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Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.41 真実は本の中に

※本記事は2012.7.6時点のものとなります。

経済アナリストとして、お金にまつわるあれこれを親しみやすい語り口で解説してくれる森永卓郎さん。本業の経済から趣味のおもちゃコレクションまで、多方面に及ぶ広い見識はいかにして培われたのか? 読書歴や、いま読むべき経済書、本を紐解く喜びなどについてにこやかに語っていただきました。

中学1年生のときに読んだ『資本論』が原点

実は私、小学生の頃は、本どころか日本語もろくに読めない子どもだったんです。というのも、新聞記者だった親父の仕事の関係で小学1年生のときはアメリカに、4年生でオーストリアに、5年生でウィーンに住んでたんですね。だから小学校に半分行ってなくて。通信簿も1と2ばかりでした(笑)。それで何で字を覚えたかというと、マンガだったんです。当時、大人気だった『少年マガジン』と『少年サンデー』を、毎号船便で日本から送ってもらって。特に漢字は、マンガに出てきた漢字しか知りませんでしたね。


物心ついてから最初にショックを受けたのが『資本論』でした。今の思想にしても仕事にしても、ここが原点だったんだと思います。読んだのは、中学1年生の頃だったかな。早熟なようですが、あの頃は70年安保の時代で、社会背景が現在とは違いましたから。まあでも、当時はよくわかりませんでしたけどね。資本主義って、社会に出てみないと実感できないものですし。だからこの間、久しぶりに読み返して「ああ、『資本論』ってこういうことだったんだ」って。40年経って、ようやくわかりました(笑)。

本当のことは、本の中に書いてある

私は、本を読むのがすごく遅いんです。それでたいていの本は、最初の30ページしか読まないんですよ。そこで続きが読みたいと思わなかったら、次の本にいく。そんなふうにして、経済関係を中心に、月に15~20冊くらいの本に目を通しています。なかでも最近、すごくおもしろくて最後まで読んだのが、『ショック・ドクトリン』『タックスヘイブンの闇』『財務省「オオカミ少年」論』の3冊です。


アメリカなど先進国の自由主義経済のもとでは、大きなショック、たとえば戦争や自然災害、クーデターなどが起きると、そのどさくさに紛れて一気に市場原理主義化が謀られてきました。『ショック・ドクトリン』は、その実態をさまざまな事例を挙げて明らかにした本です。これは、近年では一番のヒットでしたね。『タックスヘイブンの闇』は、これまでベールに包まれていたタックスヘイブン――いわゆる税の逃避先の実情を詳細にレポートしたもの。たとえばケイマンやバミューダ諸島はイギリス領なんですが、大国は自国でできないことを植民地でやっていて、その闇はとても深い。著者は、ヤバいタックスヘイブンはどれも島にあり、その中でも一番ヤバい島がニューヨークのマンハッタン島だと書いていて。うまい!と思いました(笑)。

それから日本人で注目しているのが、日経新聞を経て、今は産経新聞で記者をされている田村秀男さんです。『財務省「オオカミ少年」論』は、よくここまで書けたなという内容で。彼はこの本で、消費税なんかあげなくても財政再建はできる、と主張している。そして今、日本が持っている米国債を日銀に買い取らせ、代金を政府に払えば100兆円を確保でき、さらに円高もデフレも終わる、と。この発想には、なるほどと思いました。今まで誰も言わなかったことですが、私はこの主張は、一番正しいと思いますね。 

テレビや新聞は、なかなか本当のことを言わないんですよ。自分の反省も含めていえば、テレビも新聞もやっぱり広告がないと生きていけないし、時間や文字数にも制限があるから、おのずとそんな深い話はできない。それに比べると、本にはケタ違いに深い話が書かれている。本当のことは、本の中に書いてあるんです。

お金がなくても楽しめるのが本の世界

最近は本をインターネットで買うことが多いんですが、本屋も大好きなんです。ただ行くと、重くて歩けないくらい買っちゃうんですよね。この間も、ふいにスイッチが入って、江戸時代の風俗や暮らしの本を片っ端から買っちゃって。なぜか突然、江戸のことが知りたくなってね。過去には「イタリア」や「小泉八雲」のブームがきたときもありました。本屋に行くと、そういう事故が起こるから怖いんですよ(笑)。


そうやって本はとめどなく買ってしまうので、いまは本当に必要なもの以外、読んだものから処分するようにしてますね。ずいぶん悩んだんですけど、そこは涙を飲んで。私の場合、趣味のひとつであるおもちゃのコレクションのためにスペースが必要ですし。手元に残さないから、同じ本を何度も買ってしまったりもするんですけど(笑)。

そういう置き場所の問題もあるので、本はすべて電子書籍になればいいと思っているんです。趣味関係の本――たとえば『海洋堂レゾネ』という図鑑なんかは、とにかく重いですし。だからまず、おもちゃコレクションの図鑑から、電子書籍にしてほしいですね(笑)
これからは電子書籍の時代になるでしょう。「Reader」をはじめハードはすごくよくできているし、著者にとっても、新しいマーケットを切り開くチャンスになると思うんです。今はまだ、いろいろ課題もありますが、いずれ紙と電子版を同時発売できるようになれば理想的だと思いますね。 

先の見えない不安定な時代ですが、お金がなくても楽しめるのが本の世界なんですよね。たとえば私も、今は本屋でピピッときたものを片っ端から買ったりしていますが、懐に余裕がないときは立ち読みしてから買えばいいし、もっとお金がなくなったら図書館に行けばいい。付き合い方はさまざまですけど、本を読む喜びは変わらないですよね。定年後、家に閉じこもってテレビばかり見ていたら、あっという間に老け込んじゃいますし、図書館と本屋をまわるだけでも、すごく楽しいと思いますよ。本を読むと、そこからいろんな疑問がわいて、どんどん調べたくなるじゃないですか。そうやって一冊の本から好奇心が広がっていくのが、一番楽しいんですよね。

最近の気になる一冊

『ショック・ドクトリン(上・下)』/ ナオミ・クライン(著) 幾島幸子、村上由見子(訳)/岩波書店

「この本は、これまで世界で強行されてきた経済改革の正体を暴いたものです。たとえばイギリスでは、マーガレット・サッチャーがフォークランド紛争の勝利の美酒に酔いしれてる間に構造改革を進め、アメリカではハリケーン「カトリーナ」がニューオーリンズを襲ったのを機に、公立学校を民営化してしまった。そうして大きなショックを受けた人々の精神的空白につけ込み、改革が強行されてきたわけです。これを読むと、日本が東日本大震災のどさくさに紛れて、消費税増税やTPPを一気に推し進めようとする動きが、それらとまったく同じ構図であることがすごくよくわかる。この本一冊で世界の歴史がすっきり理解できる、10年に1冊の秀作だと思います」

私の本棚

たいがいの本は読んだら処分して、最低限必要なものだけ、大学に持って行って置いておく。やはり経済関係の本がほとんどですね」

Profile

森永卓郎(もりなが たくろう) 経済アナリスト・獨協大学教授

昭和32年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業。

日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。

専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。

主な出演番組はTBS「がっちりマンデー」、よみうりテレビ「情報ライブミヤネ屋」など。

著書は『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社/2003年)、『年収崩壊』(角川SSC新書/2007年)、『しあわせの集め方 B級コレクションのススメ』(扶桑社/2008年)など多数。

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