サンドリーヌ裁判
トマス・H・クック(著)
,松村潔(訳)
/早川書房
作品情報
大学教授の夫が大学教授の妻を殺害? 殺されたとされる史学教授のサンドリーヌ、彼女はその誠実さで誰からも慕われていた。一方、夫の英米文学教授のサミュエルは、自信の知識をひけらかし周囲をいつもみくだしていた。彼は無実を訴え、証拠も状況証拠にすぎなかった。しかし町の人々の何気ない証言が、彼を不利な状況へと追い込んでゆく。やがて、公判で明らかになるサンドリーヌの「遺書」。書かれていたのはあまりに不可解な文章で……妻と夫の間に横たわる深く不可解な溝を、ミステリアスに描き出したサスペンス。
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商品情報
- シリーズ
- サンドリーヌ裁判
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 早川書房
- 書籍発売日
- 2015.01.15
- Reader Store発売日
- 2015.03.03
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 416ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (11件のレビュー)
-
泣かされる本には本当に困る。ガツンと音が出そうなくらいの痛みが、読後の充実感に変わって心の中に広がるとき、人間としての弱さを突かれたような驚きによって感動が一気に沸騰してくるようなケースだ。
時…にそれは最後の一行であったり、最後の一シーンであったりする。この本に関して言えば最後の一ページだ。このページが心を銃撃する火薬量は生半可なものではなかった。
いつもながらの回想シーンの叙述と現在の状況とを交互に繰り出して、事件の全体像を抉り出す、丹念に仕上げられた木工細工のような誠実な仕事ぶりはクックそのものである。しかしこれまでと違うのは、現在の状況が裁判の初日の冒頭陳述に始まり、十日後の結審に終わるという流れは、この作家の新機軸である。リーガルサスペンスに挑んだのも初めての試みであろう。
裁判で数多くの証人が陳述する流れの中でこの物語の語り手でもある被告人は、まるで他人事のように裁判の流れを遠くから見やり、その心の中は常にこの事件の被害者と目される亡き妻への心情でいっぱいである。
一人称文体で、妻の死の真実を語らせずに裁判の流れと回想で長いページを繰らせるという語り口は、実に苛立たしく不思議な感覚であるのだが、実は作者は被告人の心の内部の声を読者に伝えてゆくことによって、この悲劇の渦中にある夫婦の人生を実に誠実に丹念に描写し、考えさせてゆくのである。
読めばすぐ答えの出るシーンばかりではなく、むしろではあの時代あの出来事は夫婦にとって何だったのだろうかと改めて一緒に考えさせられることの方が多い。主人公の心に入り込んで、過ぎてきた結婚生活や娘のこと、隣人や友人のこと、仕事、人生のことをともに考えさせられざるを得ないのが本書の仕組みなのである。
これはミステリーなのだろうか、といい加減疑問に感じてきたとき、ああ、この仕組みはともすれば、一昨年にミステリ界を賑わせたとある海外小説にとても似た仕掛けであるということに気づく。しかし、行方も作品の目指す方向性も異なってゆく。
しかしながら実に強く印象深いヒロインの存在は二作に共通したものである。そして亡き妻をともに見送る娘の存在に対し、父親としてまた夫としてどう対処すべきかという解決しそうにない昏い問題に対し、作品は最後の回答を用意する。そこが本書の味噌なのである。派手でもなんでもない事件。
さほどトリッキーではない裁判のなかを通り過ぎてゆく比較的地味な証言者たちと、傷つく心の数々。本書は失敗作なのではないかとの懐疑がよぎる終盤、これほどの感動のフィナーレが待ち受けていようとは。久々に、やられた! と感じさせる凄まじい仕掛けを、巨匠トマス・H・クックは手練の業でやってのけてくれたのである。続きを読む投稿日:2015.06.05
読ませるなぁ!話のスケールは、こじんまりしてるんだけど、先行きが気になって最後までハラハラ。トマス・H・クック初体験。面白かった!
投稿日:2018.12.25
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