
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.27 旅行カバンに本を詰めて

ブロードキャスターとしてさまざまな番組を抱えながら、ピーター・バラカンさんは休暇の度に海外へ向かいます。日常を抜け出し、計画なしに楽しむという気ままな旅行。そのお供として、必ず持って行くのが何冊かの本なんだとか。バラカンさんに、旅の醍醐味や旅先での読書について伺いました。
計画のない旅で、その先に何があるかわからない「冒険」を楽しみたい

僕は旅が、大好きなんです。ただ、僕が選んだ放送の仕事の最大の欠点は、旅ができないことなんですよ。特に今は、朝のラジオ番組のレギュラーがあるので、長く休めなくて。それでも年に2回、1週間ずつの休みは取れるので、そのときには必ず東京を脱出するようにしています。行く先は母国のイギリスが多いんですが、最近はアメリカにもよく行くし、フランスやスペイン、イタリアにも行きました。今年の休みは久しぶりに東南アジアを旅して、カンボジアとラオスに行こうと思っています。
僕の旅はこれといった目的がなく、気ままに散策しながら「その街の空気を味わう」という感じでね。昔から計画を立てない、即興の旅が好きなんです。大学生のときもよく、バイト代が少し貯まると学生専用のチケット屋に行き、「この日、空いてる便はありますか」なんて感じで、ふらっと一人旅をしてました。20歳の頃のギリシャ旅行もそう。ギリシャの港にエーゲ海の島々に出るフェリーがたくさん並んでて、聞くと、次の出る船はパロスという島に行くという。それで「じゃあ、そこに行こう」と、その島で2週間くらい過ごしたんです。学生の貧乏旅行だから宿なんてどうにでもなるし、言葉ができなくてもなんとかなりますからね。計画をしない旅というのは、いってみれば冒険なんです。その先に何があるかわからない、というおもしろさがある。それが僕は好きなんです。
最近は一人旅ではなくたいてい女房と一緒なので、若い頃の旅とは違うけど、それはそれで楽しいし、まだまだいろんなところに行きたいですね。ペルーのマチュピチュやアイルランドにも行きたいし、アフリカの音楽が大好きなので、マリにも一度は行ってみたい。音楽は、やっぱりその土地で聴くのが一番なんですよね。その国の風景が目に入り、その国の匂いが鼻から入るなかで聴こえてくる音楽は、説得力がぜんぜん違う。そんなふうに未知の風土や文化に触れることが、旅の醍醐味なんだと思います。
一日でも海外に足を踏み入れてみれば、深く印象に残る何かがきっとある。

旅に持っていくのは日数分の着替えと洗面道具、あと最近は仕事を離れてもEメールから離れられないので、ラップトップのコンピュータとアダプターはどこに行くにも持ち歩いています。それから、ノイズキャンセリングヘッドホン。これがあると飛行機内の騒音がウソのように静かになるので、僕の旅の一番の必需品です。それと、本は必ず持っていきます。ジャンルはいろいろです。ジョン・ル・カレというスパイ小説の大家が大好きで、新作が出ていたらそれを持っていくし、ノンフィクションだったり、音楽関係の本だったり。少なくとも2冊は持っていき、読み終えたら旅先の本屋でまた買うようにしています。
東京にいると、なかなか読書の時間って取れないんです。今、朝4時半に起きる生活をしているので、寝る前にベッドで本を開いても疲れてすぐ寝てしまう。だから、今回ご紹介する本のようにボリュームのある本や、読むのに時間がかかる日本語の本は旅先に持っていき、移動中や、リゾートなら砂浜で読んだりします。あと旅をすると、時差ボケになるじゃないですか。僕はいつも自然に治るのを待つんだけど、そうするといつも夜中の1時や2時にパチッと目が覚めて眠れなくなる。そういうときに、ひたすら本を読むんです。
今、若い人が海外旅行に行かなくなったと言われますが、僕はそれは、若い人が洋楽を聴かなくなったこととも関係してるんじゃないかと思っていて。一昔前と違って今は、音楽も映画も日本のものばかりで、海外の文化に触れる機会がないから、「外国に行ってみたい」という好奇心が生まれないのかもしれない。それが悪いとはいわないけれど、ちょっと残念な感じはしますよね。海外を訪れて得られることは、ものすごく大きいと思います。ときにはトラブルもあるかもしれない。僕もドジであわてんぼうだから、たくさん失敗をしました。でも命に関わることでなければ、その失敗がいい思い出になったりするんですよね。だから、失敗はむしろ楽しまないと。旅に限らず、失敗しないことには成長はできませんから。そして短い期間、たとえ一日でも海外に足を踏み入れてみれば、「世界にはこんなおもしろいことがあるんだ」と深く印象に残る何かがきっとあると思います。
ピーター・バラカンさんの紙で味わう一冊
右 『上を向いて歩こう』/佐藤 剛(著)/岩波書店
左 『Still on the Road : The Songs of Bob Dylan, 1974-2006』
Clinton Heylin(著)/Chicago Review Press

『上を向いて歩こう』/佐藤 剛(著)/岩波書店
あの有名な楽曲が生まれた背景について書かれた本ですが、よく研究されていて、感銘を受けました。たとえば著者は、この歌詞には作詞家の永六輔が安保闘争で味わった挫折感が表れているけれど、坂本九の明るい歌声によって希望を感じる歌になっているのでは、と書いている。なるほどと思うことがたくさんある、大推薦の一冊です。
『Still on the Road : The Songs of Bob Dylan, 1974-2006』
Clinton Heylin(著)/Chicago Review Press
ボブ・ディランのすべての楽曲を解説した本のシリーズ2冊目です。著者はディラン・スペシャリストとでもいうべき人で、とにかくディランに詳しい。曲ができたときのディランの心境から、レコードに何テイク目が使われたかなんてことまで書いてある。曲の魅力とともにディランの人生も見えてくる、すごくおもしろい本です。
Profile
ピーター・バラカン

1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Morning」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「CBS 60ミニッツ」(CS ニュースバード)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK BS1)などを担当。






