48億の妄想
筒井康隆(著)
/文春文庫
作品情報
鬼才・筒井康隆が31歳で執筆した画期的な処女長篇小説。テレビが絶対の時代だ。街中いたるところに設置されたカメラ、テレビ・アイを意識して、自分をカッコよく見せるため、テレビ画面にちらりとでも映るため、あらゆる人間がドラマを演じるように振舞いつづける社会。この地球上に住む48億の人間のうち、いったい正気なのは誰か……テレビに踊らされる人間たちを描いて、マスコミを痛烈に諷刺するこの小説は、まるで21世紀日本への予言のようだ。
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商品情報
- シリーズ
- 48億の妄想
- 著者
- 筒井康隆
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 1987.01.01
- Reader Store発売日
- 2011.09.16
- ファイルサイズ
- 0.6MB
- ページ数
- 267ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (9件のレビュー)
-
この本を読んでみようと思ったのは、ひとえに想田和弘氏のこのツイートを見たからである。
@KazuhiroSoda: アイドルの坊主頭を見ながらもう一つ連想したのは、筒井康隆が1965年に発表した『48…億の妄想』という小説だ。それはすべての人間がテレビで演じるために生きているような世界で、番組のために戦争まで起こしてしまうわけだが、今読むと筒井氏の先見の明には舌を巻くばかりだ。
「アイドルの坊主頭」とは言うまでもなくAKB48峯岸の恋愛禁止条例違反の謝罪映像のことである。
私は、1965年に作られたこの小説が、現代日本とAKBの現実をあまりにも予言している様で、ビックリしてしまった。それは、例えばこのような記述である。
「すべての人間が投書家になった今では、マスコミの受け手がすなわち送り手の一部でもあった。大衆はすでに、自分たちを特殊な作り手のひとりとして意識していた。もちろん彼らは、はじめのうちマスコミに対して、何らかの抵抗するものを持ってはいた。だが、やがてマスコミの中に巻き込まれ、今すでに自己訓練も成長も止まってしまっていた。」
テレビがデジタル化した現在、これはほとんどリアルな現実である。
「今ではすべての人間が、家から一歩外へ出さえすればアイを意識して行動していた。大っぴらにアイが設置されていなくても、どこに隠してあるかわからないのだ。人びとの行動をアイが捕らえるのではなく、アイに捕らえてもらい、あわよくば放送してもらうために人びとが行動していた。」
これはまだそこまで現実化はしていないかもしれない。しかし、YouTubeの人気映像を見ていると、現実化はすぐそこまでという気かする。
「放送開始以来23年、カラーテレビは普及し、人間にとってテレビは、空気や水と同様の生活必需品になっていた。そしてテレビを見ることは、呼吸や食事同様の自然な生存方法だった。560万台のアイが日本全国にばらまかれた。しかし、だからといって、テレビに出たいという人間の数が低下することはなかった。逆に様々な生活条件の中でテレビを見るいろいろな人間たちがるら、自分の仕事や趣味からの延長で、テレビに出演したいという思いをますます拡げていったのである。彼らにとっては、出演に必要な特技、つまり演技力などは、どうでもいい問題だった。出演するために、利用出来るものはなんでも利用してやろうと目を血走らせているだけだった。」
現代の人間がすべてそうなっているわけではないが、「アイドル」であろうとしている峯岸たちは「こういう心境」になっていると私は思う。
「過去百何十年かの間にマスコミは、平凡な人間を有名にしてしまう新しい力を持った。いやむしろ情報社会の大衆ーテレビの視聴者や活字情報の読者である大衆が、マスコミと協力して名声を製造する方法を発見したと言ってよい。大衆はそれらの有名人の名前で頭の中をいっぱいにした上、さらに有名人を求め続けた。だが、大衆は、彼ら有名人への自分たちの賞賛が、人工的に作られたものに捧げられているのだということを信じようとはしなかった。人工合成物に過ぎない有名人を、真の英雄だと思い込んでいた。いや、思い込もうとしていた。(略)彼らは大衆と同じ性格を持っていなければならなかったのだ。そして今、大衆の視界は、分かり切った男女の姿でいっぱいになっていた。現実の知人と間違えられて話しかけられるテレビ・タレントほど、人気があった。自分たちの空虚さを反映しているだけのイメージに飛びつく大衆は、大衆自身の影を増やし、拡大させているだけだった。(略)にもかかわらず、有名になりたがる人間は、あとを絶たないー何故だ?折口は考え続けた。彼らには自信があるのだー折口はそう思った。自分の才能に自信があるのではない。いったん有名になりさえすれば、常に自分を宣伝して、いつまでも忘れられることのないように、始終ニュースやゴシップを作り続けて見せるという自信た。」
この「有名人」を「アイドル」へ、「大衆」を「ファン」に置き換えれば、そのままAKBとファンの関係になるだろう。しかも、AKBにはこの数年間常にハンディカメラがついて回り、まるで空気のようにプライベートの「感情」を公開することを自らの使命だと思い込もうとしていた。これまで三回作られた映画ドキュメンタリーはその集大成である。
AKBの姿は、テレビ時代の全盛が始まる48年前に筒井康隆が予言したことであり、まさに近未来の我々の姿でもある。
非常に空恐ろしい。
更には、ほとんど尖閣諸島問題と同じような事が、第二部ではリアルに描かれている。メデイアに踊らせれて戦争まで触発される様な「武力衝突」が「演出」されるのである。
「どちらの政府も、民間で勝手に喧嘩している限りでは、むしろこの喧嘩を喜ぶはずなのです。韓国のマスコミ関係者に尋ねたところでは、韓国政府としては、野党や学生たちの抗議や非難が日本漁船に向けられている間は現政権を維持することが出来、安泰でいられるわけですし、その間の国民の攻撃衝動とエネルギーを、デモや地下運動から喧嘩の方へ転じさせておくことも出来るわけで、おそらく大喜びだろうということでした。また、わが国の政府にしたところで、大衆の関心が韓国に向けらることに対しては異存はないのです。(略)また、アメリカは、日本人の敵意や攻撃欲が韓国に向けば、それを利用して経済侵略が出来る」
「そしてマスコミは」P・Pがにやりと笑って言った。「それを材料にしてニュースがつくれるというわけですな」
もう、韓国を中国に置き換えれば、現代の日本を解説しているが如きだ。
さて、こうやって誕生したマスコミの寵児たちは最後のニセ戦争のドタバタでみんな見事に死んでゆく。一応、「物語」の上では。
2013年2月26日読了続きを読む投稿日:2013.03.21
内容紹介
テレビが絶対の時代、あらゆる人間が各所に設置されたテレビ・アイを意識してひたすら熱演。テレビに踊らされる人間を描いて、マスコミを痛烈に諷刺する。投稿日:2019.10.29
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