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Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.36 やっぱり、「カッコイイ!」に憧れます

※本記事は2013.9.13時点のものとなります。

2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウさん。この春大学を卒業し、4月からは一般企業に就職、兼業作家となる朝井さんに、最新作『少女は卒業しない』の執筆裏話から就職活動中のエピソード、今後の野望までじっくりお伺いしました。※この取材は就職直前、2012年3月半ばに行いました。

朝井さんの著書紹介

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『やっぱり、「カッコイイ!」に憧れます』

『桐島部活やめるってよ』の作家・朝井リョウのインタビュー

―大学2年生で作家デビュー。「現役大学生作家」と言われてきましたが、4月からは「兼業作家」ですね。

「なんで就職するんですか?」って本当によく聞かれるんですけれど、たまたま在学中に賞をいただけて本を出せたというだけで、僕は本当に“フツーの人”なんです(笑)。だから大学を卒業したら就職するのが当然だと思っていました。それに、受賞後たくさんの作家の方たちにお会いする機会があって、皆さん本当にすごいんですよ! 一言でいうと、カッコイイんです! そんな人たちを見るにつけ、「自分には無理、専業作家なんて絶対無理、こんな人たちみたいには絶対なれない」と感じていました。

―とは言え、デビュー以降、5作品も世に送り出すなんて、十分、作家としてやっていけると思いますが…。

いやいやいや。もう毎回必死です。特に、5作目の『少女は卒業しない』は苦労しました。担当の編集者の方から、“主人公は7人。全員女子。卒業式と恋愛を絡めること”という条件で書いてほしい、と言われて。女子目線の話だけで7話。これをしっかりと完成させることがプロの仕事なんだな、と思いながらプロットを考えました。でも、どうがんばっても4つ程度しか出てこない。パターンが重なってしまう。そうやって悩んでいたとき、尊敬する脚本家・三谷幸喜さんが大切にしている言葉「条件を加えることによって、物語はより広がる」を思い出したんです。それで、あえて条件を2つ増やしてみました。“校舎のひとつを使えなくすること、卒業式当日の朝から夜までを順番に書くこと”。そうしたら、意外とするりとアイディアが生まれたんです。


―『少女は卒業しない』はそうやって生まれたんですね。廃校となってしまう高校の、最後の卒業式の1日を、7人の女の子の視点から描いた連作短編集ですが、とにかく、女の子たちの気持ちやしぐさ、細かい描写が本当にリアル! 優等生の女の子が卒業式に初めて学校をさぼるせつないシーンや、部活内公認カップルの軽快な会話のやりとりなど、「朝井さん、ホントは女子なんじゃないの!?」と疑いたくなるほどでした。

ありがとうございます(笑)。デビュー作『桐島、部活やめるってよ』で5人の高校生を書いたんですが、その中の2人が女子で、その部分に関して肯定的な意見が多かったんです。それで、編集の方と話し合って「長所を伸ばそう!」ということになり、“主人公は全員女子”という条件が生まれたんです。


女子を書くときは、やっぱり観察しかないですね。あとは想像(笑)。観察と想像で書いてます。と言っても、体育館での部活のシーンなどは、自分自身が高校時代バレーボール部だったので、そのときの記憶が元になっています。会話やしぐさ、心の動きは、男子だと自分の生き写しみたいになってしまうぶん、女子目線だと逆に自由に書けて楽しかったですね。


基本的にはどの主人公も僕自身がどこかに反映されていると思います。実は、『少女は卒業しない』は、5話目までと6、7話とではちょっと空気感が違うんです。5話は卒業ライブ直前のバンドの話なんですが、ちょうどそのころ僕自身が学園祭の真っ最中だったんですよね。ダンスサークルなので、練習や準備に忙しい時期だったせいか、5話目は会話のテンポが速い(笑)。ポンポンポンとまるでダンスのリズムみたいなんです。ところが、就職活動後に書いた6話以降はやたらと落ち着いている(笑)。辛かった就職活動を経て「生きていくってタイヘンだ…」という悟りと、それでも未来は明るい! という気持ちからか、しっとりとした作品になりました。

―その観察力や記憶力は、日ごろからどう鍛えているんですか?

記憶力はすごくいい方だと思います。それに加えて、“書き中(=書き中毒)”なんです。書かないと覚えない。受験勉強も全部手書きで、ひたすら書いて覚えるタイプでした。細かく書くことによって満足するんです。ぎっしりとノートが埋まってないとイヤなんですよ、余白が苦手(笑)。それはネタ帳も同じです。思いついた表現や気に入ったフレーズ、覚えておきたい情景まで、なんでも全部書き込んでいます。他人から見たら、びっしりと細かい字で埋め尽くされたわけのわからない言葉たちなので「うわっ、何これ! デスノートか!?」と思うかもしれない(笑)。

以前はノートをネタ帳にしていたんですが、一度マック(=マクドナルド)に忘れてしまったことがあって。急いで引き返したけれど、見つからなかったんです。すっごくショックで凹みまくりました。だって見られたら恥ずかしいじゃないですか! それ以来、ルーズリーフ&バインダー形式にして、必要な2、3枚だけ持ち歩くようにしています。

ネタ帳には、小説の構成も書き込んでいます。キャラクター設定と時系列を一覧表にしたり、『少女は卒業しない』のときは、校庭や校舎、体育館の配置を描いておいて、全体のつじつまがきちんと合うよう、確認しながら物語を書きました。ときどき、作家の方が「書いている途中で勝手にキャラクターが動き出して、意外な結末に…」って言いますよね? それってめっちゃカッコいい! いつかそんな風に言ってみたい! 憧れます。でも、僕の場合は、全体の骨組みや結末をあらかじめ決めてから書き始めるので絶対無理。だって、学校の配置も図にしているくらいですからね(笑)。

それから、小学4年生から6年生にかけて毎日欠かさず日記をつけていたことは、観察力と記憶力を鍛えるにはよかったのかもしれません。もともと僕は書くことが苦手でした。それで、読書感想文でよく賞を獲っていた姉に、どうやったら文章が上手くなるのかと聞いたら、日記をつけたらいいよ、って言われて。それ以来、1日200字と決めて、毎日書き続けました。書くことがなくても絶対200字は埋めよう!と。でも、毎日事件が起こるわけもないから、1日200字って難しいんですよ。だから、見えたもの、聞こえたもの、なんてことのない日常の風景を書いて無理やり日記を埋めていたんです。実際、そのときの表現方法は今でも役に立っています。そんな僕の日記を読んだ担任の先生が「日記というより小説を読んでいるみたい」と褒めてくれたことが自信になって。あれが、文章を書くのって楽しい、いつか物語を書いてみよう、と作家という職業を意識するきっかけのひとつになったように思います。

僕は、ふだんから他人のことをものすごく見ているかもしれません。心の中でいろいろツッコミを入れながら(笑)。たとえば、不思議系女子がいたとします。不思議系であること自体にはツッコミません。ただSNS上のプロフィールなどで「取り扱い注意」なんて書いていたら話は別です。心のツッコミ炸裂ですよね。先日は、とある雑誌でやっていたシェアハウス特集を見ながら、ひとりツッコミが爆発しました(笑)。あなたが本を読みながら寝転がっているハンモックはすごく素敵だけども、構造上、どうやって降りるの? とか、友達を呼び寄せての2~30人規模のホームパーティはすごく楽しそうだけど、何でその人数分のオシャレなお箸が揃っているの? とか。どうしても、そういうところに引っかかってしまうんですよね、興味深くて。

―現代若者のルームシェアの話、いつか小説に書いてください(笑)。最後に、朝井さんの今後の野望、夢などを教えてください。

今、“就活(=就職活動)”ものを書いています。大学生にとって、就活って本当にキツイんですよ。自分の長所をしゃべり続けるのって精神的にかなりきます。自分自身、就職活動を通して、現実とか社会というものをいきなり突き付けられた気がしました。同時に、僕の中に潜んでいたすごくズルイ感情とか、イタイ部分とかを目の当たりにしたんです。だから、そういうものを「本当はみんなもそうなんでしょう?」と描き出してみたくて。「就職活動なんてダサい」なんて言っているヤツが実はこっそり何社か受けていたりとか、「今日もダメだった…」とツイッターで嘆いているヤツが別のアカウントを作って人事の人とやりとりしていた、とか。今まで知らなかった人の動きを見ることができました。小さな世界で、学生なりに闘う中で沸き起こる、ドロドロした感情や痛い行動、心の闇なんかを、今まさにその時代を生きている僕なりに、進行形で描けたらいいなと思っています。

そういう意味では、社会に出て仕事をすることで、同世代しかいなかった学校や教室の出来事とは全然違う、思いもよらない小説のヒントに出会えるかもしれない。社会人になることは、めちゃくちゃ不安ですが、楽しみでもありますね。……うーん、野望ですか? もちろんありますけど、ここでは言いません。小さなことで言うと「キャラクターが勝手に動き出した」って言うことですかね(笑)。

今は、とにかく、書き続けること。社会人になって書くのを辞めたら、ほらやっぱり大学生作家だ、大学生だから書けたんだ、って言われるじゃないですか。それってカッコ悪い。これからきっと大変かもしれないけれど、とにかく小説を書き続けようと思っています。

Text / Miho Tanaka(staffon)

朝井さんの素顔を拝見!

朝井さんの大好きな1冊

「無人島に1冊だけ持っていくなら? と聞かれたら、この本を挙げるほど大切な本。高校3年生の部活を引退した直後に初めて読んで、もっと部活をがんばれたんじゃないか、と自分の高校生活を振り返り、リアルに心揺さぶられました。

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小説の構成を考えるときは、お気に入りの曲を聞きながら。「水割りをくださ~い♪」で始まる、堀江淳の『メモリーグラス』や河合その子、作曲家・筒美京平さんの曲など往年の歌謡曲好き。カラオケも、もちろん歌謡曲がメイン。

朝井さんのネタ帳。ルーズリーフ一面に細かい字でぎっしりと、構成やフレーズが書きこまれている。「これ、うっかり落として見られたら超カッコ悪い。かなり神経質な人、って気がしませんか?」

Profile

 

朝井 リョウ (あさい りょう) 作家

1989年生まれ。岐阜県不破郡出身。2012年3月、早稲田大学文化構想学部を卒業し、4月から一般企業に就職。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。12万部を超えるベストセラーとなり、2012年8月11日公開で映画化も予定(主演は神木隆之介)。2作目の『チア男子!!』(集英社)は、第3回高校生が選ぶ天竜文学賞を受賞。ほかに『星やどりの声』(角川書店)、『もういちど生まれる』(幻冬舎)がある。

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