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Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.40 歌の空気、言葉の濃度

※本記事は2012.6.22時点のものとなります。


恋する女性の胸の内を歌わせたら右に出る者なし!せつなさや優しさ、苦しさやときめき。そんなピュアな気持ちを力強く温かい歌声で代弁してくれる、歌手・JUJUさんが今回のゲスト。実はJUJUさん、大の“活字”中毒。彼女の読書ライフから歌うことへの熱い想いまで、素顔のJUJUさんに迫りました。

JUJUと本屋とジャケ買いと

昔から、本屋は大好きな場所。本屋に行くとなぜかテンションが上がるんです(笑)。だから、私が「ああ、大人になったな」としみじみ感じたのは、本屋で読みたいと思った本を20冊くらい、ばあっと買ったとき。だって子供には無理でしょ(笑)。好きな本を“大人買い”できるなんて、やっぱり大人の特権です。


時間がたっぷりあるときは、おばあちゃんがひとりでやっているような、小さな町の本屋さんをじっくり1周することが多いんですが、海外へ行く直前などあまり時間がないときは、勝手知ったる行きつけの青山ブックセンターで、目にとまった本を紙袋ふたつ分くらい、片っ端から仕入れます(笑)。浅田次郎さんや小路幸也さん、東野圭吾さんといった大好きな作家の方の本から、気になるタレントさんのエッセイ本、絵本、平積みになっている新刊など、そのときの気分によってさまざまです。表紙を見て、「これいいな」と“ジャケ買い”することもよくあります。

最近のジャケ買いはこの2冊。『犬』と『猫』(ともに中公文庫)。猫2匹と犬1匹を飼っていますから、「おおっ。なんだこれは?」ってなりますよね(笑)。しかも、谷崎潤一郎や井伏鱒二、林芙美子といったそうそうたる作家陣。彼らの犬や猫にまつわる話がたくさん入った短編集なんて、贅沢過ぎる…。もう即買い決定です。それから、吉本ばななさんの『ハチ公の最後の恋人』(中公文庫)。もともと、ばななさんの『アムリタ』と『白河夜船』が大好きで、久しぶりにばななさんの本が読みたくなって手に取った本です。

なれるものなら…、こんなオンナになりたい!

そして、ここ最近の大ヒットはこの本! 江國香織さんの『ぼくの小鳥ちゃん』(新潮文庫)。もうね、この話ったらびっくりなんですよ。ある日、主人公の男の子のところに、群れからはぐれた小鳥が迷い込んでくるんですけれど、まあその小鳥ってのが超生意気で(笑)。助けてくれた男の子とその彼女にお世話になってるっていうのに、勝手に窓にぶつかっておいて「中途半端な窓の開け方ね」って悪態はつくわ、彼女とのスケートデートについてきて「私もスケートやりたい」って拗ねるわ、エサはラム酒のかかったアイスクリームにしてくれ…だの、とにかく自由で勝手、わがままで気まぐれなんです。でも、どこか憎めない。というより、むしろ憧れる!(笑) こんなオンナになりたい!って強烈に思いましたもん。なんだか、自分の生き方や人との関わり方、距離感みたいなものをそっと問われるような、だから一瞬、立ち止まってちょっと考えてみたくなるような、そんな素敵な本です。

どこへ行っても必ずそばにいる本たち

それから、どこへ引っ越しても必ず手元にあるのがこちら。『かますのめいれい』(集英社/絶版)と「RUMI」という詩人の詩集。『かますのめいれい』は、子供のころから大好きな本なんですが…、いまだに教訓がわかりません(笑)。なまけものの男の子が、ある日、スープにしようとしたかますに「助けてください、あなたに力を授けますから」と命乞いされるんです。魚界でもわりとマイナーなかますですよ?! それで、男の子が「かますの命令だ!~をしろ!」と言うと、それがすべて叶って、結局はお姫様と結婚して一国の王になるという…。なまけものがなまけて過ごしても大丈夫!みたいな(笑)。しかも作者はトルストイ。びっくりです。あまりに衝撃的な内容に、姉とふたりで「かますの命令だ、あれ持ってきて」などと、お互いに命令し合うのが一時ブームになりました。いろいろな意味で気になる、でもどことなく癒される本です。


「RUMI」は1200年代のアフガニスタン出身の詩人。ニューヨークに住んでいたころ、友達に勧められて出会って以来、ずっと手元にあります。今も昔も、恋する人間の気持ちや言葉は変わらない。すごく弱くて愛しい。それを痛感する、シンプルな詩集です。そして絶対この作者は酒飲みです。そんな部分も共感します(笑)。

書くことはこっぱずかしい。でも、歌うなら恥ずかしくない。

それだけ本を読んでいるなら、1冊読むごとにもっとばんばん歌詞を書きためていけばいいのに、と友人からも言われます。でも書くことって、どこかこっぱずかしいんです。だから歌詞を書くのが苦手で(笑)。自分の気持ちや経験を、ダイレクトに文字で表現するのって本当に恥ずかしくて。もちろん、頂いた歌詞やそこにある物語を歌うことは、全然恥ずかしくありません。私は自分のことを言葉をメロディに乗せる“語りべ”と思っていて、歌うことは、自分が初めて自分の存在意義を見いだせた、私にとって大切な自己確認ツール。だから、歌っているときは、「私ここにいていいんですよね?」って、今でも思っています。

私は、経験したことしか歌いません。というより、歌えないんです。でも、すべての歌詞を、そのまんま経験しているわけではもちろんありません。自分が経験してきた感情、想い、シーン、すべてをもとにして、歌詞の中に潜む物語をメロディにのせて読んでいるのですが、それこそが私にとっての、歌なんです。だから、私の歌を聴いてくださった方々が、まるで自分が歌っているような感覚になってくれたらものすごくうれしいです。それはたぶん、本を読んだ後の気持ちと同じで、本を読むときって、本の中の登場人物の誰かを自分にあてはめて、同じ感覚で自分の中の物語を映し出したりしません? 歌も同じなんです。私の歌を聴くことで、聴いてくれた人それぞれの経験とリンクして、ひとりひとりが自分だけのストーリーを紡いでくれたら…。そんな想いを込めて歌っています。

日本語がにごる歌い方をしているうちは、物語は聴く人に届かない

私は、歌うとき、言葉というものをとても大切にしています。あまり自分で歌詞を書かないのも、言葉の大切さや難しさを痛感しているからかもしれません。本を読んでいて、ハッとするのは、ストーリーそのものというよりも、その本の中に出てくる、言葉の紡ぎ方や単語の使い方、リズム、トーンです。気になった言葉は、その使い方はもちろん、言葉から連想する言葉やシーンを含めて、思いつくままにノートに書きとめておきます。これは、歌詞をつくるためというより、歌うときのため。自分の経験の引き出しをひとつでも増やすためです。


メジャーデビューしたもののなかなかうまくいかなくて、自分の歌、私らしい歌って何だろう?と模索していたとき、「これがラストチャンス」と言われた曲が『奇跡を望むなら...』でした。当時はNYに住んでいて、ちょっとつっぱっていたのもあって(笑)、日本人らしくない歌い方、JAZZや洋楽を意識した歌い方にずっとこだわっていたんです。それこそが私の個性でしょ、って。でも、長年の友人でもあるプロデューサーの川口大輔くんに、「JAZZや洋楽を歌うならそれでいいかもしれない。でもJUJUがやりたいのは、日本のポップスでバラードでしょ? だったら、言葉をもっと大切にしなきゃいけない。その歌い方のままだと、日本語がにごって聴こえる。それじゃ、日本語で聴く人たちに、歌の世界観、歌詞の物語は絶対にきちんと届かないよ」って言われたんです。

20年以上自分が信じてきた歌い方を全否定されたんです。ショックでした。でもその1週間後、言葉のトーン、たとえば明るさや暗さ、強さや弱さを意識して、気持ちのままに素直に歌ったんです。歌い終わったら、川口さんとふたりでわぁ!!って抱き合って涙して(笑)。それまでは、日本語っぽく歌いたくなかったがために、言葉に対して妙につっけんどんだったり、極端に子音を強めたり、やたらとビブラートをつけてみたりしていました。でもその日は、ただただ歌詞の世界に意識を集中して、素直に、そのまんまの気持ちで歌ったんです。日本語ってなんて繊細で難しいんだろう…。そう痛感すると同時に、ある意味でJUJUの歌い方が確立した、記念すべき日にもなりました。


これからも、読書はもちろん日々の経験を通して、言葉を意識し、言葉の世界に浸り、言葉の濃度をもっともっと高めていきたい。それこそが、JUJUの歌の世界、その空気をもっと彩っていくと思うから――。

Styling/Tatsuhiko Marumoto(eight peace)

Text / Miho Tanaka(staff on)

衣装協力/ENFOLD、CA4LA

Profile

JUJU 歌手

12歳のころからジャズシンガーを志し、18歳で単身渡米。2004年『光の中へ』でメジャーデビュー。'06年『奇跡を望むなら…』がロングヒット。'09年『明日がくるなら JUJU with JAY'ED』は映画『余命1ヶ月の花嫁』主題歌として大ヒットを記録。アルバム『JUJU』で第52回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。

カヴァーアルバム『Request』、通算4作目となるオリジナルアルバム『YOU』は2作連続で、2週連続オリコンチャート1位を獲得。自身初、念願のJAZZアルバム『DELICIOUS』はJAZZ史上初のオリコントップ5入りを達成。6月13日にリリースされたばかりの21stシングル『ただいま』は、テレビドラマ『もう一度君に、プロポーズ』(TBS系)の主題歌に。10月10日からは全国ツアー「ジュジュ苑」がスタートする。

JUJU公式サイトhttp://www.jujunyc.net/

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