
『何が困るかって』配信記念! 作家:坂木司インタビュー

引きこもり青年が探偵役となる『青空の卵』でデビュー以来、ミステリーだけでなくさまざまなエンターテインメント作品で私たちを楽しませてくれる坂木司さん。そんな坂木さんの待望の短編集『何が困るかって』が配信されるにあたって、ご本人にインタビュー。生年月日以外は性別も公表していない覆面作家・坂木さんの、ありふれた日常を独特の視点で切り取る"坂木ワールド"に迫りました。
坂木司インタビュー
-短編集『何が困るかって』、タイトルがとても印象的です。「困る」は最初からテーマとしてあったんでしょうか?

それが…まったくありません(笑)。むしろ、タイトルをつけるときに、それこそ本当に"困った"くらいです。この短編集は、『ミステリーズ!』で連載していた短編を1冊にまとめたものなのですが、連載時は「ショートショート劇場」というタイトルで、毎回思いつくままに書いていました。読んでいただくとおわかりになるかと思いますが、話の長さもてんでバラバラで…。思いっきり短いものもあれば、それなりに長いものもある。テーマも何もなくて、すみません(笑)。
単行本化するにあたって本のタイトルをどうしようか…となったとき、作中作で一番好きなものをタイトルにする場合もあるんですが、今回は、18作品を包括できるような、何かイメージを統一できるようなタイトルがいいな、と思ったんです。そんなとき、作中作の「何が困るかって」が目に飛び込んできて、これだ! と。
よくよく考えると「困る」とはとても便利な言い方なんですよね。ミステリーでは、だいたい困っている人が出てきます。身近なところで殺人事件が起きて困ったり、突然事件に巻き込まれて困ったり。でも、現実で殺人事件に巻き込まれてしまったら、「困る」どころじゃないですよね? だから「困る」というのは、深刻度や緊張度がちょっと低めで、小説向きなんだなと気づいたんです。ひどい目にあっているのにどこかコミカルで、ちょっと笑ってしまうような、深刻すぎない感じ。その"困っている具合"が今回のタイトルにぴったりだったと思っています。完全に後付けですが(笑)。
—なるほど。確かに全編に困っている感が漂っています(笑)。中でも特に思い入れのある作品はありますか?
好きな作品は「リーフ」ですね。ほどよくミステリーで、ほどよく中間小説、ほどよくほっこり。いいとこ取りな感じが気に入っています。内容的には、子供のときはいい人だなと思っていた近所のおじさんやおばさんが、大人になってみたら実はそうじゃなかった、というイメージの裏返りがポイントです。成長することで、世界の見え方が変わる。そのあたりを書きたかった作品です。
書いていて楽しかったのは「仏さまの作り方」。生き仏をヒントに書きました。もともと都市伝説や民族学が好きなんです。その土地に昔からある言い伝えや、不思議なお話も興味があります。とにかく、嘘のような本当の話、本当のような嘘の話、そういう小話をつくるのは本当に楽しいですね。
そうそう、「ライブ感」という作品ではツイッターやブログが重要なツールとなるんですが、そういうSNS類は都市伝説と親和性が高いと思うんです。死んだ人のアカウントがずっと続いているとか、なりすましもちょっと幽霊っぽいですし、今後はSNSから新たな都市伝説や怪談が生まれるんじゃないかと思っています。
それから、一見普通そうに見えて実はちょっと変態っぽい人、たとえばずっとペンを持っているとか丸ばっかりを書いているとか、妙なこだわりをもった人を書くのも好きです。「ちょん」や「カフェの風景」に出てくる人々も、ある意味ちょっと変質的。なんてことのない日常の中のその辺にいそうな人なんだけど、ちょっとヘン…という人が気になるんでしょうね。
…こうやってあらためて分析していくと、自分はものすごく"あまのじゃく"ですね。他人と被るのが、好きじゃない。"被らないこと"、これは作品を書く際に大切にしていることです、今気づきましたが(笑)。実際、『和菓子のアン』も、洋菓子界の話はすでにありそうだし、でも和菓子職人の話はあるだろうから、じゃあデパートの和菓子売り場の販売員のお話にしようと、ない方へない方へ…。そうやって決まったテーマでした。あまのじゃく根性でニッチなテーマを選ぶ。作家としてはいつも隙間を狙ってますね。まさに隙間産業(笑)。今後も隙間を狙っていきます。
—隙間産業(笑)。ところで、書くのに苦労した作品はありますか?

苦労したことは…、ネタ集めです。毎回「ネタがありません。何か不思議な話はありませんか?」と担当編集者の方に言い続けていました。バスの中で繰り広げられる心理戦を描いた「勝負」は、まさに担当者の方からいただいたネタを元に書いたものです。
執筆を妨げるもの? ずばり体調不良、眠気、家族の病気の3つです。ただこれ、気をつけていても、どうしようもないときがあるんですよね…。
正直に言うと、短編を書くのは本当に大変です。つらいです(笑)。結局、短編も長編も、ネタをひねり出してお話をつくっていく作業は同じなんです。ですから、1年かけてひとつのネタで長編を書くのと、1年で10編の短編を書くのとでは、労力が違います。とはいえ、10年で10本の長編ができるかというと、そうでもない(笑)。使う筋肉が違うんでしょうね。でも短編は、書いていてスパッとラストが決まると気持ちいい。長編だと、いくつも山場があってゴールはずっと先ですが、短編だと一気に駆け抜けてスパッと落ちることができる。その切れ味のよさというか爽快さは短編ならではの醍醐味です。
ちなみに、書いているときはいつも行き当たりばったりです。ラストが決まっていないことがほとんどで、成り行きまかせです。ごくたまに担当編集の方に「最後はどうなるんですか?」と聞かれることがありますが「すみません、わかりません」と答えて、いつも困らせています。
—ご自身が最近「困った」ことはなんですか?
ひとつは、この短編集のタイトルをどうするか、ですね。これは非常に困りました。もうひとつは、餅つきが下手で困りました。本と関係なくてすみません(笑)。この間、杵を持つ機会があったんですが、やってみて初めて知りました。自分は、餅つきが下手です!
腰が入ってないというか、振り下ろした杵がグラグラして、臼の中で捻挫したみたいになってました。あれは、まずそうな餅だったなあ。
—最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
いろいろな人が出てきますが、とにかく楽しんでいただければうれしいです。それから、それぞれの短編についている英語タイトルにも注目してみてください。直訳したものもあれば、少しひねりを加えたものもあります。日本語のタイトルと照らしあわせつつ、楽しんでいただければと思います。
文/田中美保(スタッフ・オン)
プロフィール
坂木司(さかき つかさ)
1969年東京都生まれ。
2002年、覆面作家として『青空の卵』を刊行し衝撃のデビューを飾る。
以後『仔羊の巣』、『動物園の鳥』を上梓し、好評を博す。他の著作に、『切れない糸』、『シンデレラ・ティース』、『ワーキング・ホリデー』、『ホテルジューシー』、『先生と僕』、『夜の光』、『短劇』、『和菓子のアン』、『大きな音が聞こえるか』、『肉小説集』などがある。
坂木司人気4タイトル
僕、外資系の保険会社に勤める坂木司には一風変わった友人がいる。それは自称「ひきこもり」のコンピュータープログラマー、鳥井真一。複雑な生い立ちのせ いで心を閉ざしがちな彼を、外出させようと僕は日夜頑張っている。料理が趣味の鳥井の食卓に僕が持ち込む、身近に起こった様々な謎。彼の鋭い観察眼は、一 体そこにどんな風景を描き出すのか――。大人の視点で推理し、子供の純粋さで真実を語る鳥井。そしてそんな鳥井を支える坂木。謎を解き、人と出会うことに よって次第に成長していく二人の姿を描いた感動の著者デビュー作。《ひきこもり探偵》シリーズ第一弾。
季節はめぐり、僕、坂木司と鳥井真一の間にもゆっくりと変化の兆しは訪れていた。ひそやかだが確実な羽ばたきの予感、それが僕を不安にさせる。鳥井がひど い風邪をこじらせたある日、僕は同僚の吉成哲夫から、同期の女性の様子がおかしいと相談される。病気の鳥井に代わって慣れない探偵役をつとめることになっ た僕は・・・・・・。また、木工教室を開くようになった木村栄三郎さんのもとで出会った男性、そして地下鉄の駅構内で見掛けた少年が抱える悩み、そして僕 自身に降りかかる悪意の連続、それらの真実を鳥井はどう解くのか――。坂木と鳥井に加わる、新たな仲間と風。ひきこもり探偵シリーズ第二弾。
春が近づくある日、鳥井真一のもとを二人の老人が訪ねてきた。僕、坂木司のお得意先であり年上の友人でもある木村栄三郎さんと、高田安次朗さんだ。高田さ んがボランティアとして働く動物園で、野良猫の虐待事件が頻繁に発生しているという。野良猫の姿を見て心を痛めている、同じボランティアの女性のために、 二人は鳥井のもとを訪れたのだった。さっそく動物園に向かった僕たちが掴んだ真実、そして鳥井のひきこもりの原因となった少年時代の出来事とのつながりと は――。果たして鳥井は外の世界に飛び立つことができるのか。シリーズ完結編。






















