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石田衣良 インタビュー

~エロいことは悪いことじゃない~


※本記事は2011.11.25時点のものとなります。

人気作家・石田衣良さんが10年前、“女性の欲望”を描いて話題を呼び、直木賞候補にもなった恋愛小説『娼年』と、その続編『逝年』。電子書籍版『逝年』がReader™にプリインストールされたのを記念して、2作品の執筆の舞台裏と日本人のこれからの性のあり方について、エロスと笑いあふれるお話を伺いました。

『娼年』というタイトルから始まったストーリー

――『娼年(しょうねん)』を執筆されたのが10年前、それから7年を経て、3年前に続編『逝年(せいねん)』が発表されました。どちらもタイトルが印象的ですね。

石田(以下I):最初に出版社から「書き下ろしで好きなものを書いていい」と言われたときに、パッと思いついたのが、単純に、ベッドシーンのたくさんある作品(笑)。そこで、編集者との打ち合わせ中、「ベッドシーンがたくさんある設定なら、男の子が体を売るコールボーイの話はどう?タイトルは娼婦の“娼”に少年の“年”で『娼年』だね」と、紙ナプキンにササッと書いたら、その場で採用決定。いや~、みんな、エロには食いつきがいい(笑)! 
…とはいえ、もちろんエロだけではなく、世の中を斜めに見てうつろに生きている、まるで大学時代の僕のような(!)青年が、コールボーイという経験を通じて“自分”を発見していく物語でもあります。『池袋ウエストゲートパーク』とは異なる恋愛路線の第一作目に当たるんですが、作家デビューしてから比較的早い段階でこのような作品が書けたことは、僕にとってはすごくよかった。ある中学校の先生に聞いたんですが、その学校の生徒は、最初に『池袋~』を読んで面白いと思ったら、次にエッチを勉強するために『娼年』を読むんだって。うれしいですね。


僕自身は『娼年』で完結しているつもりだったんですが、直木賞の候補に挙がって取材を受けた際、「この物語には続きがありますよね?」と聞かれて「そういう見方もあったか」と思って書いたのが『逝年』。実際に書くまでに7年もかかってしまったんですが、その間にNHKの福祉番組の司会を務めるようになって、性同一性障害やゲイなど、さまざまなジェンダーの人の話を聞く機会が増えたこともあり、『逝年』では“性の幅”を広げて描くことも意識しました。僕たちは、性に関してはすごくクローズに生きていて、“普通”からちょっと外れるだけで“変態”などと言われてしまう。本人にとってはすごく切実なことなのに、理解されなくて切ない思いをしている人がいっぱいいるんです。だから、いろんな性のあり方があるんだよ、ということをみんなにも知ってもらいたい気持ちも込めて描きました。

表現されてこなかった“女性の欲望”にスポットライトを

――“性の幅”といえば、リョウ君のもとに“お客”として現れるのは、年齢もバックグラウンドもさまざまな女性。欲望の形もバリエーション豊かに描かれていますが、石田さん、ご経験が豊富ですね…。


I:ハハハ、そういう錯覚は大事ですからね。「今日の石田衣良はスペシャルコースだったらしいよ」とか思って読んでもらいたい(笑)。僕は、取材らしい取材はあんまりしないんですが、女性って基本的に、話したい人が多いですよね。僕は小説の才能はどうかわからないけど、10分、15分で、相手がもっている体験の核心を引き出す才能はあると思うんです。諜報部員でもやったほうがいいくらい(笑)。パーティの立ち話とか、仕事相手とタクシーに乗り合わせた短い時間に、たとえばある女性と父親の秘められた関係だったり、驚くような話を聞けちゃうことがあるので、それをどんどんつくり変えて、現実より面白い小説にしていく、という感じです。


“女性の欲望”って、なかなか表現されないし、評価もされないですよね。『娼年』を書いた10年前は“肉食女子”なんて言葉もなかったし、今よりもっと表に出てこなかった。でも、きちんと話を聞いてみると、男性も女性も変わらないんですよ。それなのに男の人の欲望だけにスポットが当たっているのはバランスが悪いので、欲望も含めていろんなタイプの女性を描きたい、という気持ちはありました。男性作家が描く女性って、吉永小百合さんか峰不二子みたいなタイプになりがちなんですが(苦笑)、そうじゃない、普通の欲望を持った、現代を生きる女性をね。


――リョウ君の相手は、ほとんどが年上の女性ですね。年を重ねた女性をどう思いますか?


僕はもともと、女性の年齢に全然こだわりがないんですよ。この作品で年上の女性が多いのも、単純にリョウ君が若くて、コールボーイを買うのはお金や時間に余裕がある人だから。特に意識して描いたわけではないし、年齢に関係なく素敵な人は素敵だと思います。ましてや今は“年上の女性”が、「教わりたい、叱られたい」という願望が強い若い男の子に大人気の時代。女性にはいくつになっても自信をもっていて欲しいですね。

“残酷な刑罰”としてのセックスレス

――リョウ君は“コールボーイ”として、さまざまな女性と関係をもつわけですが、お金で売買されるセックスと、そうではないセックスは、何かが決定的に違うと思いますか?


I:…わからないですね。リョウ君も考えていないと思う。リョウ君は仕事として毎回真剣に相手に向かい合い、お金のためと割り切っていなかったからこそ、コールボーイとしての才能があったんじゃないでしょうか。どんなに純粋なセックスでも“売春”の部分はあるし、どんな“売春”にも”純愛”の部分って、あると思うんですよ。バージンで結婚した人の初夜だって、例えば経済的な安定を得たいと思う“売春”の部分があるかもしれない。今はみんな単純に、物事に白黒を付けたがるけれど、生きていること自体、混沌としていることでしょう? 道徳と不道徳なんて、パッキリふたつには分けられませんよ。自分の中で線引きして決めていけばいいんじゃないでしょうか。「私は売春はしないけど、浮気はするかもしれない」みたいなこともアリということで…(笑)。


――登場人物の中には、夫とのセックスレスがきっかけで、リョウ君に仕事を依頼する女性もいます。


I:セックスレスはね、ものすごく残酷な刑罰みたいなものです。男性・女性としての価値が揺らいで、生きるうえでの自信もなくなってしまう。それが5年も10年も続くなんて地獄だから、もうそろそろみんな考え直したほうがいいですよ。セックスレスにはいろいろな理由があると思いますが、やっぱり日本人はもっとセックスしたほうがいい!みんなが仕事をもっと減らして、早く帰って5時から遊び、せっせと恋愛やセックスする(笑)。あくまで理想ですけどね。日本という国はもう、昔のような勢いでは成長しないんだから、それならそれで、今あるものを楽しむヨーロッパのような生活にシフトしたらいいじゃないですか。まぁ最近は、男も女も草食傾向が強まっていて、生身の人間とつながるより二次元的なアイドルに走る人が多いのが寂しいところなんですが…。


――ちなみに石田さんは肉食系ですか? 好みの女性のタイプを教えてください。


I:いやぁ…どっちでしょうね。先代の、見るからにガツガツしている肉食系を見ているとイヤだなぁ、と思いますが…。さりげないふりをしてちょっと肉食、みたいな雑食がいいかな。女性の好みは、話の面白い人。「頭のいい女性は必ずエロい」と聞いたことがあるんですが、要するにたくさん妄想をもっていて、そういうものが引き出される過程がいいんですよ。ただスタイルがいいとかキレイとかいうのではなく、つき合っていく中であるとき突然、「実は私、ボロボロに犯されたい」なんて、隠し持っていたネタを出されたりすると、グッときます。みなさん、もっとやらしい感じに仕掛けて、楽しい生活を送ってください(笑)。

人生にも恋愛にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていた20歳のリョウが、“娼夫”の仕事を通じて、さまざまな女性の中に潜む欲望の不思議に魅せられていく物語。リョウがボーイズクラブのオーナー・御堂静香と出会ったひと夏を描く『娼年』と、その1年後、永遠の別れを前に彼が何をできるのかを描いた『逝年』。性と生の輝きを切なくうたいあげる長編恋愛小説。

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Profile

 

石田 衣良 (いしだ いら) 作家

1960年生まれ。成蹊大学卒業後、アルバイト生活、広告代理店を経て、コピーライターとして独立。1997年『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2003年に『4TEEN』で直木賞受賞。格差社会など世の中を独自の目線で切り取り、若者へのあたたかいメッセージを込めた最新刊のエッセイ集『傷つきやすくなった世界で』(集英社文庫)も好評発売中。

つくりつけの棚に本やCDがズラリと並ぶ、石田さんの書斎。

「このところは若い人が書いたライトノベルもたくさん読んでいます。本棚がいっぱいになって“本のために生きている”みたいになっちゃうと悲しいので、2か月に一度はダンボール10箱分くらい処分して空きスペースを確保。 CDはひと通り手に取りやすいように、バロック、ルネッサンス、バッハetc.とジャンルや作曲家別に分類しています」

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