希望

• 

  レビューネーム未設定

  この著者は平凡な人々の心の闇の描写が抜群に上手い。平凡な日常を送ってきた(いる)と客観的には見える人物でも、主観的には事件があり生涯にわたり傷を残している。犯罪者と平凡な人間の境目などないようだ。
  読…んでいると、自分自身が平和に日常を送ろうとしていて、敢えて見ないようにしている身近な心の落とし穴を鮮やかに示されたような、寒さを覚える。この著者の心は健康だったのだろうか。未来を諦めたような暗い読後感を覚える著作が多い。
  この本のタイトルを何故こうつけたのかを知りたい。誰かに助けて欲しかったのだろうか。その希望は叶わなかったのだろうか。続きを読む

  投稿日：2017.10.16

• 

  ロビーＢ

  １４歳の少年が老夫人を立て続けに殺害するという少年犯罪を発端にして物語は幕を上げる。
  
  ただし、この事件は物語にとって単なるきっかけにしか過ぎない。
  犯人の少年がなぜそんな事件を起こしたか。
  その疑問…は最後まで結局解けることはない。
  殊勝な態度をとり続ける少年が本当に悔いているのかもわからない。
  
  この上なく残虐で無慈悲な事件を起こした殺人鬼（と呼んでもよかろう）は物語の中盤から終盤にかけて、被害者になり、その後はむしろ正義の執行者のように扱われる。
  ……というよりは、むしろ少年は物語の中心から離れていく。
  
  少年と、その家族。
  もしくは少年と、被害者遺族が物語の中心になると想像していたので、かなり拍子抜けしてしまった。
  
  物語はどちらかと言えば、単なる語り手（または冷静な傍観者）になるかと予想していた、女性カウンセラーを中心として進んでいく。
  
  物語がどこに向かうのか、明確な謎もないままに読み手は翻弄される。
  （少年を襲った犯人は誰かというのが中盤以降のメインの謎になるが、魅力的な謎とは言い難い）
  
  すべての人たちが苦悩のあまりインモラルで理解不能の行動を取り始め、物語そのものも拡散したまま集約されずに終わってしまった印象がある。
  多視点で描くことは時に物語を制御不能に陥らせる。
  どこに物語の核があるのかよくわからないままに終わってしまい、残念な思いがした。続きを読む

  投稿日：2020.04.24

すべてのレビューを見る