- 最新巻
罪と罰 下
ドストエフスキー(作)
,江川卓(訳)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.4 (52件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
最終巻は中巻以上にクライマックスの連続である。ソーニャに罪を告白するラスコーリニコフ。どこまでも彼について行くと決意するソーニャ。ポルフィーリイとの最後の対決。思想と道徳と信仰と愛憎、さまざまな思いの間で激しく揺れ動きながら、ついにラスコーリニコフは自ら警察に赴き自白する。ここで本編は終了となる。
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エピローグでは、シベリアで服役する彼の様子が描かれる。相変わらず自分の殻に閉じこもって思索に耽る彼は、囚人仲間からも嫌われて孤立している。自分を追ってシベリアに来てくれたソーニャにまで八つ当たりする始末である。しかし、次第に彼の中でソーニャの存在が大きくなっていき、いつしか彼女の面会を心待ちにしている自分に気づく。そしてある日、自分にも理解できない衝動に駆られて、彼は突然ソーニャの前にひざまずいて泣き崩れる。今度こそ愛によって自分の前にひざまずいた彼に、ソーニャもまた深い愛を覚え、互いにかけがえのない存在であることを確信する。そうして二人が残り7年の懲役をともに乗り切ろうと決心したところで、この大作は幕を閉じる。
陰鬱なタイトルからは予想できない美しいエンディングである。主人公の魂の復活を予感させる荘厳さは、いっそ神話的といっていいくらいだ。無神論者の私でさえ感動するくらいだから、キリスト教圏の人はこの「聖女の勝利」を前に、きっと私には想像できないほど熱狂的な法悦を感じるのだろう。
しかし実は、この結末は未解決の重大な問題を含んでいる。ラスコーリニコフは確かに愛に目覚めはしたが、殺人については結局すこしも反省することなく終わってしまっているのだ。彼が自分を責めるのは、初心を貫けず自首してしまったという点だけで、例の凡人・非凡人論については「どこが悪かったんだ?」と本気で自問を繰り返し、最終的には「おれの良心は安らかだ」という結論に達している。それに対する論理的な反駁は、作中ではついに提示されないままだ。
それだけではない。これは本編のエピソードだが、ラスコーリニコフに自首を勧める時のポルフィーリイの言葉がこれまた奇妙である。「ああいう一歩を踏みだした以上、心をまげないことです。それこそ正義ですよ」。これでは反省を促すどころか、逆に「きみはその路線で行け」と発破をかけているようなものだ。殺人犯に対して、司直がそんなことを言って良いのだろうか。
まるで作者は、一方ではソーニャの言葉を借りて「神の摂理に従え」と説きながら、一方ではポルフィーリイの言葉を借りて「その意気やよし」と是認しているようにみえる。この矛盾をどう解釈すればいいのだろう。結局ドストエフスキーは何を言いたかったのか。必然的に疑問はその一点に集約される。
その疑問に答えるためには学ばなければならないことが多すぎて、私の手には負えそうにない。ただ、訳者による解説本『謎とき「罪と罰」』に、ヒントになりそうな話が少しだけ述べられているので、興味があったら参照してみると良いと思う。
ひとつだけ言えるのは、「生活」がキーワードらしいということだ。ともすれば思索に熱中するあまり蝋の翼で天空に飛び立っていきかねないラスコーリニコフを、ソーニャの愛と肉体によって地上に繋ぎとめておくことができれば、つまり「思弁」と「生活」の融合を果たすことができれば、ラスコーリニコフの思想も現実感覚に根ざした生産的なものに変わるかもしれない。身体に根ざした生活を回復すること、それが彼に与えられた課題であり、それが成就された時、彼は復活するだけでなく進化をも遂げることになるのかもしれない。
長くなってしまったが、難しい話を抜きにしても物語として楽しめるのが、この作品の長所である。「面白かったー」で済ませるもよし、哲学書を紐解いて深読みするもよし。この作品には、どんなスタンスも許容してくれる懐の深さがあるように思う。「難しそう」という理由で敬遠している人がいたら、とりあえず手にとって読んでみることをお薦めする。投稿日:2012.02.13
最後の方は一気に読んでしまった。外国文学の、あるいは古い作品のあの独特の劇のような語り口は正直得意では無いのだが、主人公の行く末を早く見届けたくて手が止まらなかった。
罪への意識、というものはかくなる…ものなのか。続きを読む投稿日:2024.02.17
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