この作品のレビュー
平均 4.4 (5件のレビュー)
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硝子生命論に引き続き、二冊目の笙野女史であったが、どちらも毛色が違いながら主題は同じ作品であると思えた。
ただ、こちらの方が面白かったかな。克明に描かれた悪夢の物語である。
この作品を、という…か二作ともなのだけど、何にしろこれらをフェミニズム的な視点から受け取ることにいささかためらいを覚える。
もちろんそうした概念を用いた作品ではあるが、もっと根源的に自己を描くにあたって、その自己の一側面としてフェミニズム的側面が存在し、その面が強いという印象を受ける。
醜悪に描かれる男性像は、同時に女性像をも鏡写しに醜悪なものとしている。つまりは、より根源的に人を描いていて、その突端がフェミニズムという寸法である。
ここまで自己をさらけ出してえぐり出した作品で、ただフェミニズム的側面だけを取り出すのは、読者として不誠実にすら感じられる。
他律的ではなく自律的な自己の獲得、というと陳腐で身も蓋もない解釈になるが、自己を獲得したことで蛇はお姫様に戻ったのだろう、と私としてはシンプルに解することにした。女性であるからフェミニズムとなろう、しかし、地獄は女性にだけ限られたものでないことは物語の中でも記述されているところである。
それにしても、今更ながらに読んで作者の着眼には空恐ろしいものを覚える。
言葉の世界に、虐殺という習慣がカーニバルとして行われ、細かな形骸化したシステムを無視すれば村八分、外からの人を受け入れ定期的にその世界へ落とす。
その意図するところではないだろうが、個人的にはインターネットそのものの暗喩にしか見えないのだ。それだけに、本当に恐ろしく、その知性には脱帽するのみである。
あと、余談であるが、巻末の解説は面白く読んだのだけど、読後感の邪魔になった気もする。他者の解釈も面白いには面白いのだけど。続きを読む投稿日:2013.09.26
もう、ほんと、すさまじい。はじめから終わりまで全力疾走。奇妙な夢の世界でゾンビ達と死闘する1人の女のお話、であると同時に、女として生まれた人間がこの社会で受ける様々な呪いや侮蔑に対し、言葉を武器にして…、たった1人で、真正面から闘う「現実の女」のお話でもあった。
負けたらゾンビになってしまうから、自分でいたければ戦い続けるしかない。まさにレストレス(休みなし)バトル。すごいとしか言いようがない。読みながら自分もバサバサ切り刻まれる心地がしたし、いい加減休ませてくれーと叫びたくもなったし、変幻自在の豊かなイメージにこめられた鋭いブラックユーモアに笑った。
テレビゲームのような設定およびアクションだ。回転仏間や無限鏡砂漠のダンジョン感たるや。若妻ゾンビとの対決なんかアニメでも見てるようだった。それもこれもあくまでもゲームであるという意味でこの世界設定なんだろう。お前らの伝統やら「現実」はゲームであり夢なのだと。
桃木飛蛇が回転仏間でゾンビのカーニバルに無理矢理参加させられる様なんて、まんま法事で田舎に帰った独身女性の災難そのままで、解像度の高さに、笑いごとではないが笑ってしまった。ゴミ出し戦争も笑った。都会で原子として生きる分には問題にならないが、田舎に帰ると噴出するあれこれ。
ラスボスの「ゾンビ王子」の造形もキャラクター設定も皮肉が山盛りで、これも読みながらにやけてしょうがなかった。60代のくせに自称少年のナルシストゾンビ。小娘にすら母性を求めながら「男は永遠に少年の心を持っているのだ」とか言えてしまう中高年男をあれこれ思い出した。絵にしたらまさにこの「ゾンビ王子」ではないか。
そして、『だいにっほんおんたこめいわく史』のタコグルメがもうこの時期からいたのは驚いた。まだ王様ではないにしろ、甘やかされし傲慢肥満マザコン男として嫌らしさを爆発させていてまったくブレてなくて良かった。
階段地獄の「馬鹿女」解体バトルもしみじみ好き。相変わらず言葉のセンスが鬼のよう。肩車で娘の首をしめる先祖代々の母達も滑稽さそのままにリアル。ただ一点、アニマだけは色々と身につまされて辛かった。
飛蛇がなぜ蛇なのかを考えると面白い。蛇といえば楽園追放の悪役だ。この物語の場合、スプラッタシティが楽園とすれば、誰にとっての楽園なのか。答え: ゾンビ。続きを読む投稿日:2023.04.18
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