
愉快でチャーミングな強盗って最高。(陽気なギャングが地球を回す)
愉快でチャーミングな強盗って最高。
人間嘘発見器+演説名人+天才スリ+精確無比な体内時計=4人は史上最強の銀行強盗…のはずが、思わぬ誤算が。奪われた「売上」を取り戻せ!伊坂幸太郎ブームはここから始まった。「陽気なギャング」シリーズ第1作、お手頃価格でお届けします。
伊坂幸太郎さんの作品には「怖い肩書き」を持った人がたくさん登場します。
殺し屋、自殺専門の殺し屋、ナイフ使いの殺し屋、押し屋、死神、言葉を話すカカシ、悪魔祓い、相手に自分の思ったことをしゃべらせれる人……など、とにかく変わった登場人物が次から次へと現れます。
ですが、全員が「悪」かと言われれば、そうとも言い切れない。
彼らなりの信念や信条に基づいて行動しているし、場合によっては、善人の面をかぶって、静かに悪行を働いているそのへんを歩いている人の方が、よっぽど悪なのではないか……なんて思うことがあります。
時にチャーミングで魅力的な怖い登場人物に泣かされたことも、一度や二度ではありません。
『陽気なギャングが地球を回す』(祥伝社文庫)は、これまた4人組の「銀行強盗」の物語です。
「銀行強盗」なんて恐ろしいもの、絶対に遭遇したくないものの10位以内には確実に入ってきそうな存在ですが、彼らはとても愉快な銀行強盗なのでした。
なぜなら「人を傷付けない」強盗だから。
しかも、失敗する可能性大の銀行強盗で、入念な下準備を行い、百発百中の成果をおさめていました!
なんでも、銀行強盗は籠城した時点で勝ち目はないらしく、いかに警報装置を使わせず、金を出させて、逃げるか。それが大切らしいです。
そして、彼らが成功するもう一つの要因は、なんといっても4人全員が特殊な能力を持っている点にあります。
・普段は市役所に勤める公務員・いつでも冷静沈着な成瀬は、相手の嘘をかならず見抜く能力を。
・妻・祥子と共に喫茶店を経営している、口からでまかせばかり話す響野は、演説の達人。いくらでもしゃべっていられます。
・人より動物を愛する青年・久遠は、スリの天才。彼の被害にあった人は多数で、強盗の最中ですら財布を奪います。
・また、唯一の紅一点であるシングルマザーの雪子は、精巧な体内時計を持っており、身体の中では絶えず時計が回っていました。何をするのも同時進行で時間が計測されており、強盗の際には運転手として活躍しています。
今回計画した強盗も、入念な下調べをして、金を奪う間、響野が演説して、それが終われば雪子の運転する車でサッと数分で逃げる予定でしたが、なんと、逃走中、4千万の「売上」を、同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされてしまうのです……!
彼らは同業者ではありましたが、平気で人を傷つける、冷酷な集団でした。
品のない強盗に邪魔されて許せない4人は、奪還に動くのですが、事態は思ったより深刻で、雪子の一人息子にまで不穏な影が迫り、死体まで現れることに……!!!
いや~軽妙なテンポで、愉快にズンズン進んでいく物語ですが、ラストまで二転三転してかなりドキドキさせられました。最高におもしろかった。伏線の回収もお見事です。
そして「楽しかったー♪」だけで終わらせない所が、この物語のすごい所だなあ、とも感じました。
雪子の息子、中学生の慎一のイジメ問題や、成瀬の自閉症の息子・タダシの生き様、臆病者の話、「ロマンある強盗は何か」ということ――。
生きていたら、容赦なく残酷に、人のことを攻撃する人間と遭遇することが、時々あります。
そういう時、「やめてください」と勇気を出して言った所で、彼らは恐らくやめてなんてくれません。ただの暇つぶし、なんて場合もあるのですから。
だから、そういう時になるべくバカを見ないように、「悪」とどう対峙して行けば良いか、考えるヒントをこの小説は与えてくれます。
おもしろいですよね。彼らはお金を奪う銀行強盗なのに(笑)。
肩の力を抜いて楽しめる物語なのに、いつの間にか心がポカポカ温かくなるような、大切なことを教えてくれる物語です。
ちなみに続編の『陽気なギャングの日常と襲撃』、『陽気なギャングは三つ数えろ』もおススメ。
よかったらぜひ愉快でチャーミングな強盗の世界を堪能してみて下さいませ。(さゆ)


