この作品のレビュー
平均 3.1 (29件のレビュー)
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永山則夫(1949~97年)は、北海道網走市で、8人兄弟姉妹の第7子(四男)として生まれ、幼い頃に父親は家からいなくなり、母親や兄弟からも疎まれて育ち、小学校、中学校にはほとんど通わなかった。集団就職…で上京した後、仕事を転々としながら、ときに窃盗事件を起こし、また、外国船に乗って密航を企てたりしたが、一時通った明大付属中野高校夜間部では上位の成績だったという。そして、1968年、19歳のときに、在日米軍・横須賀基地内の住宅で盗んだ小型拳銃を使って、4件(東京都・京都市・函館市・名古屋市)の連続殺人事件を起こし、最終的に死刑判決を受け、1997年に死刑が執行された。
本書は、ほとんど学校に通うことのなかった(高校の一時期を除き)永山が、拘置所の中で、本を貪るように読みながら、1969年7月~1970年10月の一年余りの間に、自分の思いを大学ノート10冊に書き綴った手記で、1971年に出版された。出版直後からベストセラーとなり、1970年代前半は、本書を持ち歩くことが「反権力」を通す若者にとって、ある種のファッションだったともいう。永山は、その後も獄中で小説家として創作活動を続け、小説の『木橋』(1983年新日本文学賞受賞)、『捨て子ごっこ』等を残した。
私は、随分前に、堀川惠子氏の『死刑の基準』を読んで、永山と連続殺人事件のことを詳しく知り、そのときも本書には興味が湧いたものの、(パラパラめくってみて)読み切る自信がなくて止めたのだが、今般、新古書店で手に入れ、評論家・秋山駿氏の解説を参考にしつつ、飛ばし読みしてみた。
ページをめくり終えて、まず驚いたのは、思索のボリューム・密度と、わずか一年余りでのその向上ぶり(という言い方が適切かは疑問だが。。。)であった。全体のイメージとしては、ノート4までは、自分の思いついたこと・感じたことを、詩の形式で断片的に描いたものが多く(義務教育もまともに受けておらず、文章を書く力がなかったのだろう)、ノート5あたりから、本を読んで得た言葉・表現や知識(ドストエフスキー、カント、フロイト、マルクス等の著書を次々と読んでいるのだ)を使って、人の生や社会・世界について自分の考えたことを、散文形式で表現するようになっている。
そして、犯罪者の手記として最も知りたいことは、当然ながら、なぜこのような凶悪犯罪を起こしたかであるが、この事件は典型的な「動機・理由なき殺人」と言われ(幼少期からの不遇が背景との分析は為されたが)、その原因は永山本人にすらわからず、秋山氏によれば、この手記は、「いったいそこに何が在ったかへの、なぜ自分がそこにいたのかへの、果てのない追求の手記」なのである。そういう視点で見た場合、最も気になるのは、ノート5の「この108号事件は私が在っての事件だ。私がなければ事件は無い。事件が在る故に私がある。私はなければならないのである。・・・死刑になるなら自殺した方が最良だと考えた・・・自殺は出来なかった。・・・世論の同情する私であるために出来なかった。」という文章なのだが、これは、その後も後を絶たない無差別殺人の犯人がしばしば口にする、「注目される事件を起こして、死刑になりたかった。相手は誰でもよかった」という考えと大きく違わないようにも聞こえる。
永山は、もともと知的作業に向いた知力を持ち、それ故に、驚くべき短期間で思索し、それを表現することができるようになったが、これは、間違いなく永山に特有のことであり、本手記に散りばめられた様々な思索は、他の動機・理由なき凶悪犯罪に通じるのだろうか。。。
本手記をどう読む(べきな)のか。。。現時点ではよくわからない。
機会があれば、永山の書いた小説を読んでみたいと思う。
(2024年5月了)続きを読む投稿日:2024.05.15
読後は「ピストル魔の少年」と軽々しく呼ぶ事は憚られる。時代が違いヒップホップに出会っていたら…と夢想せざるを得ない。
投稿日:2021.09.01
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