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『鼠』シリーズ配信記念企画 作家:赤川次郎 インタビュー

※本記事は2014.2.7時点のものとなります。


鼠シリーズをご紹介

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インタビュー

※本インタビューは2014年2月に行われたものです。

赤川次郎初の時代小説として話題を呼ぶ『鼠』シリーズ。あの鼠小僧次郎吉を主人公に、町人の間で息づく人情と正義のこころを、小気味良い会話と物語のテンポで描いています。1月から滝沢秀明主演でドラマ化もされ、ますます話題の著者の口から出たのは、赤川時代小説の原点とも言える時代劇映画でした。

記憶の中にある時代劇のセリフを一所懸命思い出しながら書いている

・・・今回、初の時代小説ですが、以前は「時代考証など、調べなければいけない時代物は書かない」とどこかでおっしゃっていたこともありました。書かれたきっかけと、書いてみて実際にどんな苦労などを感じられたのでしょうか。


赤川:書いたきっかけは、「頼まれたから」ということですね(笑)。角川の文芸誌「野生時代」がリニューアルする時に、「全ての作家さんに、今まで書いたことのないジャンルを書いてもらう」というコンセプトがありました。何があるかと考えてみたら、結局時代物ぐらいしかないと思ったんです。時代物を書かないかという話は以前からあったのですが、やっぱり歴史や事実関係を調べるのが面倒くさくてやっていませんでした(笑)。でも今回は、いよいよ「やりましょう」ということになって、書いてみたわけです。時代考証をしていないので、かなりいい加減ではあります。ただ小説ですから、分からないところは書かなければいい(笑)。映像にする人は大変ですよね。実際に全部写ってしまうわけで、どんなところに住んで、何を食べているのかとか、カメラに写る全てを用意しなくてはいけないですものね。


・・・もともと会話のテンポが良い赤川小説ですが、今回は江戸時代の言葉遣いも含めて落語的という感じがしました。江戸の言葉遣いは、書かれてみていかがでしたか?


赤川:子どもの頃から時代劇がすごく好きで、映画の時代劇をずっと見てきました。父が東映に勤めていたので、生まれたのも下の階が試写室だった会社の2階でした。だから2、3歳の頃から、試写室で東映のチャンバラ映画を見てきたわけです。先代の中村(萬屋)錦之助さんがスターになっていくのをずっと見てきて、大映の市川雷蔵や「座頭市」などは大人になってからビデオで見ました。ともかく時代劇が大好きだったので、記憶の中にある時代劇のセリフを一所懸命思い出しながら書いている、という感じですね。

権力と反対にいるような主人公を書きたいと思った。

・・・染み付いたものなんですね。鼠小僧は、時代劇/時代小説では定番的なモチーフだと思います。芥川龍之介や吉行淳之介、大佛次郎など様々な作家が題材にしてきました。赤川流の鼠小僧はどういったものを考えたのですか?

赤川:実在の人ですから資料もありますし、作家を惹きつけるのかもしれませんね。前に時代小説を頼まれた時は、「捕物帳はどうか」と言われたのですが、捕物帳はつまりミステリー。時代が江戸になるだけで、書き慣れたジャンルではあるし書きやすいだろうとは思ったんですが、権力側に立っている人を主人公にしたものは嫌だなと。というのも、江戸時代についての本を読むと、どうもあの時代は拷問に近い取り調べをしていたらしいんです。そういうのは好きじゃないという気持ちもあって、権力と反対にいるような主人公を書きたいと思った。たまたま長谷川時雨という明治時代の劇作家が書いた『旧聞日本橋』という本を読んでいたら、長谷川時雨のおばあさんが鼠小僧の処刑の引き回しを見ていたという記述がありました。小柄ないい男で、結城の着物に薄化粧をして、母親と妹と3人暮らしだったとか、そういう話がいくつか出てきて、生活感というか人となりが分かってきた。実際にお金をばらまいたりはしていないわけですが、大名屋敷にだけ100回以上入ったというのは事実のようですし、薄化粧の色男ということで、当時としてはワイドショー的な話題になったと思うんですよ。妹もいたらしく、三毛猫ホームズじゃないですが、お兄ちゃんを尻に敷く元気な妹も出せるし、「こういう人だったら書けるかもしれない」と思って、鼠小僧にすることにしました。

・・・なるほど、実際、妹の方が強いんじゃないかというくらい勝ち気な妹ですよね。

赤川:そうですね(笑)。妹の方が腕は立つ、みたいに書いていますね。

・・・鼠小僧は、盗みを通して権力者の側から力を奪取するような存在で、正義を巡る話として全編が書かれています。鼠小僧が行っている正義というのは、赤川さんにとってどういう位置づけなのですか?

赤川:正義というよりは、人情ですかね。庶民の辛い暮らしや下級武士が抱える矛盾への同情というか、おせっかい焼きの鼠小僧になっていますね。

・・・割と首を突っ込みたがるタイプ。

赤川:やりたくなくても、困っている人と関わっちゃうとつい助けたくなっちゃうという風に書いています。どこに忍び込んで何を盗るかという話より、むしろ1話ごと、別々の人の人生に関わっていくことから生まれる連作集にしています。シリーズものは、登場人物が基本的に変わらないし、メインのキャラクターの性格も固まってくるので、長くなると一作ごとに別の人を絡めるかたちになっちゃうんです。妹とのやり取りを描いていって、その都度出世から外れた侍や報われない町人のような人たちが巻き込まれて事件を解決していくというかたちですね。

・・・赤川さんは、弱い人や社会的弱者のような存在を常に暖かい目で見ていらっしゃいますね。

赤川:それと、昔の本を読んでいておもしろかったのが、盗みに入られた大名があまり怒らないで自慢していたらしいということ。よその大名に「うちは入られたけどお前はまだなのか」みたいな、盗られるだけの財産を持っているという自慢ですよね。怒るのではなく、それが自慢になるというの、おもしろいと思いました。要するに当時の大名って結構ひまなわけですよ。200年間、戦争もなければ何もないわけですから。そういう時に一種のアトラクション的な楽しみが鼠小僧にはあったのかな、と。そういうのんきな江戸時代みたいなものも書いてみたいですね。

江戸を背景にした現代劇として読んでもらえれば楽しんでいただけるのでは

赤川:鼠小僧が捕まった時も、捕まえた方は鼠小僧だと知らないで捕まえていて、あとで鼠小僧と分かったら、「分かっていれば捕まえなかったのに」という話もあったみたいです。


・・・江戸時代という舞台設定だから書けるものは、何か見つかりましたか?


赤川:かなりのスピードで書いてきたので、そこまで考える余裕がありませんでした。当時の記録についての本をいくつか読んで参考にしながら書いてはいますけど、舞台が江戸になってはいても、あくまで現代劇に近い。とはいえ現代人の感覚ではこんなこと考えないだろう、ということもたくさんあると思いますが。そういう点では、江戸を背景にした現代劇として読んでもらえれば楽しんでいただけるのではないかと。ただ、実際の鼠小僧は江戸末期の人なんですよね。1879年生まれの長谷川時雨のおばあさんが見ていたぐらいですから。作品の中ではそういう時代考証は全く無視して、江戸時代のことならいつでもいい、みたいにしています(笑)。


・・・1600年代もあれば1800年代もある、ということですよね。


赤川:200歳まで長生きしているような感じですね(笑)。時代が飛んでしまって、映像化する方は大変だと思いますけど…。


・・・永代橋崩落という歴史上の事実が出てくる話がありますが、事実をきっかけに話を膨らませることも多いのですか?


赤川:いや、永代橋はたまたまです。文庫解説で時代小説評論家の縄田一男さんが、「これが出ているからこの時代が背景」というようなことを書いてくれていましたが、「全然そんなこと考えていません! すみません」という感じ(笑)。まぁ一言二言そういう事実が入ってくると、江戸らしい雰囲気が出てくるので、できるだけそういう歴史的なエピソードは入れておきたいと思っているんです。


・・・いろいろな資料を読んで、作品を書かれて、江戸時代はどういう時代だったと感じていますか?


赤川:当時の地図を見ても、大名屋敷はものすごく広いんです。それ以外の一般庶民たちは、すごく狭い長屋に押し込まれている。やっぱりそこには歴然と身分制度があって、それが江戸徳川幕府を支えていたわけです。一方で、幕府の屋台骨を揺るがすようなものでない限りは結構自由にさせていた、というのが、江戸時代が長続きした理由なのだと思います。でも秩序を乱す者には、容赦なく取り締まりもしただろうし、幕府内の権力争いの影響が庶民に降り掛かるということもあったと思います。そういうことも今後書いていきたいですね。


・・・江戸時代はいい時代だったと思いますか?


赤川:あまり良くはなかったんじゃないですか。今の価値観と全然違いますからね。ただそれなりに楽しんではいただろうと。江戸というのは今の東京と同じようにかなり特別な街だったと思うし、今で言う外食産業がすごく盛んで、ほとんどの食べ物が外で食べられるようになっていたみたいです。衛生面でも、当時のパリやロンドンと比べても江戸のほうが断然いい。パリはろくにトイレもなくて、不衛生なところがあったらしいですから。日本人のキレイ好きは江戸時代にはもう始まっていたんです。


・・・江戸時代の資料を読まれるという話でしたが、他に落語を聞くとか、他の作家の時代小説を読むとか、そういったことはされていますか?


赤川:小説を読むひまがないんです(笑)。もともと時代小説はほとんど読んだことがないんですが…。映像化されたものは見ていますよ。ただ昔の時代劇は時代考証がしっかりしているので、それに頼っちゃって(笑)。「あそこでこう言っているからいいだろう」みたいな。

必ず最後はお祭りで終わるみたいな東映の能天気さとリアリティのある大映、両方の良さをミックスできればいいですよね。

・・・映画の時代劇で、赤川さんのスターは?


赤川:僕はもう錦之助がとにかく好きで、「紅孔雀」で、デビューした頃からずっと見てきました。「宮本武蔵」など、堂々たる大スターになって。ただ、東映のチャンバラ映画のほとんどはかなり単純明快で、悪役もいつも同じなんです。顔を見れば悪役だとすぐ分かる(笑)。だから高校生ぐらいになって初めて大映の市川雷蔵を見た時に、「大人向けの時代劇ってこういうものなのか」と知りました(笑)。リアリティがあるし、役柄の背景が感じられますよね。三隅研次監督が好きで、大映の「座頭市物語」なんかすごい映画です。必ず最後はお祭りで終わるみたいな東映の能天気さとリアリティのある大映、両方の良さをミックスできればいいですよね。


・・・あまり残酷なシーンは書かず、無駄に人を殺さないという赤川さんの考えは、そういう映画からの影響はありますか?


赤川:そうですね。ただ、立ち回りというのは時代劇の場合は一種の約束事で、いちいち人を殺したことで悩まないわけです。時代ものでは、それは一種の様式として楽しんで使いたいので、鼠シリーズの中では結構バタバタ斬っています(笑)。


・・・確かに、小袖がスッと入ってきて、気づいたら殺していることもありました。


赤川:そうなんです。でもテレビドラマの方では、人を殺さないことにしているみたいですよ。


・・・先ほど大映と東映の話が出ましたが、それぞれで「この一本」を挙げるとしたら、何になるでしょうか?


赤川:東映は、やっぱり内田吐夢さんの「宮本武蔵」ですね。中村錦之助の全5部作。特に「一乗寺の時間」はすごい映画ですよ。日本映画はあの辺がピークじゃないですか。5部作最後の巌流島の頃になると、東映の経営が傾いてしまって、3分の1の予算でいいならと何とか製作したみたいで、出来は何とも…。大映では、市川雷蔵が好きだったので「眠狂四郎」シリーズが一番好きです。立ち回りは勝新太郎の方が上手だと思うけれど、「座頭市」はちょっと作り過ぎちゃった感じがするというか、碁盤を斬ったりして、「こんなもの斬れないでしょ」みたいなところがあった(笑)。ただ、シリーズで何本も撮るプログラムピクチャーで一所懸命で工夫をするのは偉いし、すごいことだと思いますし、特に大映京都のスタッフの画面のつくりなど職人技も楽しめます。これからの作り手さんもああいうものを見て勉強して欲しいなと思います。

プロフィール

赤川次郎(あかがわじろう)

1948年、福岡県生まれ。76年、『幽霊列車』で第15回オール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。以後、続々とベストセラーを刊行する。「三毛猫 ホームズ」シリーズ、「鼠」シリーズ、「天使と悪魔」シリーズ、「花嫁」シリーズ、『死者の学園祭』『セーラー服と機関銃』『ふたり』『記念写真』『霧の 夜の戦慄 百年の迷宮』他、著書多数。2006年、第9回日本ミステリー文学大賞を受賞。

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