
出版順に読むか、年代順か、どちらが面白いのか、それが問題だ!(ナルニア国ものがたり)
出版順に読むか、年代順か、どちらが面白いのか、それが問題だ!
「木や水の精」や「ものいうけもの」が人間と会話する架空の世界、ナルニア国を描いた『ナルニア国ものがたり』は、『指輪物語』(J・R・R・トールキン)、『ゲド戦記』(アーシュラ・K・ル=グウィン)と並んで、現代ファンタジーの基礎を築いた傑作である。

指輪物語
著者: 瀬田 貞二/Tolkien John Ronald Reuel
出版社:評論社
発行年月日:1977.04.01
大魔法使いオジオンに,才能を見出された少年ゲド.自分に並はずれた能力がそなわっていることを知ると,魔法の力にさらに磨きをかけようと,魔法の学院に入る.得意になった彼は禁じられた呪文を唱え,自らの〈影〉を呼び出してしまい,〈影〉との果てしない戦いに引き込まれていくことになる.大賢人ゲドの若き日の物語
三作の中では一番平易な文章で書かれ、読書好きなら小学中学年から読むことができる(岩波少年文庫には小学4・5年以上とあるが)
しかし、平易だから安易というわけではない。物語の根底に流れる思想の深みは二作にけっして劣らない。
当初、発表されたのは、『ライオンと魔女』で、作者はこれで完結のつもりだったが、あまりに好評で、出版社の勧めや読者の声に押され、物語の前後を書きつづっていったという。一年に一冊ずつ出版して、全7巻。最終巻がカーネギー賞を受賞している。
巻の題名と出版順は次のとおり。
1,ライオンと魔女
2,カスピアン王子のつのぶえ
3,朝びらき丸 東の海へ
4,銀のいす
5,馬と少年
6,魔術師のおい
7,さいごの戦い
この発表の事情を聞くと、出版順に読んでいくのがいいような気がする。
完結していた物語の続編、しかもそれが6巻も続くというのでは設定に無理が生ずるだろう、つじつま合わせのねじれがあるのではないか、二作目以降は質が落ちるのが常だ、そう思う人がいるだろう。
訳者の瀬田貞二も「やはり発表された順に、物語を読み進んだほうがおもしろいことが、わかります」と『ライオンと魔女』のあとがきで述べている。
また、ファンタジー作家の荻原規子も「発表順に読むほうがいいと、わたしも思う」といい、その理由を「作者のなかで、物語が展開していく様が感じとれるのである」と書いている(『いま読む100冊ー海外編 児童文学の魅力』日本児童文学者協会編)
児童文学の魅力 いま読む100冊

著者: 日本児童文学者協会
出版社:文渓堂
発行年月日:1995.05.01
作者は最初にフォーンのイメージが思い浮かんだという。雪の中を「こうもり傘をもち、もういっぽうの腕には、茶色の紙包みをいくつかだきかかえて」いる半人半山羊のフォーンだ。それは16歳の時に抱いたイメージで、それから『ライオンと魔女』を書き出す52歳まで、作者は胸の中でそのイメージを30年以上温めていたのだった。
少し長いが作者の物語の作り方を述べている部分を引用しよう(これは『ライオンと魔女』のあとがきに引用されている文章である)
「ある意味からいいますと、私は物語をこしらえたことがありません。私にとって物語のできていく課程は、語る働きや構築する働きよりも鳥を観察する働きに似ています。私には、まず姿様子が見えます。(中略)きちんと全体がみごとにまとまりあって、じぶんから何をするまでもなく、一個完全な物語ができてしまうわけです」
これが作者の物語の作り方だとしたら、『ナルニア国ものがたり』は一つの完成品として最初から作者の中にあったといっていい。そして作家であり、ケンブリッジ大学の英文学の教授としてまた学者としての著作も多いルイスだが、児童文学として書いたのは、この『ナルニア国ものがたり』だけである。
じつは作者は、どの順序で読むのがいいのですかと読者に問われて、年代順に読んでほしいと答えている。
そこで、ネタバレになるが、簡単なあらすじとともに年代順に並べると次のようになる。〈 〉内の人名はナルニアの世界に召喚される人。偉大なライオン、アスランに呼ばれなければ、人間はナルニアに行くことができない。
1,『魔術師のおい』
アスランによるナルニア国の創世。少女〈ポリー〉と〈ディゴリー〉少年がそこに立ち会う。〈ディゴリー〉はわざわいの種(魔女)をナルニアに持ち込んだため、つぐないとしてリンゴを取りに行く。
ナルニアの誕生が解きあかされます。ディゴリーとポリーは、魔法の力で別世界へ送りこまれますが、死滅した都チャーンで魔女をしばる呪文を破ったため、ナルニアに、わざわいのたねを持ちこんでしまいます。
2,『ライオンと魔女』
数世紀後、前作での魔女が力を持ち、ナルニア国を冬にしている。長男〈ピーター〉と長女〈スーザン〉と次男〈エドマンド〉と末娘〈ルーシィ〉がアスランとともに魔女を倒す。
地方の屋敷に疎開したペベンシー家の4人兄弟が、ある日、大きな衣装だんすにはいると、雪のつもる別世界ナルニアへとつづいていました。子どもたちは、正義のライオンとともに、白い魔女の軍と戦い、永遠の冬を打ち破ります。
3,『馬と少年』
この巻のみ、ナルニア国が主舞台ではない。カロールメン国にいたシャスタ少年が、ものいう馬のブレーとともに、カロールメン国がナルニア国及び友好国のアーケン国を襲うことを知らせに急ぐ。〈4兄弟〉が王位にあるナルニア国の全盛期。
ナルニア全盛期の話。カロールメン国の少年シャスタは、奴隷として売られそうになり、愛馬ブレーとともにナルニアめざして逃げだします。途中、貴族の娘とその馬と道連れになりますが、旅には思わぬ展開が……。
4,『カスピアン王子のつのぶえ』
前作から数百年後で、ナルニア国は征服され、テルマール人の支配下にある。ナルニアに憧れるテルマール人のカスピアン王子が〈4兄弟〉の助けを借りて、ナルニア国を再興する。
夏休みが終わり寄宿舎へ帰る途中、4人兄妹は、魔法の力でふたたびナルニアへ呼びもどされます。暴君のもとで荒廃しきっていたナルニアで、4人は、身の危険にさらされている若い王子を助け、命がけの戦いをくり広げます。
5,『朝びらき丸 東の海へ』
カスピアン王の治世は平和で、王はかって父の家来で今は行方不明となっている7人の貴族を探す航海に出かける。〈エドマンド〉〈ルーシィ〉いとこの〈ユースチス〉少年がそれを助ける。
エドマンドとルーシィ、そしていとこのユースチスは、ある日、額の絵のなかへ吸いこまれてしまいます。そこはナルニアの外海で、王となったカスピアンが、朝びらき丸に乗って、未知の海へむかって航海に出るところでした。
6,『銀のいす』
年老いたカスピアン王の治世。〈ユースチス〉と少女〈ジル〉が魔女に囚われていたカスピアン王の王子を助けに行く旅をする。
願いのことばを唱えてナルニアへきた少女ジルは、行方不明になっているリリアン王子をさがすよう、アスランから命じられます。級友のユースチスや泥足にがえもんといっしょに、北へ北へとつらい旅をかさねます。
7,『さいごの戦い』
カロールメン軍とナルニア国のチリアン王の戦い。そしてナルニア国は消滅する。〈ポリー〉〈ディゴリー〉〈ピーター〉〈エドマンド〉〈ルーシィ〉〈ユースチス〉〈ジル〉がアスランに呼ばれて、戦いに加わる。
毛ザルのヨコシマはロバにライオンの皮をかぶせ、アスランといつわって悪事をはたらきます。とうとう、おそるべきタシの神があらわれ、チリアン王は、ジルやユースチスとともに、ナルニアの運命をかけた戦いへ。
作品の年代順に並べるとこの物語が、一作ずつ冒険物語として完結しながら、全体として「ナルニア国」の盛衰を描く壮大なファンタジーになっていることがよくわかる。
さて、それではおまえはいったいどちらから読むのだと聞かれたら……私の答えははっきりしている。作者がなんといおうと、訳者がなんといおうと、耳をかたむけるべきは、登場人物の声! つまり年代順だ。
ナルニアの創世を最初に見ることに意味がある。
するとナルニアに召還される意味がわかるので、最終巻『さいごの戦い』の最終章での、あの悪評高き、つまり納得がいかない、許せないという感想の多い、召還理由が(このネタバレは避けたい)しぜんに受け止められるのである。そしてナルニアは滅びていないという思いに心は満たされる。
まだ読んでいない方や子どもの頃出版順に読んだ方はもう一度、ぜひ年代順に読んでもらいたい。
さあ、ナルニアへ、いざ、冒険の旅へ!
「五十歳になっても子どもの頃と同じく(しばしばそれ以上に)読む価値のあるものでなければ、十歳の時だって読む価値はない」(C・S・ルイス)
(小川英子)









