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奇跡を起こす家裁調査官(チルドレン)

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今回は『チルドレン』(伊坂幸太郎 著) を取り上げます。

奇跡を起こす家裁調査官

チルドレン

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

伊坂幸太郎さんの作品を読み終わると、毎回、少し元気になっている自分がいます。
重い題材を扱った作品も多いのですが、読後、肩に背負っていた荷物が、まるで半分になったかのような爽快感があるのです。
甘くない現実に立ち向かう勇気を、個性的な登場人物から、いつの間にかもらっているのですね。

 

今回読んだ『チルドレン』(講談社文庫)もそうでした。
本書は、いつもわけのわからない例え話を繰り出し、周囲をわかったようなわからないような気持ちにさせて、独自の正義感を持ちながらも、なぜか周りからは愛されている「陣内」という男を中心に紡がれる連作短編集です。

 

「バンク」「チルドレン」「レトリバー」「チルドレンⅡ」「イン」という5つの短編から構成されているのですが「家裁調査官」という仕事をしている陣内の、学生時代や社会人時代が、時系列を問わずに描かれています。
作品ごとに語り手は異なりますが、陣内がいかにめちゃくちゃな人であるかということは、全員の口から余すことなく描かれています(笑)。

 

例えば、「バンク」は、仙台で大学生をしている陣内が、友人の鴨居と共に、銀行強盗に遭遇してしまう物語なのですが。
彼は、ロープで縛られ、妖しいお面をつけられ、人質になっても、恐れることなく抵抗します。なぜなら「立ち向かうこと」は彼の基本方針だから。
銃口を向けられても「それ偽物だろ?」と言うし(※本物だった・危なかった)、人質たちの緊迫した空気を和らげるために、いきなりビートルズを歌い始めます。
陣内はそこで、盲目の青年・永瀬と出会うのですが、永瀬の推理により、事件は思わぬ収束を迎えるのです――。

 

また、表題作の「チルドレン」は、家裁調査官として働く31歳の陣内が、後輩の武藤の視点で描かれています。

 

「家裁の調査官は、心理学や社会学の技法を用いて、少年犯罪の原因やメカニズムを解明し、適切な処遇を裁判官に意見として提出する、まさに非行問題の専門家なのです!」(89pより引用)

 

というのが、大まかな家裁調査官の仕事らしいのですが、陣内は相変わらず「適当でいいんだよ、適当で。人の人生にそこまで責任持てるかよ」と言っていました。
ですが、彼は誰より少年たちに慕われている家裁調査官でした。

 

武藤が万引きをした少年とその父親との面談が上手く行かず困っていたら、陣内は武藤に「少年に貸してやれ」と、芥川龍之介の『侏儒の言葉』と、もう一つ、その中にこっそり『侏儒の言葉 トイレの落書き編』という、陣内がオリジナルで作った、街のトイレから拾ってきた名言集(例えば「産婦人科医になりてえ!」などが記載されている)を挟んで、渡します。
後々、『トイレの落書き編』の存在に気づいた武藤は怒りますが、この名言集も後々良い活躍をするのですから、陣内さんは先を見通す天才……! と思わずにはいられませんでした。

 

「俺たちは奇跡を起こすんだ」

 

陣内は、家裁調査官の仕事について、このように言います。
駄目な少年は駄目だ、絶対に更正なんかしない、と居酒屋で中年男性に絡まれていた時、陣内はそう言って彼らを一喝したのです。

 

「少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、少年法とか家事審判法の目的なんて、全部嘘でさ、どうでもいいんだ。俺たちの目的は、奇跡を起こすこと、それだ」

 

そうハッキリ話す陣内はすごくカッコいいと思いました。
少年犯罪は、白黒ハッキリつけられる問題ばかりではないと思うし、裏に複雑な問題も絡んでいることが、多いと思うのですが、陣内のようにカッコよく生きている大人を見て、少年たちも何か思うことはあるだろうなあ、と感じました。

 

ギターをかき鳴らす陣内・ビデオ屋の女の子にふられて、テープを巻き戻さないで返却する地味な復讐に忙しい陣内、盲目の青年のことを「まったく普通」とシレッと言う陣内。
わけがわからない人だったけど、あちこちにカッコよさが見え隠れしていました。
続編の『サブマリン』では、さらに複雑で重い少年犯罪に、陣内と武藤が挑むのですが、そちらはより考えさせられます。
救いは必ずどこかにある。大丈夫。そう信じて前を向いて生きたいと感じました。(さゆ)

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