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新史 太閤記(下)
司馬遼太郎(著)
/新潮文庫
作品情報
備中高松城を水攻めのさなか本能寺の変を伝え聞いた秀吉は、“中国大返し”と語り伝えられる強行軍で京都にとって返し、明智光秀を討つ。柴田勝家、徳川家康ら、信長のあとを狙う重臣たちを、あるいは懐柔し、あるいは討ち滅ぼすその稀代の智略は、やがて日本全土の統一につながってゆく。常に乱世の英雄を新しい視角から現代に再現させる司馬遼太郎の「国盗り物語」に続く戦国第二作。
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商品情報
- シリーズ
- 新史 太閤記
- 著者
- 司馬遼太郎
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2007.09.01
- Reader Store発売日
- 2015.03.20
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.2 (86件のレビュー)
-
【感想】
上巻に続き、とても面白かった。
「本能寺の変」によって仕えていた信長を亡くし、悲しみつつも義理を果たしたと切り替えて、「今度は俺が天下を取る」と計画を達成していく様は、読んでいてとても爽快に…感じた。
(例外も少々あったが)どの敵に対しても慈愛の心を忘れず接し、「不殺をもって人を手なずけ、世間を飼い慣らす」事に力を注ぐ。
こと戦に関しては、用意周到に準備を行なって、投機性を減らして必ず勝つべき態勢を作り上げていく。
出身が卑しいために難儀することも多かったが、決してそれに屈さず、陽気さを保って難事を乗り越え出世を果たしていくのは、本当に現代にも通ずる処世術だ。
また、快進撃を続ける秀吉に対し、「最大の壁」となり続けた徳川家康の巧妙さも読んでいて目を見張るものがあった。
これから読む「覇王の家」もとても楽しみだ。
【あらすじ】
備中高松城を水攻めのさなか本能寺の変を伝え聞いた秀吉は、“中国大返し"と語り伝えられる強行軍で京都にとって返し、明智光秀を討つ。
柴田勝家、徳川家康ら、信長のあとを狙う重臣たちを、あるいは懐柔し、あるいは討ち滅ぼすその稀代の智略は、やがて日本全土の統一につながってゆく。
常に乱世の英雄を新しい視角から現代に再現させる司馬遼太郎の「国盗り物語」に続く戦国第二作。
【内容まとめ】
1.秀吉のやり方は、キリスト教に似ているところもある。
過去のどの武将も見せなかった「愛」というものを意識的に持ち、敵にさえ愛を与えることで、恨みを買わずに天下の人心を集めようとした。
2.秀吉の合戦は、敵を見たときにはもはや合戦のほとんどが終わっていた。あとは勝つだけであった。
戦は勝つべき態勢をつくりあげることであった。
味方を増やし、敵の加担者を減らし、戦場に集結する人数は敵の倍以上ということを目標としていた。
合戦のもつ投機性を減らし、奇跡を信じず、物理的に必ず勝つ態勢へ盛り上げていく。
3.「世の事はすべて陽気にやるのよ」
それが秘訣だ。悪事も善事も陽気にやらねばならない。
朗らかにあっけらかんとやってのければ、世間もその陽気さにひきこまれ、幻惑され、些細な悪徳までが明色に塗りつぶされて一種の華やかさを帯びる。
4.好人物であるはずの家康が、体のどこにそれをしまい隠したのか、人としての凄みを見せ始めている
どのようなアプローチをもっても、家康の態度は変わらず、ほとんど海底の魚のように沈黙し続けていた。
5.「人たらし」秀吉
人を無用に殺さぬということが織田時代から見せてきた彼の特色であり、彼の政治的標榜であるかのように天下に知られており、秀吉と一旦戦ったものでもあとで安堵して降伏する傾向が諸国で見え始めていた。
秀吉はそれを意識的な政策とし、不殺をもって人を手なずけ、世間を飼い慣らそうとしていた。
【引用】
p41
・鳥取城の攻略
直接的な戦いではなく、敵を籠城させ、一切の供給を断たせた。
秀吉のやり方は、キリスト教に似ているところもある。
過去のどの武将も見せなかった「愛」というものを意識的に持ち、敵にさえ愛を与えることで、恨みを買わずに天下の人心を集めようとした。
p51
・「百万石は資本にすぎぬ」
理屈と利益に鋭敏な信長にとって、高禄の諸将はもはや不要になりつつある。
罪がなくとも、強欲さや働きの鈍さなどで放逐されてしまう。
(征服が終われば、自分も追放されるか殺されるかもしれない)
という不安が秀吉にも常にある。
が、万事陽気な思想人は、その底冷えるような不安さえ逆手にとって積極的な思想に仕立てていた。
「百万石は自分の私財ではなく、織田どのを儲けさせ奉る資本(もとだね)である」という思想であった。
p151
秀吉の合戦は、敵を見たときにはもはや合戦のほとんどが終わっていた。あとは勝つだけであった。
(戦とは、そうあらねばならぬ。)
戦は勝つべき態勢をつくりあげることであった。
味方を増やし、敵の加担者を減らし、戦場に集結する人数は敵の倍以上ということを目標としていた。
合戦のもつ投機性を減らし、奇跡を信じず、物理的に必ず勝つ態勢へ盛り上げていく。
行軍中の多忙さは、その勝利への情勢をつくるためであった。
戦場へ現れたときの彼は、すでに暇であろう。
p197
・清洲会議にて
信長が死んだ。
もはや義理は済んだ。信長の遺児にまで儲けさせることはないであろう。
(今度は俺が儲ける番だ。)
それには織田家の権を、その遺児どもには呉れてやらず、自分が横取りせねばならぬ。いわば、大悪事である。
(人間一生のうち、飛躍を遂げようとおもえば生涯に一度だけ、渾身の智恵をしぼって悪事をせねばならぬ)
ここで秀吉にとって肝心なことは、悪事を思い切って陽気にやらねばならぬことであった。
p280
「官兵衛、世の事はすべて陽気にやるのよ」
それが秘訣だ、と秀吉は思っている。
悪事も善事も陽気にやらねばならない。
朗らかにあっけらかんとやってのければ世間のものもその陽気さにひきこまれ、幻惑され、些細な悪徳までが明色に塗りつぶされて一種の華やかさを帯びてくる。
p288
・柴田勝家の家康に対する調略について
(何のためにわしが三七信孝を助けねばならぬ。)
理由がなかった。勝家の側にこそあるが、家康の側にはない。
勝家は常に相手側の都合や利害を考えようとしていない。
家康のみるところ、勝家は調略のできる男ではない。
いま家康が何を欲し、何を怖れ、何に魅力を感じているか。
そういうことについての犀利な分析がまるで欠けている。
しかしながら、羽柴に対しても家康はいま手を結ぼうとは思わない。
家康にすればこの混乱期を利用して強大な独立勢力をつくりあげてしまいたいと思っており、それ以外に余念はない。
p355
起き上がって飲む者は生きている証拠だろう。起き上がれずに倒れているのは死者であった。
秀吉は小人頭に命じて、高値な金を払わせて笠や蓑を集めさせた。
それらを負傷者にかけさせ、せめて直射だけでもそれによって防がせた。
この男は、こういう気遣いが自然に出る男であった。
可哀相だという感情が人一倍過剰で、別に演技ではなかった。
p367
「このたびの合戦、亭主殿に助けられ、そのおかげにて大勝利を得た。」
人扱いは秀吉にとってもはや名人芸というべきであろう。
この男は、内通、裏切りといったような、ひとの倫理観を刺激するような言葉を一切使わなかった。
彼はあくまでも「利家に助けてもらった」とのみ言い、お松にまで感謝した。
「今後どちらにつく」といったふうの露骨な言葉づかいも利家への思いやりのために避けた。
共ひとり連れずに敵城に乗り込み、湯漬けをかきこんでいる。
お松はそういう秀吉を見て、(天下はこの人のものじゃな)と心から思った。
p370
勝家は激戦の末、自刃して建物もろとも自分の遺骸を爆焼させた。
「やむをえなかったのだ!」
秀吉は敵城を見ながら大声で言った。諸将に聞かせねばならなかった。
人を無用に殺さぬということが織田時代から見せてきた彼の特色であり、彼の政治的標榜であるかのように天下に知られており、秀吉と一旦戦ったものでもあとで安堵して降伏する傾向が諸国で見え始めていた。
秀吉はそれを意識的な政策とし、不殺をもって人を手なずけ、世間を飼い慣らそうとしていた。
「勝家だけはちがう」
彼を生かしておいては今後の天下統一の大きな支障となる。
「天下を鎮めるためだ、やむをえぬ!」
織田家における最大の競争相手が滅んだことが、秀吉の生涯に新しい時期を画させることになった。
今まで秀吉の意識や行動、才能さえも束縛していた「織田家」というものが、勝家の死によって彼の頭上からまったく取り払われた。
p420
「なんという男だ」
すでに造営中の大阪城に移っていた秀吉は、はじめてあの小太りの三河人に対し、恐怖に近い思いを持った。
どのようなアプローチをもっても、家康の態度は変わらず、ほとんど海底の魚のように沈黙し続けていた。
「家康というひとは、右大臣家の死後、お人が変わられたようだ。」
秀吉の家康観をあらためさせたのは、あの好人物であるはずの男が、体のどこにそれをしまい隠したのか、人としての凄みを見せ始めていることであった。
p505
天正13年7月に関白に任ぜられ、同年9月には豊臣の姓を授けられた。
この国の歴史に「豊臣」という姓が新興したのである。
この姓は、黄金の輝きをもっていた。
秀吉の巨万の富がそう世間に印象させただけでなく、この男の運の良さがそう印象させた。
しかし、家慶に対する懐柔はその後も続き、彼の生涯における最大の事業になってしまった。続きを読む投稿日:2019.03.12
とにかく秀吉がイキイキしていてかっこいい。
違う価値観を作り、天下をとる。
当然、簡単ではないよなぁ。投稿日:2024.04.08
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