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Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.46 さあ、古本を巡る旅へ

※本記事は2012.9.21時点のものとなります。

本好きの間で話題となり、シリーズ累計310万部を突破、今年6月には3巻が発売され、本好きのみならず多くの読者を虜にしている注目シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』。古本に秘められた謎を解き明かすミステリー的要素はもちろん、人間ドラマや恋愛模様、古本にまつわるうんちくも豊富。そんな幾層にもオイシイ小説の作者・三上延さんとはどんな人物なのでしょうか? 作家になるまでのいきさつや作品が生まれるまで、お気に入りの本など、三上さんの素顔に迫りました。

―『ビブリア古書堂の事件手帖』第1巻は、文庫で初めて本屋大賞にノミネートされるなど、大ブレイク中ですね。

古書店でアルバイトをしていたこともあって、いつか古書店を題材にした小説を書いてみたいと思っていました。こんなに幅広い層の方に読んでいただけて本当にうれしいです。でも、とっておきの古書店ネタを使ってしまったので、さて、これからどうしましょうか…(笑)。

―小さいころから読者家だったとか。

僕としては、友達と同じように外で遊んでいた記憶があるんですが、母親いわく、本が読みたくてすぐに家に帰ってきてしまう子供だったようです。3歳くらいのころは、「ホットケーキ美味そう、食いてぇーっ!」と思いながら絵本『ぐりとぐら』を読み、小学校では江戸川乱歩シリーズ、中学校ではシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティーなどミステリーに夢中になりました。


それから、向田邦子さんの『思い出トランプ』。ちょうどテレビでドラマ化されたときで、たまたま母親がもっていて読んだらハマってしまって。中年男性の不倫の話なんかも入っていて、登場人物が必ずしもいい人ばかりじゃないという点が好きで、中学生時代の愛読書のひとつと言えます。振り返ると、昔も今も、ジメッとした話を好む傾向にありますね(笑)。全体的にみて明るい部分があるお話も、ちょっと暗かったり怖かったりする部分ばかり覚えています。

―今日お持ちいただいた2冊も、ジメッとした話ですか?(笑)

読み方によってはジメッとしてるかな(笑)。でも、どちらもきらびやかな感じではないですね。2冊とも、20代半ばに古書店で購入しました。小山清の『落穂拾い・聖アンデルセン』(絶版/新潮社、現在は『日日の麺麭・風貌』講談社文芸文庫に収録)は売れない作家が古本屋の娘と仲良くなるという温かい話なんですが、僕の中では仕事がまったくうまくいかないとか貧乏だとか、そういった暗い部分ばかりが印象に残っていて(笑)。というのも、そのころちょうど大学を卒業したてで、両親に「作家になるまで就職しません!」と宣言して「28歳までは好きにしていい」と言われたばかりだったんです。アルバイトしながら小説を書き、いろいろ悩んでいたころだったので、身につまされるところがあったんでしょうね。


久生十蘭『昆虫図』(現代教養文庫/社会思想社)も、これまたおどろおどろしい話です(笑)。ものすごく短い短編のミステリーなんですが、ちゃんとオチがあって余韻が残る。短編のお手本として、文章の構成やリズムを知りたくて、丸ごと1編書き写したりしていました。

―いつごろから作家になりたいと思っていたんですか?

本が好きだったせいか、小学生のころから作文が得意でよく褒められていたので、そのころから漠然と思っていたのかもしれません。小学校高学年くらいから、誰に見せるわけでもなく、物語らしきものは書いていました。高校で文芸部に入り、初めて友人に読んでもらって「面白い!」と言われたとき、「そうか、僕の小説は面白いのか」と作家になる決意をしたんだと思います。


とはいえ、28歳になっても、応募する作品はどれも箸にも棒にもひっかからず、全然ダメ。そろそろちゃんと働かなきゃと思ったとき、近所の大きな古書店で貼り紙を見かけたんです。「アルバイト募集! がんばれば社員になれる、君も社員にならないか?」的な(笑)。ちょうど本に詳しい人を探していたらしく、すぐにいろいろと任せてもらえて、1年後にはフロアリーダーに。仕事が面白くなってきたころ、「社員にならないか」と打診されました。そう言われたとき「やっぱり小説が書きたい、もう一度書いてみよう」とあらためて思ったんです。

―古書店でのアルバイトを続けながら、小説を書いたんですか?

そうです。アルバイトの後、家に帰って夜中に執筆、翌日はお昼前に出社、という生活を続けながら書いた長編『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)でデビューしました。すぐに次作を出してくれと言われ、その半年後、アルバイトをやめて作家一本に。若者向けのライトノベル作家としては固定読者がついていたものの、爆発的に売れるわけでもなく、なんとなく“奥歯にモノがはさまった”ような売れ行きで…(笑)。その後、もう少し大人の世代に向けた文庫レーベルを創刊するので、何か書かないかと言われて企画を出したんです。

ジャンルも内容もまったく違う2つの企画のうち、1本が『ビブリア』の原型となるものでした。実は、ボツになった企画の方にかなり力を入れていたんです。「企画を出すのに1本じゃ、なんだしな…。そういえば、古書店を題材にした話を書こうと思ってた」と、あわてて作った方が採用されました(笑)。肩の力が抜けていて逆によかったのかもしれません。

―舞台は北鎌倉の小さな古書店「ビブリア古書堂」。古本にまつわる謎を、女性店主の栞子とアルバイト店員の大輔が解決していく連作短編ミステリー。これらの設定は、企画の段階でどこまで決まっていたんですか?

主要なキャラクターは男女2名。ひとりはものすごく本に詳しい古書店の店主、もうひとりは本については何の知識もない聞き役。毎回違う古本をテーマとした連作短編。ということくらいは決まっていましたが、あとは担当編集者と何度も話し合いながら詰めていきました。実在の本をテーマにするのは難しいかもしれない、と思って「架空の本をテーマにしてもいいですか?」と聞いたら「せっかく古書店で働いた経験があるのにもったいない。リサーチは大変ですが、古本をテーマにしましょう」とあっさり言われて。それをミステリーに仕立てていくので、もう、ほんと大変です(笑)。


テーマとなる古本が最初に決まっている場合もあれば、連作短編なので、それまでの話の流れや登場人物たちのエピソードありきで古本を選ぶ場合もあります。どちらにしても、古本にまつわる背景や資料を読みこんで、物語を作りあげていきます。最初に古本を調べたときにはとりたてて面白いと思わなかった話が、思わぬところで登場人物の動きとつながったりすることもあって、毎回、奇跡が起こって話が出来上がっているという感じです。

―三上さんが古書店で働いていたときの経験を取り入れることも?

もちろんあります。個人のお宅へ本を買い取りに行くシーンなどは、実際、僕もよく買い取りに行っていたので、その経験が生きています。また、僕が古書店でみつけて買った本のエピソードを取り入れることもあります。たとえば1巻の第3話ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)は、ビブリア古書堂に持ち込まれた本に「私本閲読許可証」というラベルが貼られているんですが、実際に僕がもっている本なんです。刑務所で受刑者が持っていたもので、それをもとにプロットを考えました。


そんなふうに古本には、新刊の本にはない独特の雰囲気があるんです。人の手を経るうちに、その本だけがもつ歴史が生まれるというか…。線が引いてあったり、印がしてあったり、書き込みがあったり。スピン(栞)の使い方や帯の保存方法etc.「その持ち主はどんな時代に生きて、どんな人で、どんな思いでそこの印をつけたのかな…など、その本の奥付に記された発売時期や、後ろのほうにある広告などをあわせて読むと、想像が膨らんでさらに楽しい。本好きな人はもちろんですが、大輔のように本が苦手な人も、このビブリアシリーズを読むことで少しでも本に興味をもってくれるとうれしいなと思っています。

―ところで、「ビブリア古書堂」店主の篠川栞子さんは美人で巨乳(笑)、かなり内気な性格で人としゃべるのが苦手、ところが本のことになると別人に変わる…。これって三上さん、タイプの女性ですか?

少し違います(笑)。栞子さん、実際にいたら周囲はかなり困る、天然系ですから。でも、古書店に知識が豊富でキレイなお姉さんがいたらいいなぁ、という妄想から始まったのは事実です。僕自身は、どちらかというと、大輔の元彼女・高坂晶穂のように、ズバズバ物を言って行動力がある女性が好きですね。あと、巨乳については……確かに少し大きめ、という設定にはしましたが、イラストレーターさんの好みが大きいかと(笑)。

―今後の野望、目標を教えてください。

『ビブリア古書堂の事件手帖』では、栞子と大輔の恋愛のゆくえ、栞子の家族の秘密など、僕自身、まだ物語は始まったばかり、という印象です。まだまだ続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。それから、今後は時代小説や恋愛小説も書いてみたいと思っています。

―もしかして、ジメッとした?

もちろん、ジメッとした時代小説、恋愛小説です(笑)。

Photo/Mari Tamehiro
Text/Miho Tanaka(staff on)

舞台は、北鎌倉でひっそりと営業する古書店「ビブリア古書堂」。人並みはずれた古本の知識をもつ内気な美人店主・篠川栞子と、本が読めない体質のアルバイト青年・五浦大輔が、店に持ち込まれる古本にまつわる謎を解く、連作短編ミステリー。ふたりの恋愛模様はもちろん、彼らをとりまく脇役陣も魅力的。また、誰もが知る作品から隠れた名作まで、本作品で取り上げられた古本は、巷の古書店で一気に価格が上がる、という噂も! 本好きもそうでない人も、読書の楽しさを今一度実感できるシリーズです。

Profile

三上延 (みかみ えん) 作家

1971年神奈川県横浜市生まれ。10歳から藤沢市に住み、高校は鎌倉市の県立高校へ。中古レコード店や古書店でのアルバイトを経て、2002年『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫/アスキー・メディアワークス)でデビュー。ミステリーはもちろん、ホラーからファンタジーまで幅広い作風と、丁寧に紡がれる物語には、老若男女問わずファンが多い。

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