A.B.O.AB
姫野カオルコ(著)
/集英社文庫
作品情報
血液型にとらわれて「男女交際」なんてダサイ・・・・・・などと考えてはいけません。血液型を信じましょう。A、B、O、AB、それぞれの血液型の男女が8人いて、恋愛のドラマが始まる。切ない擦れ違いや、ドライな別れがあって、でも詰まるところ収まるように収まる。それって、やっぱり運命だったのかも。新しい物語の世界がある血液型恋愛シミュレーション小説。
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商品情報
- シリーズ
- A.B.O.AB
- 著者
- 姫野カオルコ
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 1998.02.20
- Reader Store発売日
- 2012.04.06
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 232ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (10件のレビュー)
-
あなたの『血液型』を教えてください!
『A型』、『B型』、『O型』、そして『AB型』と人間の『血液型』は四つの『型』に分かれています。そんな『血液型』は、『A型』40%、『B型』20%、『O型』30…%、そして『AB型』10%という割合になるのだそうです。しかし、これはあくまで日本でのお話、世界全体で見てみれば『O型』が一番多く40%を占めるのだそうです。
とは言え、『血液』自体は怪我でもしない限り私たちが日常目にすることはありませんし、輸血をするでもなければ、そんな『血液型』を意識することなど普通にはないはずです。しかし、あなたが日本人であれば、『血液型』と聞いて輸血のことを思い浮かべるのではなくもっと違うことが頭に浮かぶはずです。
“A型は几帳面。B型はマイペース。O型は明るい。AB型は変わっている”
そう、わたしたちは『血液型』と聞くと『血液型占い、血液型相性診断』へと繋がる『血液型性格分類』に興味を抱きます。『血液型による性格分析が正しいか否か』、その本当のところは分かりません。しかし、そんな考え方があるのであればそれを楽しむという形で利用することはあってもいいのだと思います。
さてここに、登場人物の『血液型』を必ず明示した上で展開する物語があります。四つの『血液型』それぞれ一人づつ男女八人が登場するこの作品。そんな八人それぞれの他に、異なる『血液型』どうしの組み合わせの違いで同じシチュエーションでも結末が違っていくのを見るこの作品。そしてそれは、”血液型について多くの人がすでに知っている情報を前提にしてたのしむ”という、ありそうでなかった物語です。
「A.B.O.AB」とまさしく『血液型』を思い起こさせるこの作品。そんな作品の冒頭を飾る短編〈わたし、冬のあいだは…〉では、霧子という女性を口説く、四人の男性が似たようなシチュエーションの中でそれぞれの『血液型』を類推させる姿を見せてくれます。では、そんな四人が見せる姿を順番に見てみましょう。
・『十二月五日。夜。八時。赤坂プリンスホテルのラウンジ』で『四回目のデート』、『五回目の決心をもって』『セーラムの流れを見つめている』のは『A型』の栄介。『実は』と『言いかけてから、すこし間をおき』、『部屋はとってあるのだけれど』と『やや早口』で語る栄介に『わたしね、冬のあいだはひとりでいたいの』と『マティーニを飲み干し』た霧子。そして、ホテルの玄関で『今夜はカクテルをつきあってくれてありがとう』と言い、『おやすみなさい』と立ち去った霧子を見送り『やっぱりフラれたか。辛い冬になりそうだ』と思う栄介。
・『十二月六日。夕方。六時。渋谷の「いろはにほへと」』で『霧子ちゃんも飲んで飲んで。さ、さ、飲んでよ』と『キリン一番搾り』を飲むのは『O型』の尾形。『ねえ、オレとつきあおうよ。つきあうべきだ』と『霧子の手をにぎ』る尾形に『わたしね、冬のあいだはひとりでいたいの』とほほえむ霧子。『そんなこと言わずにさあ。夏もいっしょにいようよ』と強引にカラオケの店に霧子を連れて行った尾形は『途中で霧子が帰っても』『歌いつづけ、飲みつづけ』ます。翌日、『ガンガン鳴る』頭を抱える尾形は、『前日の夜のことをまったくおぼえてい』ませんでした。
・『十二月八日。九時。阿佐谷の「まーまいるだ」。ケニアの家庭料理の店」』で『スリランカに四年いたという店主』と親しく会話するのは『B型』の薇原。『ねえ、マスター、この人がね、ぼくの本命なんだよ』と店主との間の会話を弾ませる薇原についていけない風の霧子。『オレの部屋に今夜は泊まってくよな』と突然言われた霧子は『わたしね、冬のあいだはひとりでいたいの』と返すも止まらない会話にそっと帰った霧子。『あれー、彼女、帰っちゃったの?』、『俺だって知らんよ』と笑い合う中に薇原は晴々とした気分で、『心から春になるのを楽しみにし』ます。
・『十二月九日。午後十一時二十五分。十二時になる前の時間』、『今日と明日が入れ替わる』直前の『詩的な時間』を選んだのは『AB型』の恵比寿。『しかし、待てよ…』と躊躇する恵比寿ですが『番号をプッシュ』し『つきあってほしい』と『即、用件を言』います。『どちらさま…』と霧子に言われ『名乗り忘れるとは…』と恥じ『恵比寿です。つきあってほしい』と言うも『わたしね、冬のあいだはひとりでいたいの』と返され『秋のうちにきみをつかまえておくんだったよ』と言うも『ガチャン』と切れた電話。『気のきいたセリフ』で終えられ恵比寿は満足します。
十二月五日から九日の四夜。『A型』の栄介、『O型』の尾形、『B型』の薇原、そして『AB型』の恵比寿という四者四葉の『血液型』を持つ男性が、同一人物かは分かりませんが霧子という一人の女性に交際を申し込むシーンが淡々と描かれた冒頭の短編〈わたし、冬のあいだは…〉。『血液型』に着目し、似たようなシチュエーションで全く異なるドラマがそこに浮かび上がっていく好編でした。
“血液型にとらわれて「男女交際」なんてダサイ…などと考えてはいけません。血液型を信じましょう。A、B、O、AB、それぞれの血液型の男女8人がいて、恋愛のドラマが始まる。切ない擦れ違いや、ドライな別れがあって、でも詰まるところ収まるように収まる。それってやっぱり運命だったのかも。新しい物語の世界がある血液型恋愛シミュレーション小説”とありそうでなかったなかなか興味深い世界を予感させる内容紹介が作品の前提を説明するこの作品。元々は1992年に「四角関係」という書名で単行本として刊行されていたものを、1998年に出版元を変えて「A.B.O.AB」という書名に改題して文庫本で刊行された…という経緯を辿るようです。世の中には単行本の後に文庫本として刊行される際に改題する作品は時々見られます。元の書名で単行本で読まれた方には、改題は違和感があるかもしれませんが、私のように後の世に両者を比較して見ることができる立場からは、この作品の改題は間違いなく正解だと思います。というより、元の「四角関係」って何?というようにも思います。文庫本刊行後、四半世紀が経過した今の世でもこの改題後の書名こそがこの作品の内容を見事に表していると思います。
そんな物語は、書名の通り”A、B、O、AB”という四つの『血液型』をテーマに展開します。上記では男性四人についての物語を冒頭の短編を使ってご紹介しましたが、実際には主人公は八人です。そうです。男性だけでなく女性についても四つの『血液型』それぞれの主人公が登場するのです。そんな八人の人物を『血液型』別で整理しておきましょう。
・『A型』: 男性 - 栄介(えいすけ)、女性 - 永子(えいこ)
・『B型』: 男性 - 薇原(びはら)、女性 - 美子(びいこ)
・『O型』: 男性 - 尾形(おがた)、女性 - 旺子(おうこ)
・『AB型』: 男性 - 恵比寿(えびす)、女性 - 江琵琶子(えびこ)
物語を読んでいる中に誰がどの『血液型』か分からなくならないようにという配慮からか?極めて象徴的な名前が付けられていることがよく分かります。かつ、男性は苗字、女性は全員が”○子”で揃えた下の名前という統一感もあります。物語のテーマである『血液型』によるそれぞれの違いを見せていくということにこだわり、余計なことで読者が混乱しないようにという見事なまでの配慮がなされた作品だと思いました。
しかし、ここで気をつけたいのは作者の姫野カオルコさんがこのように説明される部分です。
・『同じ名前でありながら、それぞれのストーリーのなかでちがう人物である』。
・『八人の俳優が、それぞれのストーリーでその回ごとの役に扮しているような仕組みになっている』。
お分かりいただけるでしょうか?上記のような説明を聞くと、男女それぞれ四人、計八人の主人公が登場する物語!という風にイメージしてしまうと思います。しかし、この作品の八人の主人公は、あくまでこの名前が象徴的に使われるだけであって、13の短編通して同じ人物が描かれているわけではない、ということに気をつける必要があります。あくまでその『血液型』の男性、その『血液型』の女性をアイコン的にその名前で紹介しているにすぎないとも言えます。これは、なかなかに斬新な発想です。少なくとも私はこのような考え方をとった小説を読んだことはなく、単純に凄い!と思いました。そして、この作品を読む上で気をつけなければならないこととして、その主人公の名前でこのような人というキャラクターイメージを持たないことが大切!ということがわかります。なぜなら、彼らは別人なのです。そうしないと、彼らが描くストーリーに矛盾が生じてしまって、あれれ…となってしまうのです。でも、それは読者が間違いです。あくまで意識する必要があるのは、”○型”の『血液型』を持つ男性、女性が描かれていると見る必要があるのです!
そんな物語は、四つの『血液型』の男女の主人公たちが”お題”と言っても良いタイトルが付けられたそれぞれの短編でどのような振る舞いを見せていくかが描き分けられていきます。ポイントはあくまで似たようなシチュエーションで『血液型』による行動の差異をつけていくところです。その中から男女二人が夕食の待ち合わせをする中に『血液型』それぞれの違いを見せていく短編〈食事でも…〉の一部をご紹介しましょう。この短編では、それぞれの『血液型』の主人公が組み合わせられるシチュエーションが展開するのが特徴のひとつです。
共通するシチュエーションは以下の通りです。
・『待ち合わせ時刻は7:00PM』
・待ち合わせ場所は『銀座』
・食事場所は秋田料理『あきた』
以上の条件の元に四組のペアが登場します。
・栄介『A型』 & 永子『A型』
→ 栄介: 6:50PM到着、永子: 6:52PM到着
→ 『コーヒー』という栄介のオーダーに、『わたしも』と言う永子。『あきた』移動後『ぼくが決めたんでいい?』と訊く栄介に『おまかせするわ』と応じた永子ですが、栄介のオーダーした『小魚がダメ』と思うも特に何も言わず。しかし、楽しい場を過ごした後、栄介は永子の家の前まで送ります。
・永子『A型』 & 恵比寿『AB型』
→ 永子: 6:50PM到着、恵比寿: 7:05PM到着
→ 『メニューの料理の内容』を確認し、『両者の好みが完全に合致する』ものだけをオーダー。帰りに『何線で帰るんだっけ?』と訊く恵比寿に『丸ノ内線よ。恵比寿さんはJRでしょう?』と言われるも『今日は丸ノ内線で帰る』と言う『送り方』を見せる恵比寿。
・栄介『A型』 & 旺子『O型』
→ 栄介: 6:50PM到着、旺子: ジャスト7:00PM到着
→ 『コーヒー』という栄介のオーダーに、『チョコパ』と言う旺子。『この近くに秋田料理の店がある』と提案する栄介に『中華料理…朝から決めてた』と言う旺子。相談なしに定番を次々オーダーする旺子。タクシーで送り、旺子の部屋の前で踵を返す栄介。
・永子『A型』 & 薇原『B型』
→ 永子: 7:00PMに到着するつもりが仕事が長引き7:15PM到着、7:25PMに床にしゃがむ薇原を見つけ謝る
→ 『これと、これと…』とオーダーし終えた薇原に、『わたしも何かオーダーしていい?』と『かろうじて』一品オーダーする永子。『一万二千円だって。きみ、五千円でいいよ』と会計の終えた後、『雀荘寄ってくから』と『満面の笑み』で去った薇原。
いかがでしょうか?7:00PMという待ち合わせ時刻に対して微妙に到着時間が異なります。この辺りにひとつ『血液型』の差異を見るということなのだと思います。その後のやり取り、結末にも差異は現れていきます。もちろん、ここからは見えないさまざまな事情があるでしょうし、そう単純に割り切るのもどうかとは思います。しかし、このような組み合わせを見ていくと、どの型とどの型の組み合わせがペアとしては最適なんだろう?男女の関係性には『血液型』は重要なのかもしれない…とも思えてきます。そして、もう一つ面白いと思うのは、この短編に関わらず、それぞれの『血液型』の登場人物を見る読者の『血液型』がこのシチュエーションを見る感覚に左右してくるのではないか?ということです。『A型』の人は待ち合わせ少し前に到着するように行動するのに対して『O型』の人は『ジャスト』で良いと考える…そんな描写は『A型』の読者と『O型』の読者では違って見えても来るかもしれないということです。なかなかに奥深い世界を見せてくれる作品だと思いました。
そんな短編は他にも〈部屋〉、〈禁煙〉、そして〈自慰〉…とさまざまなシチュエーションの中で『血液型』の異なる男女がどんな風に考え、どんな風に行動の違いを見せていくかが描かれていきます。そもそもこのレビューを読んでくださっている方の中にも
“血液型によって人格が決定されるなんて、科学的にはなんの根拠もない”
と冷静さを見せられる方もいらっしゃるかもしれませんし、そもそも、
“血液型を気にするのは日本人だけだ”
と冷めた側面で『血液型』の話を切って捨てられる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方には、
“A型は几帳面。B型はマイペース。O型は明るい。AB型は変わっている”
といった性格分析はバカバカしいことの極みなのだと思います。かく言う私もあまり『血液型』には興味がありません。そもそも上記した性格分析を聞いて、そうなの?と思ったくらいです。そんな私がこの作品を読んで見えてくる世界と、『血液型』による性格分析に詳しい方が読んで見えてくる世界は当然に異なります。しかし、だからと言ってそこに何か問題が起こるわけでもありません。これはあくまで姫野さんが一つの話題作りとして『血液型』という万人にとって身近なテーマの下に提供してくださった作品、それ以上でもそれ以下でもないのだと思いました。
“本書は血液型相性診断の本でも血液型占いの本でも、もちろん血液型によって人を判定する本でもない。血液型について多くの人がすでに知っている情報を前提にしてたのしむ、あくまでも短編小説集”
そんな風にこの作品の位置づけを説明する姫野さん。そんな姫野さんが今から30年以上も前に記されたこの作品には、『とらばーゆして間もない会社で…』、『赤坂プリンスホテルのラウンジ』と言った時代を少し感じさせる中に、『血液型』という人間にとって普遍のものに光を当てる物語が描かれていました。『血液型』を話題にサクッと楽しめるこの作品。いや、それはちょっと違うでしょう…とツッコミを自由に入れて楽しめるこの作品。
ありそうでなかったポイントを上手く点く、なかなかに面白い世界を垣間見せてくれた作品でした。続きを読む投稿日:2023.11.13
栄介、尾形、微原、恵比寿の4人の男たちはミステリアスな霧子に翻弄される。一方、永子、美子、旺子、江琵子も霧田に恋焦がれる。そんな8人が交錯し、やがてカップルに。血液型神話を逆手にとった恋愛シミュレーシ…ョン小説――
A.B.O.ABの各血液型別性格通りに行動する男女の物語。途中は自分の血液型や周りの人の血液型を思い出しながら彼らの行動に納得したり、笑ったり。最後、誰と誰がカップルになるか当てるのが正しい(?)読み方だろうか。続きを読む投稿日:2022.04.14
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