この作品のレビュー
平均 3.9 (41件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
大前提として、茶器への造詣ゼロな者の感想だが、
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茶器の優美さを女性になぞらえるって、特定の異性を名器と呼ぶ行為にも通じる、ある種下世話な発想が下地にあるのは間違いないから、
遠慮なく書いてみる。
1950年前後の発表なので、バタやん50から55歳くらい。
萎びるのはまだ先、枯れるのもまだ先、とはいえ若き日の性的懊悩からは遠く離れたバタやんが、あえて20代後半の青年を仮構し、自らを乗せて作り上げた、ハイブリッドな存在が、視点人物の三谷菊治だ(cf.太宰治「斜陽」(直治)は1947年)。
発表後70年にして思うのは、なんか非道いな、なんかキモいな。
あえて下卑た書き方をすると、
死んだ親父の元愛人がメンヘラで迫ってきたから一発やっちゃったら自殺した、その娘もなんか近づいてくるからワンチャン親子丼、と思いきや結構強烈な印象を残して去って行ったから仕方なく、これもまた親父が一発くらいやってたらしい世話焼きおばさん(パイオツのアザがひでぇ)の世話になっていい嫁を貰ったのに、なんか色々罪悪感もあって勃たないんスけどどうなんスかね、という話。
なろう系・ハーレムもの・ラノベ、とまでは言わないまでも、男にとって非情に都合のいい話であることは間違いない。
この三谷、どんな仕事で生計を立てているのかほぼ描かれないのに、ぼやっと会社員ということになっている。
この点は「山の音」と同じ、謎・会社員という設定。
長谷川町子「サザエさん」の波平(山川商事の事務課長)のデスクの電話には線が繋がっていない、というのは夙に有名なネットジャーゴンであるが……川端康成の会社員観も似た感じ。
要は生活感を排除、生活にまつわる苦悩を退けて、只管美的苦悩(的時空間)に登場人物を置いたらどうなるか、という実験を、小説で行っているのだ。
実は「山の音」と並行して書かれた作品なので、登場人物の年齢に着目した比べ読みも面白そう。
またツイッターで見かけた面白い感想として、川端の小説って、抱く用の女と観賞用の女しかいないからつまらない、というものがあった。
たぶん「雪国」の駒子と葉子についての感想だったのだと思うが、本作ではその弱点(?)がもっと突き詰められた結果、利点(?)になっている。
親父が抱いた女を俺も抱く、という件は精神分析学的な興味をそそられるし、新妻を抱けない結果になっているけれども今は無垢との慰撫を慈しみたい、という(否認という防衛機制に近い)意見も、大いにアナライズしたい心性。
アラフォーになってから、10代後半の YASUNARI BOY の少年愛を後年ヒリヒリ描いた「少年」を、先日読んだ身としては、
太田夫人も太田文子も生臭い、オバンは親父がヤってたし、娘は俺が開通済みにしてしまったから劣化、やはり未開通のままの嫁ゆき子とぬくぬくしていたい、
という非道な願望が、実は旧制中学式の性欲と無垢を行ったり来たりする世界認識から一続きになっているのではないか、と考える。
で、その事情は決して時代限定的なものではなく、聖女と売春婦を峻厳したくなる男性の生理とか、母親から離れるために彼女という存在を起爆剤にせざるをえないとか、溜まったら悶々するのに出してみたらスッキリというよりは虚しくて賢者タイムとか、そういった下半身事情として、他人事ではない。
戦後川端は日本古来の美や骨董に回帰した云々言われるし、確かにノーベル賞前後ならそういう読み方でいいと思うが、2022年の読者としては、こういう読み方をしてみたい。
そんな読者としては、生臭と枯淡の中間にある本作、茶器は全然分からないにしても面白かった。
にしても川端康成って、映画、テレビドラマ、舞台化、ラジオドラマなどエグいくらいマルチメディア展開されている。
ノーベル賞という権威化はあるっちゃあるだろうけれど、受賞以前の映像化で作者が役者と映っている写真が容易にネットで見つかるくらいだから、権威や仰々しさといった構え以前に、単純に愛された小説家なんだろうな、と思う。
実際、断章の連なりが短編になったり、連作短編が結果的に中編や長編に派生したりする書き方をしているので、
権威化以後の私はいわば「完成作品」を読んでいるわけだが、当時の読者は、察するに、前後の文脈をあまり厳密に把握できない状態で、雑誌で目の前の川端文章を読んでいたのだろう。
実際バタやんの文章は平易でリーダビリティが高いので、文脈はよく判らんなりに読めて陶酔できる、と思う。
が、この読みやすさの裏側にべったりへばりついた「ニンゲン、シンジラレナイ」(キューブリック「2001年宇宙の旅」1968のHAL9000、楳図かずお「わたしは慎吾」1982-1986、の口調で)、後年の藤子・F・不二雄や宮崎駿にも通じる厭世観を、当時の老若男女はどう受け取ったんだろうか。
作家論作品論にとどまらず読者論にも興味が湧く。投稿日:2022.11.08
平易な言葉選びと感情を排した情景描写から、立ち昇る日本の雅、小都市の静けさは『古都』に通ずる良作品。
本作など特にそうだが、個人的に川端康成が作品や小編に付ける名前に非常に興味がある。
直接的な関連…が見受けられないパターンが多いが、そこへの理解が川端作品を読み解く鍵になっている気がする。続きを読む投稿日:2023.11.28
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