
豊かな色彩に彩られた、田中芳樹的貴種流離譚(アルスラーン戦記)
豊かな色彩に彩られた、田中芳樹的貴種流離譚
大陸公路に君臨するパルス王国は不敗の騎兵隊を持つ強国だったが、蛮族ルシタニアの侵攻を受け、味方の裏切りによって滅亡の危機に瀕する。王太子アルスラーンは無敵の騎士ダリューンや天才軍師ナルサスの助けを借りて、故国奪還に乗り出すが・・・・・・。中世ペルシア風の異世界を舞台にした壮大なファンタジー第一弾!
田中芳樹作品の中で今現在の一般認知度がナンバーワンに思える本作。
わたくしにとっては同氏の『銀河英雄伝説』に勝るとも劣らぬくらい、
青春時代に心奪われた物語であります。
負け戦によって故郷を追われることになったパルス国の王太子・アルスラーン。
物語は彼が苦難の末に、王都に凱旋するまでの第一部、
そしてその後の新たな戦いを描いた第二部との、二部構成です。
銀英伝同様、キャラクターの造形が魅力的なのは相変わらずですが、
アルスラーンが各巻ごとに違う土地を旅して、それぞれの場所で事に当たる展開は、
ロードムービー的な面白さも。
時に灼熱の日差し照りつける異国へ、さまざまな物品が行き交う海の都へ、砂漠へ、森へ。
わたくしが読んだ角川文庫版が、天野義孝さんの麗しく鮮やかな挿絵だったこともありますが、
ほかの田中芳樹作品と比べても、豊かな色彩を感じる物語になっています。
『銀英伝』は年を重ねて読み返すたびに、贔屓のキャラが変わったりしたのですが、
こちらもまったく同様に、わたくしに田中芳樹マイブームが訪れるたびに、
贔屓のキャラが変わっていきました。
初めて読んだ中学生の時は、黒衣の騎士ダリューン一辺倒。
黒い甲冑で戦場を駆ける姿が脳内で再生されるたびに、脳内でキャーキャー声を上げ…
高校3年時に読み返した時は、ジャスワントの生真面目さに癒され、
その堅実な仕事ぶりが報われるよう、陰ながら応援する気持ちになり…
そして20代後半に読み返した時は、なんとしたことか、
その苦労をしみじみと労わってあげたい気持ちになったのが… ギスカール!
あの中間管理職的な苦労に他人事でない感情を覚えた時は、
わたしも大人になったな… としみじみ感慨を覚えたものです…
かようにたくさんの魅力がある本作ですが、ただひとつ残念なのは、
第二部の途中であまりにも長く間が空きすぎたために、
文体やテイストがだいぶ違ってしまっていることでしょう…
9巻と10巻の間で、7年近く空いた時でさえ「あれ?なんかテイスト変わった…?」と感じたのですが。
そこからさらに間が空き、なんだか世界観まで違うように感じられてきて。
今や続刊が出ても、読むのをためらうほどです…
物語には書き時というものがあり、それを逸してはならぬということでしょうか。
あるいは時が経ったことで、わたくしの方が読み時を逸してしまったのか…
ともあれ、長い時をかけながらもせっかく完結に向かい始めた本作。
その幕引きを、思いを込めて見届けたい気持ちであります。(ナンバタカオリ)


