
「働く」ってなんだろう? インタビュー:海猫沢めろん

高校卒業後、ホストやデザイナーなどさまざまな職を経て作家へ。オタク評論家として熱狂的な支持を受ける一方で、SFから“愛”についてまで多彩なジャンルの作品を生み出している気鋭の作家・海猫沢めろんさん。そんな彼の最新話題作『ニコニコ時給800円』が電子書籍となって登場!現代の厳しい労働事情の中、たくましく生きる若者の姿をリアルに描いた小説の舞台裏をじっくり伺いました。
“働く”ことの根本的な何かを知りたい
海猫沢めろんさんは1975年生まれ。「ワーキングプア」「ロストジェネレーション」「フリーター」という言葉を直に浴びながら生きてきた世代だ。
「実際、周りの友達には、フリーターやワーキングプアの奴らがいっぱいいました。ぼく自身も高校卒業後、アルバイトを含め、いろんな仕事をやりましたね。その後、大阪に出てからは専門学校に通いながらサラリーマンをやったんですけれど、どれも時給800円くらい。小説家になった今だって、時給にすると、正直たいして変わらないですよ(笑)。時給は安いし、なかなか上がらない。じゃあ、何のために働いてるのか?お金を稼ぐため?やりがいを求めて?仕事は目的なのか?それとも手段?というか、そもそもなんで働かなくてはいけないのか……?この小説のテーマには、そんな、“考えてもどうにもならないけれど、だけど考えなきゃいけないこと”、つまり“働く”ことの根本的な何かをぼく自身が知りたい、という思いがありました。」
希望だけでなく、絶望だけでもない。その両方を抱えて生きる
『ニコニコ時給800円』は、2009年から文芸誌『すばる』で不定期に連載した5編を集めた短編集。主人公たちはそれぞれ、マンガ喫茶や洋服店、パチンコ屋、野菜の移動販売、ネットゲームのシステムエンジニアなど、時給800円の職場で働く人々。めろんさんは実際にそれらの職場で働く人々を取材し、イメージを膨らませながら小説を書き上げた。

「この連載が始まったころは、派遣社員の問題とか、ちょうど若者の労働問題が話題になっていたころ。いろんな職業の人に会って話を聞く中で、そんな労働事情についてどう思う?と聞いてみたんですが、“ワーキングプア?何それ?” “ロスジェネ?わかんない”みたいな回答が多かったんです(笑)。いや実際、そういう問題に関心のある人はいると思いますよ。でも、ぼくらが思っているほど、“下流社会”とか“底辺”とか“最下層”って存在しないんじゃないか、とふと思って。今の時代、なんとなく働いて、なんとなく生きていけるじゃないですか。安い牛丼店や百円均一なんかがありますしね。でもみんな、どこか漠然とした不安や生きづらさも感じてる。さっきも言いましたが、“考えなきゃいけないけれど、考えられない”。そのせめぎあいの中で生きている人たちを肯定したかったんです。」
同時に、いわゆるワーキングプアやフリーターである人たちからは「確かに底辺ですけれど、何か?」といった、ある種の“開き直った強さ”も感じられた、とめろんさんは言う。
「だからこそ、この小説を通して、安易に“希望をもて”とか“嘆きすぎて絶望しかない”とか言いたくなかったんです。希望だけでもなく、絶望だけでもない。その両方を抱え、その間で生きていくのが人間だと思うから。」
仕事とは、目的と手段を明確に分けることができないもの
確かに、小説に登場する人物たちはみな、先が見えない不安を抱えつつも働くことに前向きで、かつとても楽しそうだ。特に最終5話に登場する、“自称イケメンだけが取り柄の天才”リュウセイのセリフに、働くことについて、何かを気づかされ、勇気づけられる人は多いはず。

「彼のセリフは、ぼくの本音でありぼくなりの答えです。“何のために働くのかわからないなら、わからないなりに楽しむしかない!”みたいな(笑)。すごく当たり前のことかもしれないけれど、仕事って自発的に楽しくやらないとできないですよね。それは、自分で経験して体験して感じて初めてわかるもの。結局、自分で見つけるしかないんです。じゃあ、“仕事を楽しめない人はどうしたらいいんでしょう?”という人がいるかもしれません。そういう人は、縦に掘り下げるんではなくて“横に広げてみては?”今の仕事は楽しめないかもしれないけれど、別の仕事は楽しめるかもしれない。そういう手もあると思う。仕事が楽しめないという人に限って、“今まで何個ぐらい仕事したんですか?”と聞くと1、2個しかやってなかったりする(笑)。もちろん、職場だけでなくて、職種も変えてない。」
「仕事って、目的と手段を明確に分けることができないもの。好きだと思ってやってみたら嫌になったり、絶対苦手と思っていた仕事をやってみたら思いのほか楽しかったりする。自分の想像の外、つまり選択肢にない仕事もやってみたら、“おおっ”とヒットするかもしれません。まずは幅を広げてみること、やってみることが大切です。そう考えると、“大人のためのキッザニア”みたいな場所って必要だと思うなぁ。」
そんなめろんさん自身は、いったいどれくらいの仕事の経験があるのでしょうか?
「公式には20個くらい。非合法なものを合わせるともっとある(笑)」
めろんさん流・仕事の楽しみ方(かなりオリジナルです・笑)
では、今の作家というお仕事、楽しいですか?

「うーん……。楽しいと思うときとそうじゃないときがあります……って、言ってること矛盾してますよね(笑)。でも、やっぱり楽しいかな(と自分に言い聞かせるめろんさん)。
そうだ!今ね、“ポモドーロテクニック”ってのにハマってるんですよ。ハッカーの間で生まれたテクニックで、25分仕事して5分休むというテクニック。この「30分」を“1ポモドーロ”とするんですが、あくまで重要なのは、この30分という時間単位であって、中身、つまりクオリティとか量は気にしない。そのポモドーロ数をグラフにして、今日は何ポモやった!という単純な達成感を得るんです。昨日は9ポモ獲得、対して今日は1ポモか…、あと3ポモは稼ごう!みたいな。そんな前向きな達成感をゲーム感覚で得るわけです。すると不思議なことに、その1ポモに全力投球できるんです。多くの人は仕事の中身を気にし過ぎるあまり “あぁ、今日も書けなかった…”と罪悪感を感じて凹むわけですが、それが軽減されるんです。というわけで、最後に、ぼくは今こうやってなんとか仕事を楽しんでる、ということをお伝えしました。興味ある方はお試しください(笑)」
潰れかけのマンガ喫茶、渋谷の名所とも言えるファッションビル、低農薬野菜を売る移動トラック、前科者ぞろいのパチンコ店、オンラインゲームのサポートセンター。現代の労働事情を象徴するような5つの職場で、時給800円で働く若者の姿をリアルに、ユーモアを交えて描いた連作短編集。
Profile
海猫沢 めろん (うみねこざわ めろん) 小説家

1975年生まれ。大阪に生まれ、兵庫県で育つ。高校卒業後、さまざまな職を経て25歳で上京。PCゲームのデザイナーとしても活躍後、2004年『左巻キ式ラストリゾート』(イーグルパブリシング)でデビュー。著書に『零式』(早川書房)、『全滅脳フューチャー!!』(太田出版)、『愛についての感じ』(講談社)など。現在、新作を執筆中。乞うご期待!
公式サイト: 海猫沢めろん.com

