
すべてがFになる(すべてがFになる The Perfect Insider)
すべてがFになる
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。
メフィスト
新本格ミステリをリアルタイムに追っていた自分からしても、森博嗣の登場は革新的だった。
その後「ミステリ番外地」と呼ばれることになるメフィスト賞の第一回受賞者として登場。
同賞からはその後、直木賞を受賞することになる辻村深月、芥川賞にノミネートされるも一部審査員に不評で受賞できない舞城王太郎。
アニメ化も多い西尾維新や現代の新本格ミステリを支える早坂吝、井上真偽など。
異端と呼ばれたミステリ賞が、現代支持される多くの実力派作家を生み出すことになったのは皮肉。
森博嗣のデビュー作「すべてがFになる」は、その後、コミック化。
さらには連続テレビドラマ化、アニメ化もされた。
「羊たちの沈黙」ドクターレクターを思わせる天才プログラマー 真賀田四季。
孤島に建つ彼女の研究所に招かれた西之園萌絵。
そして大学助教授 犀川創平のS&Mコンビ。
そんな研究所で起きる連続殺人。
犀川と西之園は事件に巻き込まれていく……。
理系ミステリ
森博嗣自身が名古屋大の助教授であり、その作風から「理系ミステリ」と呼ばれた。
実際、作品を読んでみるとたしかに閉鎖的で無機質な研究所という舞台設定に、出てくるのも人間味にあふれた人物ではなくプログラマーや研究者が多く、全体的に淡々としている。
ヴァーチャル会議室などデジタルなギミックや研究所を管理するコンピューター。
記録され管理された研究所で発生するのは、古典的でアナログな密室殺人。
希薄な世界観の中で、キャラクターがしっかりと立つ主人公らが活躍する。
このミスマッチな新旧の感覚がマージされた作風が森博嗣と言う作家のスタイルを確定した。
人間が描けていない
昔から新本格ミステリは「人物が描けていない」と言われることがある。
トリックに比重を置きがちなパズラー型のミステリは、従来のサスペンスなどと違い動機や人間心理や関係性に関してそれほど重みを置かない。
そういった方向性が「人物が描けていない」という評に繋がったと思うのだが、そういう意味で言うなら森作品というのは人物が描けていない。
登場人物の殆どは印象に残らない。
読み終わって残るのは主人公らと真賀田四季の印象ばかり。
だがそれらは作品の瑕にならず、それどころか主人公らの独自性……人として何かが欠けた異端さを浮かび上がらせる結果に結びついているのはとても面白い。
無機質に、デジタルに管理された研究所という空間で起きるのは原初から続くアナログでドロドロとした殺人。
無垢な動機と粘着質な欲望。
天才プログラマー真賀田四季を生み出したシリーズは、このあと犀川&西之園コンビのS&Mシリーズおよびスピンオフ作品、さらにはVシリーズ、Gシリーズ、Xシリーズへと繋がっていく。
あなたの夢は、見たい夢か、見せたい夢か? 人に認められたい、人に褒められたい、人に勝ちたい、というものは夢ではない。総発行部数1400万部、総収入15億円で夢の庭園鉄道生活を送る著者による、願いを現実にするための方法論。
同時代の京極夏彦、森以降のミステリ(西尾、舞城)にも共通して言えることだが、新本格ミステリというムーブメントの中にありつつ、しかしミステリやトリックに対してのこだわりをほとんど感じさせず、古典的なミステリを踏まえることもなく、どちらかといえばキャラクターに比重が置かれたキャラクター小説としての色が濃いというのも面白い。
その後、西尾維新はキャラクター小説的なミステリを量産し、舞城は突き抜けて文学賞にノミネート。
森博嗣に至っては自己啓発書などを書き始めている。
これまでのミステリ作家とは違い、ミステリだけではなく幅広く執筆活動の幅を広げていくのも、このメフィスト賞から出た一部ミステリ作家の特徴かもしれない。(AZNW)



