大磯随想・世界と日本
吉田茂(著)
/中公文庫
作品情報
引退後ほどなく、政治の「貧困」を憂いつつ未来への希望をこめて綴ったエッセイ集「大磯随想」。その最晩年に、マッカーサーやアデナウアー、ケネディら内外の政治家を回想し、日本外交について縦横に語った「世界と日本」。保守政治のエッセンスを余すことなく語った二篇。 〈解説〉井上寿一
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商品情報
- シリーズ
- 大磯随想・世界と日本
- 著者
- 吉田茂
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公文庫
- 書籍発売日
- 2015.05.25
- Reader Store発売日
- 2015.06.26
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 335ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (2件のレビュー)
-
戦後12-17年程経った中で吉田茂が語った話。まだ日本に民主主義が根付くのか不明な中、日本人よもっと自信を持てと鼓舞している。この人は共産主義嫌いだったようで、自壊すると言っている。また知識人は共産主…義こそ資本主義が昇華した形だと言っていて、そう言う時代の空気が分からないと理解出来ないのだろう。戦後76年も経つと当時がどうだったのか、戦争の記憶もないし、民主主義が当たり前と思って生活しているが、それこそ吉田茂なんかは敗戦後の日本を如何に立て直すかに尽力してくれたのであり、まだ不安定なはずの新しい仕組みを根付かせる苦労も多かったのだろう。外遊に行っても日本を嫌う国も多かった時代。もう少しこの時代の本を読んでも良いなと思った。続きを読む
投稿日:2021.11.29
「戦争に負けて外交に勝った歴史がある」吉田は首相を引き受ける覚悟を決めた時こう語ったという。ニューディーラーの牛耳るGHQ民政局が理念先行で日本の実情を顧みない過激な民主化を断行しようとしたのに対し、…ウィロビーら参謀部の理解を取り付け、時にマッカーサーとの直談判を通じて軌道修正を図るなど、 敗戦国の首相としては、吉田は実にしたたかに立ち回り、また言うべきを言う指導者であったのは事実であろう。東アジアでの冷戦構造が鮮明になる中で出てきたダレスの再軍備要求に対し、あくまで経済再建を優先し、平和憲法を盾に断固拒否したというのも語り草になっている。本書においても吉田の弁舌が最も冴える箇所である。
吉田への肯定的評価を決定的にしたのは若き高坂正堯の『宰相吉田茂』(1968)であるが、高坂は手放しで吉田を礼賛していたわけではない。吉田のとった軽武装経済優先主義は、敗戦直後の日本の国力と冷戦という特異な国際環境のもとでのやむを得ざる選択であって、それが結果的に成功した。だが多極化が進み国際環境が複雑化する中でその賞味期限が切れ始めていることを、既に同書の中で高坂は明確に指摘していた。
では吉田自身はどう考えていただろうか。「世界と日本」は吉田晩年の回想録であり、防衛政策についてかなり率直な自己批判を行っている。「今日、一流先進国として列国に伍し且つ尊重されるためには・・・危険なる侵略戦争の加害から、人類の自由を守る努力に貢献するのでなければならぬ」と言い、自衛隊について「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し、・・・(戦力を放棄した)憲法審議の責任者でもあり、その後の国政運営の当事者として・・・痛切に責任を感じ・・・国策の方向を改める必要を痛感する」と吉田は語る。吉田のこの言葉から半世紀近く経た今日もなお、事態は本質的には何も変わっていない。吉田の敷いた外交・防衛路線を「吉田ドクトリン」なる言葉で崇め立てるのは決して吉田の本意ではないだろう。
近年吉田外交について、高坂以来の肯定的評価の根本的見直しを迫る見解が豊下楢彦氏から出されているのを付け加えておこう。ダレスが吉田との交渉で最優先したのは再軍備ではなく基地の提供であり、かつそれが極めて法外な要求であると考えていたという。更に驚くべきことに、沖縄を切り捨てて基地の提供をあっさり認めたのは、自らの地位保全に固執した昭和天皇の介入があったからだという。つまり今日に至る対米従属のレールを敷いたのは昭和天皇であり、吉田は天皇の介入に翻弄されて「外交に勝つ」チャンスを逸し、半永久的な基地貸与を受け入れてしまったというのだ。天皇評価として一面的に過ぎるし、実証的にも疑問が多いが、自らを臣茂と称した天皇崇拝者吉田の外交を再考する上で興味深い仮説ではある。『 安保条約の成立―吉田外交と天皇外交 (岩波新書) 』参照。続きを読む投稿日:2023.12.29
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