
マンガを掘りつくせ!Manga Diggin’ vol.1 『とんかつDJアゲ太郎』
Reader Storeのコミックコンシェルジュが、マンガの世界を掘り下げる連載コーナー!
トップバッターを飾らせていただく、野本です。
どうぞお付き合いください♪
渋谷の夜に青春を賭ける若者たちの姿がアツイ!
今から約10年前。当時、渋谷の出版社でストリート系雑誌の編集者をしていたボクは、どっぷりクラブカルチャーにのめりこんでいた。仲間を集めてイベントを開催したり、DJやダンスに挑戦したり……。
編集者との“二足のわらじ”を必死で模索したものの、結局どれもこれも中途半端なまま終わった。そんなボクがハマってしまったのが、この「とんかつDJアゲ太郎」だ。
東京・渋谷、その片隅に一軒のとんかつ屋がある。その名も「しぶかつ」。三代目の揚太郎は、父・揚作のもと、なんとなく見習い修業を続ける毎日だった・・・。だがある日、とんかつを届けに訪れたクラブで、味わったことのない高揚感をおぼえる。そして伝説のDJとの出会いが、彼を本気にさせた。「とんかつもフロアもアゲられる男になりたい!」――――これは、とんかつDJとして踏み出した少年の青春物語である。
自身の青春時代と同じような道をピュアな眼差しで突き進んでいく主人公・揚太郎の姿に一撃でヤラれた。揚げたてのとんかつのように熱~い話の連続で、サクサクの衣のように尖がったセリフが胸を刺す。揚太郎が出会うクラブ界隈の人々は、ボクの記憶の中にいる当時の仲間たちの姿そのままだったからだ。
ゆる~い脱力系のギャグマンガと勘違いしていたが、蓋を開けてみれば渋谷の夜に青春をかける若者たちの魂が詰まった渾身の一作やんけ!? ふと同じように「絵柄だけを見て敬遠している人も多いのでは?」と感じたボクは、この場を借りて本作の魅力を語らせていただくことにした。
クラブカルチャーをテーマにした王道の少年マンガ!?
本作の主人公である勝又揚太郎(かつまた あげたろう)は、渋谷の老舗とんかつ屋「しぶかつ」の三代目(この三代目は、あの“三代目”とかけてる?)。家業を継ぐための修行に明け暮れるなか、伝説のDJビッグマスターフライに出会ったことで、とんかつ屋兼DJ=“とんかつDJ”という謎のキャリアをスタートする物語だ。

揚太郎は“生まれも育ちも渋谷”というオシャレなプロフィールを持ちながらも流行に疎く、好きな女の子とまともに話すこともできないピュアボーイ。この時点で「渋谷が舞台なのに、こんな主人公いるわけないやんけ」とツッコミたくなる人もいるかもしれないが、ボクはまずこの設定にこそリアリティを感じずにはいられなかった。
若者の街として名高い渋谷だが、道玄坂を一本裏の道に入ったクラブ界隈には、昭和の香りがどこかしこから漂ってくるダウンタウンが広がっているからだ。作中にも登場する百軒店には、元祖焦がしネギラーメンでおなじみの中華料理店「喜楽」、食通として知られる池波正太郎も通ったカレー店「ムルギー」など、創業から60年以上も地域の人々に愛される名店が今も健在。そんな老舗飲食店にちょっぴりわんぱくな跡取り息子がいたとしたら…?
それはきっと本作の揚太郎のように、意外とピュアな子に育つのかもしれない。なぜなら彼にとって渋谷という街は、目いっぱいオシャレを決め込んで出歩く若者の憧れの街ではなく、ただの地元でしかないからだ。

クラブカルチャーに明け暮れる青年といえば、チャラチャラしたナンパ者や「TOKYO TRIBE」に出てくるアウトローを連想してしまうが、そういったダークなイメージをまったく持たない好青年を主人公に据えていることが本作の大きな魅力になっている。
平凡な青年・揚太郎が、がむしゃらに努力を続けて成長していく姿は往年の少年マンガの主人公の姿そのものであり、“痛快”という言葉でしか表現できない抜群の面白さがある。
DJが主人公の少年マンガ……。マンガの編集経験もある筆者だが、同じような設定を考えたことはあっても実現する日がくるとは夢にも思わなかった。ましてや、とんかつ屋だって!? “これ考えた人、天才じゃん”ってくらいに脱帽! まったく無関係に思えるとんかつとDJの“繋ぎっぷり”も実にお見事なのだ。

作中、さまざまな経験から「とんかつ屋とDJは同じなのか」とひらめく揚太郎。その姿に、最初は強烈な違和感を覚えたものの、話が進むにつれて「とんかつ=DJ」という構図が当たり前のように頭に染み込んでくるから不思議だ。とんかつ屋の経験がなぜかDJに役立ち、DJの経験がとんかつ屋の仕事に生きる……。この摩訶不思議なサイクルが違和感なく繰り返され、揚太郎は回を重ねるごとに見事に成長を遂げていく。じゅんじゅわ~……。とんかつを揚げる擬音がだんだんと病みつきになり、気がつけばむさぼるように次から次へとページをめくってしまう。箸が止まらない極上のとんかつのようにジューシーな本作を、ぜひ皿(レコード)ごとペロリとご堪能あれ!
(本記事は2017/1/3に、【es】エンタメステーションに掲載されたものです)
本コラムで紹介した作品
コンシェルジュ・プロフィール
野本和義

1981年7月8日生まれ。幼少時からお受験戦争に駆り出され、順風満帆にエリートコースをひた走るも、すべてをかなぐり捨てて編集者(=アウトロー)の道に。ストリート雑誌からキャリアをスタートさせ、その後、さまざまなジャンルの雑誌・マンガの制作に携わる。出版業界の新時代到来を感じ、Reader Store編成部に参加。










