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Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.34 書くこと、綴ること

※本記事は2012.3.23時点のものとなります。

タレントとしてテレビやラジオで活躍しながら、文筆の分野でも才能を発揮してきた水道橋博士さん。ルポルタージュの形をとった人物伝や書評、自伝的エッセイなど、さまざまなスタイルの著作を発表してきたほか、〈元祖芸能人ブロガー〉として15年にも渡ってウェブ上にて日記を書き続けています。文章を綴るということの魅力や難しさについて、お話を伺いました。

●原点にあるのは、ルポライターへの憧れ

僕は(ビート)たけしさんに出会う前に、ルポライターの竹中労に憧れていた時期があったんです。自分がものを書くようになった原点を考えると、そこになるんでしょうね。ただ芸人になってからは、文章を書くことを避けてました。やっぱり、書くことって大変じゃないですか。労力もかかるし、割に合わない。でも、雑誌でいろいろ連載を持ったり要求に応じて書いていくうちに、文章に対する興味が戻って来てしまったんです。


昔はものすごくコンセプチュアルで作り込んだ文章を書いてましたね。「お笑い男の星座」というタレント人物伝の本があるんですけど、それは梶原一騎の劇画のような文体で、ストレートに熱いストーリーを書き上げていた。もともと連載していた「TVブロス」という雑誌が、テレビを斜めに斬っておもしろがるようなノリだったんで、そこに対するアンチの気持ちもあったんだろうね。「本業」という単行本では、改行なんかで生じる余白をほとんどなくして、ページ全部を活字で埋めるって作りにした。ものすごく大変だったんだけど……あれは誰も評価してくれなかったな(笑)。そもそもわかりにくいよね。そんなことに力を注いでどうするんだっていう。


そこまで気合いを入れて書いていたのは、一冊の本を作品として成立させたいって気持ちがあったからだろうなあ。少なくともタレントでそこまでやる人はいないから、挑戦してみたかったんですよ。全然売れてない時期は、自分たちの状況に対するルサンチマンもあったし、たっぷり時間をかけられる余裕もあった。あと、僕は謹慎期間もあったので(笑)。

●三島由紀夫に似た文体?

そうやって書き散らしてはいても、相変わらず執筆はしんどい。でもある時、自分が書いたものを石原慎太郎氏に褒められて、それが真面目に書こうと思ったきっかけになりましたね。百瀬博教さんの文庫の解説を、美文家の百瀬さんに応じた文体で書いたんですよ。そしたら石原さんから電話がかかってきて「君の文体は三島由紀夫に似てる」なんて言うんです。三島由紀夫は読んでないので完全な勘違いなんだけど(笑)。

自分の文章のベースになっているのは、漫才師として台本を書く感覚でしょうね。漫才を作る時ってものすごい量の文章を書くし、ひとつの話のなかにどれだけネタを被せていくか、二重の意味を持たせるかってことをすごく考える。自分の書いたものを読むとダジャレとか、かけ言葉が多いんですよ。推敲する時にどんどん入れ込んでいっちゃう。あきらかにやり過ぎな時もあるくらい。それはやっぱり、漫才師のリズムが体に染みついてるからでしょうね。

書く内容に関しては、ドキュメンタリーとか人物伝みたいなものばかりです。それは、やっぱりルポライターになりたかったからなんでしょうね。小説を書いたことはないですから。「なんで(小説を)書かないんですか?」って聞かれることもよくあるんだけど、そういう欲求がない。人物伝にしたい人はまだまだたくさんいますよ。さっきも名前の挙がった百瀬さんについてはもう500枚くらい書いているんだけど、亡くなってしまわれたし、世に出すことはないかもしれない。あれも異常な情熱に突き動かされて書いてましたね。芸能界の後ろ盾みたいな人でもあったし、知られざる裏側があるわけです。そこを取材するのが楽しかったなあ。

●日記を通じて広がる世界

ウェブ日記を始めたことも、自分が文章を書く上で大きな出来事ですね。ホームページ上で漫才を発表していこうと思った時に、たくさんの人に見てもらうには日記を載せるのが一番だと言われて、それで始めたんです。もう15年になるのかな。芸能人のなかでは最長だと思います。でも、当時は日記を晒すことに対する自意識の葛藤がすごくあった。自分ファンクラブの会長が会報を出してるみたいな、すごくナルシスティックな行為に思えちゃって。いまやブログなんて当たり前だけど、みんながやってない時期だからね。「俺は何を書いてるんだろう」と思いつつ(笑)。

でも、日記を通じて、自分が興味を持っていることとかサブカル趣味がいろんな人に知ってもらえた。それまでは、たけし軍団の一員としてのムチャクチャな体当たり仕事しかなかったのが、文章を書く仕事をもらったり、コメンテーターや司会なんかの仕事に繋がっていったんです。

日記を継続できているのは特に秘訣があるわけじゃなくて、もはやここまで続けちゃうと止められないんですよね(笑)。初期はしょっちゅう止めようとしたし、実際に止めたこともあったんだけど、復活させた時に空いてた期間の日記を埋めて。何も書かない日があると、前の日に比べてつまらない日を送ってしまったような気がしてくるんですよ。それが許せなくて、どんどん克明に書くようになっていった。 

いまは日記に対して躁な時期を過ぎて、かなり落ち着いちゃってますね。文章量が全然少ない……というか、Twitterを写してるだけ(笑)。でも、それだと140字の文章の羅列になっちゃうから、読み返してもおもしろくない。そう考えると、やっぱりまとまった文章にはまとまった文章の魅力があるんだと思う。

●反応を得ることがモチベーションに繋がる

文章を書くことについてアドバイスするとしたら……なんだろう。でも、書きたくないのに書く必要なんてないわけで。書こうと思っている人は、書くことが好きってことだよね。いまはウェブでいくらでも発表できるし、ダイレクトに反応がもらえる。それはモチベ」ーションになると思う。逆にプロの作家だと、よっぽど売れてないと読み手がいる感覚は持ちづらいんじゃないかな。ただデメリットもあって、Twitterにちょろっと書くだけで即座にリアクションがもらえると、そのコミュニケーションだけで満足しちゃって、しっかりした文章を書くことに固執しなくなっちゃうのかもしれない。

自分の場合も、文章が嫌いだった時期もあるけど、結局は戻ってきた。やっぱり書くことが好きなんだと思います。芸人としての自分、テレビの自分とは違う部分を執筆活動で出している。ブログを書いたりすることで、なんらかの言い訳をしてるのかもしれないですね。

水道橋博士さんの紙で味わう一冊

『さらば雑司ヶ谷』/ 樋口 毅宏(著)/ 新潮文庫

芸人になってから、小説をほとんど読まなくなったんですよ。たけし軍団の一員として、裸で熱湯に入ったり猛獣と戦ったり(笑)、現実が非日常になっちゃったから、小説のフィクショナルな世界が地味に思えちゃって。そんななかで、久々に衝撃を受けたのがこれ。映画から音楽から、とにかく膨大なサブカル・ネタを引用しながら展開されるハードコアなハードボイルド小説。笑っちゃうくらい荒唐無稽なんだけど、それだけに読んでるこちら側の「人生の平穏」が際立つ。

Profile

水道橋博士 漫才師・浅草キッド

1962年生まれ。岡山県出身。お笑い芸人としてテレビ・ラジオで活躍するほか、執筆活動も多数行う。

出演番組:『別冊アサ秘ジャーナル』(TBS)、『あさイチ』(NHK)など。

著書:『お笑い男の星座』、『キッドのもと』。水道橋博士名義では『博士の異常な健康』、『筋肉バカの壁』、『本業』など。

特技:宅地建物取引、漢字検定(2級)、ベストアサイーニスト、他。

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