんだろうなこの訳は。個人的に悪ふざけとかブラックジョークは嫌いじゃないですし、「日本文学全集」という場所でそれをやるという反骨精神も嫌いじゃありません。ただ、なんというか単純におもしろくない。いや、おもしろくないというよりも「スベってる」気がして、それが読む気持ちを阻害しちゃってる気がします。あー、でも内容がそもそも厨二病の人の叫びみたいなところがあるので、その意味では正しい翻訳なのかも。
そんで最後は『徒然草』。訳者は内田樹。有名な冒頭文「徒然なるままに~」をそのまま流用することなく、現代の言葉に置き換えており、その時点で訳者の「清新な訳を心がけよう」という意気込みが伝わってきます。その後の文章も格式がありつつ読みにくさは無いのでリーダビリティは高い。文章に宿る「息づかい」は、現代の小説を読んでいる感覚と大差なく、おもしろい人のおもしろい文章を読むという、まさに随筆本来の良さを味わうことができた気がします。なんか夢で見たようなしょうもない話もいくつかあり、個人的にはこれが三作の中では一番好きでした。
感情のおもむくままに書く。
本を読んだら感想を書き、映画をみたら感想を書き、何か伝えたいことがあったら文章を書く。そんなことをWEB上でやっている身からすれば、共感するところはあるものの、それ以上に、こうまでなめらかに、先の時代まで残るような文章で、想いをぶつけながら書くのはそう簡単なことじゃないよな、と改めて感じます。こうやって頭に浮かんだ言葉をつらつら書いていても読み返せば言い回しを変えたくなったり、誤字脱字があったり、言い足りないことがあるのに気づいたり、文章を書くのは難しいなとしみじみ思います。ライターの武田砂鉄さんが巻末の書評で書いているように、「日本三大随筆」であるこの三作品は、いずれも作者が"粘着質"であり、細かいとこまで執拗に食い下がる傾向があり、そこが読んでて面白い。そんな感じで、ここまで何かに執着したり、念入りに書き綴ったり、細かいところまで気にしてこそ、後世まで残るような名エッセイができるのかなと思いながら、古典となるほどの超人気ライターによる日記帳を堪能しました。続きを読む投稿日:2024.03.16
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