
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.8 仕事の極意

もうすぐ新年度。新たなスタートを切る前に、生活の基盤となる「仕事」について改めて考えてみませんか。成功を掴むにはどのような努力をすべきなのか。そして、経済をどう読み解く?カリスマ・ビジネスマンの経験と、さまざまな文献から学ぶビジネスの極意。
転職に失敗したら、ハイヤーの運転手になろうと思っていました。
子どもの頃は、金融の道に進もうなんてまったく思っていませんでした。ただ、祖父が朝鮮銀行の初代ニューヨーク支店長で、親父もサラリーマンだったので、卒業後は会社に入るものと思っていたんです。それに僕が卒業した1974年は、ものすごく売り手市場でね。僕の入学した一橋の学生はほとんど銀行か商社に就職してた。それで僕も三井信託銀行に入りました。とても不遜で失礼な話なんだけど、その時はここなら社長になれそうだと思ったんですね(笑)。1年の研修後の2年間は、ずっと外回りでした。その頃の僕は口ベタで、人と話すのがすごくストレスだったんです。でも負けず嫌いだから、死ぬほど働いてトップを取り続けました。だけどそこで、悩むんです。このままだと嫌いな営業から離れられない、と。それで社内制度を使って、アメリカのビジネス・スクールに留学したんです。
帰ってきてからは外国部とロンドン支店に勤務し、 1985年にJPモルガンに転職しました。とはいえ、当時は終身雇用制まっさかりの時代。ここで失敗したら、ホワイト・カラーの仕事には二度と就けないと思い、いざとなったらハイヤーの運転手になる心づもりでした。ところがモルガンで、素晴らしいボスと出会えたんです。彼に認められ、モルガンのなかでも一番の大きな勝負をさせてもらい、その実績を買われ、日本人としては外銀で唯一の東京支店長になったんです。彼らの仲間となりその文化に触れたこと、また外から日本を見ることができたことは、私の大きな財産になりました。そして2000年、49歳のときにモルガンを退社したんです。
人生もマーケットと同じ。リスクを取らなければ、リターンは得られない。

モルガンに転職するときは、清水の舞台から飛び降りる覚悟でした。人生もマーケットも同じ。ハイリスクを取らないとハイリターンは得られない。ハイリターンを望むか否かは、人生観の問題です。だけど、出世したいとか、お金を儲けたいといったハイリターンがほしい人は、どこかでチャレンジしないといけない。ただ、なにもせずチャレンジしたら、ギャンブルになってしまう。リスク・コントロールが必要なんです。そのためには、勉強するしかない。ノウハウ本ではない専門的な本を読み、経済の知識を高めて、はじめて勝負できるんです。
ディーラーはマーケットを読み、経済がどうなるかを判断するのが仕事。そのマーケットというのは、森羅万象の結合体なんです。だから、いろんな本を読んで、分析したり、ロジックを構築することがとても有効なんです。特に若い頃は、なんでもいいから読んでおくといいと思います。映画も情緒的にはいいかもしれないけど、やっぱり頭を訓練するためには、「読む」ことがすごく重要だと思いますね。そして厳しい時代を生き延びるためにも、本を読み、経済の本質を勉強することが大切だと思っています。
もうひとつ、本にはいいところがあってね。それは、苦しいときの慰めになることなんです。僕はよく、「優秀なディーラーになるためには、三度の血反吐を吐け」と言ってるんですが、ディーラーって苦しいんですよ。マーケットを読み、大きなお金を動かすのはすごくプレッシャーがある。そういう苦しいときに小説を読むと、癒されるんです。僕は最近は、池波正太郎や藤沢周平などの時代小説を読んで癒されてますね(笑)。
紙で味わう一冊
『武者小路実篤詩集』 / 亀井 勝一郎(編)/ 新潮文庫

本は大好きでいろいろ読んできましたが、この詩集も、学生の頃から好きな一冊です。今でも覚えているある詩の一節が、「大きな木を/全部的に見ろ/そこにある虫葉許りを捜しだすな」というもの。小学生の言葉のように簡単だけど、そこから世の中の動きを知ることができる。こういう感性が、経済を学ぶためにも必要なんです。
Profile
藤巻 健史 株式会社フジマキ・ジャパン 代表取締役

1950年、東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に社費留学にてMBAを取得(ノースウェスタン大学院)。85年米銀のモルガン銀行東京支店入社。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、当時東京市場唯一の外銀日本人支店長に抜擢。東京支店長などを歴任し、2000年退社。現在、株式会社フジマキ・ジャパン代表取締役社長。一橋大学経済学部非常勤講師。週刊朝日にて「案ずるよりフジマキに聞け!」を連載中。






