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道尾秀介さん『冒険はいつだって身近なところに眠ってる』

※本記事は2013.9.13時点のものとなります。

新作を出すたび、読者を小気味よく裏切ると同時に、心から楽しませてくれる―。いま最も注目の作家・道尾秀介さんの最新作『光』の単行本版と電子版、同時発売に合わせ、作品にまつわる裏話を徹底取材!ネタバレギリギリのエピソードから道尾さんの素顔まで、じっくり語っていただきました。

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『カラスの親指』の作家・道尾秀介のインタビュー
『冒険はいつだって身近なところに眠ってる』

―最新刊『光』に登場する主な人物たちは小学4年生。直木賞を受賞した『月と蟹』は小学5年生、09年「日本で最も売れた文庫」に認定された『向日葵の咲かない夏』の主人公も子供ですね。

子供たちを主人公にする最大の魅力は、普遍的なものが描けるという点です。特に『光』では、どの時代でもない、どの場所でもない、ひとつの普遍的な少年少女の物語を書きたかったんです。少年少女時代、誰もが感じたことのあるワクワクやドキドキ、夢や闇。そういった思い出はすごくファンタジックであって欲しい。だから、『光』の主人公たちは小学4年生に設定しました。3年生だと幼なすぎるし、5年生だと、たとえば男女が違うものであるとか、世の中の常識や分別について、少し知識がつき始めている。だから、まだ無邪気さが残る4年生が最適だった。洞窟の中の大発見にワクワクしたり、昔から伝わる人魚伝説に恐怖を感じたり…。そういう経験、この世代ならありうるな、と読者が思えるような設定にしたかったんです。さらに、それを作中で大人になった「わたし」が振り返ることで、成長によって失ったものと手に入れたものを浮き彫りにすることができました。

―登場する子供たちの経験に、道尾さんご自身の子供時代は投影されているのでしょうか?

まったく投影されてないですよ。すべて想像です。たとえばみんなでアンモナイトの化石を探しに行く場面などは、新聞の記事をヒントにしました。その記事を読んだとき、「これはあいつらに探しにいかせるしかない!」と膝を打って。ただ、感情面で言うと、僕自身がまったく知らない感情は小説に書けません。悲しさや悔しさ、切なさや喜び、怒り。自分が一度でも感じたことのある感情は、その“種”さえあれば、ふくらませて書ける。そういう意味で言えば、登場するメンバー全員、僕だと言えば僕なのかもしれませんね。

―道尾さんは、どんな子供だったんですか?

僕ですか? いたって普通の子供でしたよ。ただ、子供時代、特に男の子なら誰でも同じかと思いますが、冒険への憧れはありましたね。今でも冒険はしたいんですよ。たとえば遠くでキーッとブレーキの音が聞こえようものなら、すぐに時計を見たりしません? 何か事件かもしれないから、正確な時間を覚えておかなきゃ、とか。本当に「隙あらば何かに巻き込まれてやろう」っていつも思ってます。それは昔も今も変わらないですね。


僕の大好きな映画に、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を担当した『グーニーズ』という作品があります。海賊の財宝を捜して悪ガキ集団“グーニーズ”が繰り広げる冒険を描いた物語なんですが、当時の最高峰の映像技術が駆使され、セットもすごく丁寧、さらにキャラクター設定もお見事で、もう本当にドキドキする映画なんですよ。でも、大人になってから見返したら、1か所だけ腑に落ちないところがある。それは、海賊船までの地図を、その悪ガキたちが“自分たちの家の屋根裏で見つける”という設定。「そんなことあるかいっ!」って思わずツッコミました(笑)。だって、あれだけ壮大なスケールで展開しているのに、肝心の地図が自分の家の屋根裏にあるなんて…。たとえば森林伐採していたら木の根元から謎の地図が出てきたとか、もっとドラマティックにできるはずでしょう? でも、よくよく考えたらそれこそがスピルバーグの作戦なんです。つまり、『冒険はいつだって身近なところに眠っている』ということを伝えたかったんですね。もう、本当に感激しました。やられたぁと思いましたね。

―なるほど! 隙あらば何かに巻き込まれたい道尾さんの願望と、冒険は身近なところにというメッセージが、今回の作品全体に散りばめられている気がします。『光』は全7章からなる小説ですが、前半、懐かしき少年少女時代のファンタジー小説、あるいは冒険小説かと思いきや…、後半、一気にミステリー色が強くなってきて…。もう、ページをめくる手が止まりませんでした。

もともと、第1章の『夏の光』は単発の短編小説でした。だから1回きりのはずだったんです。でも、書き終えた時点で、僕自身がどうしても登場人物たちとお別れしたくなくなってしまって…。作家になって初めて、自分から「続きを書かせてほしい」と出版社の方に願い出ました。それで、同じ登場人物たちの物語を腰を据えて書くことになり、このかたちで完成したんです。

ですから、1章目を書いたときには2章目は決まってないですし、何章まで続くかさえも決まっていなかった。ただし、同じ登場人物で展開する以上、回を重ねても、振り返ったときの縦軸をしっかりと通したかったんです。単なる連作にはしたくなかった。各章のストーリー展開はもちろん、小説の形式にこだわったのもそんな思いがあったから。連作小説じゃないと絶対にできないことをやりたかったんです。

―そうだったんですか?! 最後まで読み終えると、第1章に出てくる小道具やエピソードが、ラストの章ですべてキレイに収まっています。まるで、バラバラだったパーツがビシッと集まり、ひとつの大きなパズルが完成したような…。

そう言っていただけると、とてもうれしいですね。それぞれの話が短編としても楽しめる、という贅沢なつくりを目指していたので、書いているときは、当然、それぞれ1話で完結するよう意識していました。でも、連作でもあるので、できあがった話をもう1度読み返し、思いもよらなかった材料を取り出して、次の作品につなげられる。逆に、第1章にこの伏線を埋め込んでおけばよかったな、と思うこともあったり。第4章を書いているころに全体像が見え始め、あのラストの展開が生まれました。実際には、単行本にするにあたって、後から加えた伏線やエピソードもあります。それこそが雑誌連載の面白さですよね。僕自身、かなり楽しみながら書きました。

―ずばり、『光』でいちばん描きたかったことはなんですか。

第1章が『夏の光』というタイトルだけあって、“光”をさまざまな形で描きたい、という想いがありました。ただ、回を重ねるにつれ、子供時代に誰しもが抱えていた憧れや夢、希望、可能性、そういった白くて柔らかな “光”をただ描写するのではなく、それを"受け渡す"ということをテーマにしたいと思うようになりました。その光が一体なんなのか、僕自身うまく説明できないけれど、懐かしさも悲しさも切なさも入り混じった、自分の周囲を包んでくれていたその“光”のようなものを、世代間や男女間で受け渡していく…。それがテーマだと自分の中で決めたとき、作品の形式に、ある仕掛けをしました。ページを開いて最初に書いてある文章も、じつはすでに仕掛けの一部ですよね(笑)。

―ああ! ネタバレになってしまうので、詳しく言えないのがもどかしい…(笑)。確かに、道尾さんがおっしゃるとおり、随所に仕掛けが散りばめられていて、読み返してみると「え、これがあの場面に?」という新しい発見があったり、「そうか、この行動があの結末につながるのか!」とストンと腑に落ちたり。2度も3度もオイシイ作品です。

僕は、読む人にちょっとした違和感を残したいんです。たとえば、友達の姉弟が泊まりにきたとき、なぜ主人公はわざわざ本棚×××××したのか、とか。仕掛けといっても、それぞれはほんの小さなイタズラレベルです。だから、その話の中で説明されなくても、短編としてちゃんと完結している。でも、連なった話を最後まで読んだとき、それらの小さなイタズラたちに気づくことで、全体の色が変わってみえたら…。こんな楽しいことはないですよね。それをやりたかった。

―道尾さん、かなりのイタズラ好きですよね…?

ああ、昔からイタズラは大好きでしたね。子供のころは、家のクローゼットのドアの内側にパイナップルの葉っぱの部分を紐でぶら下げておいて、誰かがドアを開けた瞬間に叫び声を上げるのをじっと待っていたり。当時流行ったカンシャク玉を、駐車場に停まっている車の近くに並べておくとか。今も変わらずイタズラ好きですが、大人になってからは小説の中でイタズラ心を消化しています。

―たとえばですが、彼女にサプライズプレゼント、みたいなイタズラはしますか?(笑)

それはイタズラじゃないですよ。だって、誕生日に驚かせるってこと自体に、もう驚きがないでしょ(笑)。だったら、たとえばですが、誕生日の1か月前に突然プレゼントを送る、というほうが面白いんじゃないですか? 誕生日にサプライズなんて、相手もある程度予測しているだろうし、わざと驚いてもらうのも申し訳ないし…。

―あまのじゃくですね(笑)

そうですか? まあでも、驚かされる方にもきっといろいろなタイプがいますよね。「気づかないくらいしっかり騙してくれてうれしい!」って人とか、「気づかなかった! 騙されて悔しい!」って人とか。まさにミステリー読者がそうですよね。


小説の話に戻りますが、僕自身は、読むときも書くときも、とにかく仕掛けを存分に楽しみたいタイプ。たとえば遊園地のジェットコースターで、わざわざ両手をバーから離してバンザイするタイプです。小説を書くときもそう。とことん楽しみたいんです。これはきっと誰も気づかないだろうな、と思いながらも全身全霊で真剣にイタズラを仕掛け、読む側はその仕掛けに気づいたときに喜びを感じてくれる。そんな本を僕自身が読みたい。こういう本が読みたい、という欲が強くなればなるほど、イタズラ心も増していきます。小説を書くのは、じつはけっこう疲れる作業です。こんな作業、自分自身が面白い、読みたい、と思わないと続けられない(笑)。逆を言えば、読むのにだって時間と労力がかかるのだから、僕自身が最高に面白い!楽しい!と思えるものを出さないと、読者の方にも失礼だと思うんです。この最新作『光』は、僕自身が最高に楽しんだ作品です。ぜひ読んでみてください。


Text / Miho Tanaka(staff on)

Profile

道尾秀介 みちお・しゅうすけ 作家

1975年生まれ。2004年、『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。'07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞を、'09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞を受賞。さらに同作と'08年発表の『ラットマン』によって「このミステリーがすごい!」の作家別ランキングで1位を獲得。それを機に『向日葵の咲かない夏』文庫版がベストセラーとなり、この年、日本で一番売れた文庫タイトルに。'10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞を、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞を受賞。'11年、『月と蟹』で第144回直木賞を受賞。'12年秋、『カラスの親指』の映画が公開予定。今もっとも新作が待望される、人気作家のひとり。

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