
黒髪の乙女と先輩のカオスな恋物語!(夜は短し歩けよ乙女)
黒髪の乙女と先輩のカオスな恋物語!
この作品は、「黒髪の乙女」と同じクラブに属する「先輩」とのちょっと変わった恋物語を春夏秋冬の4つのエピソードに分けて綴ったものである。
第一章「夜は短し歩けよ乙女」では、二人の先輩にあたる人の結婚のお祝い会がお開きになった後、「黒髪の乙女」は、酒を求めて夜の街をさまよう。そして、遂には李白老人という謎の大金持ちと、飲み比べを行うことになるのだ。
第二章「深海魚たち」は、糺の森で行われる「下鴨納涼古本まつり」でのエピソードだ。先輩は、乙女の探している絵本を手に入れようと、李白の開催した「売り立て会」に参加する。
第三章「御都合主義者かく語りき」は、先輩と乙女の大学で開催された学園祭での出来事である。これがまた、ハチャメチャな学園祭なのだが、波乱万丈の出来事の末、劇の中とはいえ、先輩は乙女をその腕の中に抱きしめることができた。
第四章「魔風邪恋風邪」では、京都の街にひどい風が大流行し、関係者もみな感染してしまう。乙女は、風邪の神と戦い、死にそうになっていた李白を助けたものの、自分も天空に飛ばされてしまうのだが、飛行術を会得した先輩に救われるという、かなりのファンタジックな内容になっている。
物語は、語り手を「先輩」と「黒髪の乙女」が交代しながら進んでいく。乙女が語り手になっているところは、女の子らしく丁寧語が使われている。面白いのは、出てくる人物がとっても変わっているということだろう。まず「黒髪の乙女」だが、ほんのりとして天然癒し系という感じなのに、とんでもない「ウワバミ」。酒ならいくらでもどんとこいという恐るべき乙女なのだ。学園祭の話では、背中に大きな緋鯉のぬいぐるみをしょって歩き回るという、ヘンだけど、なんだかとっても可愛らしい娘である。また、もう一人の主人公である先輩は、どこか旧制高校生をイメージしてしまうような人物だが、今の基準では相当なヘタレである。なにしろ外堀を埋めてばかりで、なかなか本丸たる乙女に近づけないのだから。この他、職業が天狗という樋口さん、大金持ちで、3階建ての叡山電車のような乗り物に住んでいる李白老人などヘンな人達が脇を固める。
二人の通っている大学名は明記されていないようだが、明らかに京都大学だ。それは大学祭について書かれた次の1節からも分かる。
この阿呆の祭典は、聳え立つ時計台を中心として校舎が点在する「本部構内」と、東一条通を挟んで南にある「吉田南構内」を主戦場として繰り広げられる。(p.154)
この記述にある地理的条件が当てはまるのは京都大学しかない。それは作者の出身校でもある。そして学園祭は「11月祭」だということになる。
この大学祭を描いた第三章はもう笑いの連続。女装趣味の美貌の学園祭事務局長に、何だかよく分からないゲリラ演劇「偏屈王」、神出鬼没で、人を炬燵に誘い込み、なぜか鍋をふるまう「韋駄天炬燵」、このあたりまではまだいいが、ずっとパンツを履き替えない「パンツ総番長」なんていうのも出てくる。なんというカオスぶりだろう。
今の若い人は想像できないかもしれないが、私が学生のころは、特に昔の教養部あたりではこの作品に描かれているようなことがあってもおかしくないような感じだったと思う。ところが何年か前に、京都大学のあたりを歩いてみると、あの汚かった教養部内が、すっかり綺麗になっており、あまりの変貌ぶりに、おもわず「ここどこやん!?」とつぶやいてしまった。昔の京都大学を知っている者としては少し寂しい。
でも京大生を流れるDNAはそれほど変わっていないようだ。なにしろ、2016年の11月祭の統一テーマが、
「ぽきたw 魔剤ンゴ!? ありえん良さみが深いw 京大からのNFで優勝せえへん? そり!そりすぎてソリになったw や、漏れのモタクと化したことのNASAそりでわ、無限に練りをしまつ ぽやしみ~」(出展:京都大学ホームページ>教育・学生支援>その他学生生活支援>祭り>11月祭・前夜祭>統一テーマ一覧)
らしい。いや、これ決して変換ミスとかじゃないからね。これを見て、「ええっ!、京大大丈夫か?」と思ってしまい、私が自分の出身大学を隠したいと思ったというのは余談(笑)。でも、昔の古き良き時代?の京大を知っていると、こんなのがでてきても、そんなには違和感がないんだよなあ。そして、この作品にもそういったDNAが脈々と受け継がれているように感じてしまう。
この作品は、モリミーの世界観が大爆発といった感じで、そのハチャメチャさがとっても面白い。乙女もほんわかした雰囲気がとってもいいのだが、文庫版の巻末には、「ハチミツとクローバー」などで知られる羽海野チカさんが、「かいせつにかえて」ということで、登場人物のイラストを載せている。もちろん乙女が中心に描かれているが、「そうそう、こんな娘だよなあ」と思い出し笑いをしてしまった。これから読む方は、まずこのイラストをインプットしておくと、登場人物が活き活きと頭の中を動き回って、より作品を楽しめること請け合いだ。(風竜胆)


