
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.1 本の本
僕らの日々の読書は、ちっとも変わらないんじゃないかと思っています。 ただし、読書のやり方は増えるはずです。

12月、「Reader™」が発売され、「Reader™ Store」もオープン。「本はやっぱり紙がいい」や「電子書籍の新しい読書体験に期待」などなど、本というメディアを巡る考えや期待は人それぞれ。ともあれ、端末とインフラがスタートを切った今、まずは自分の足もとを見つめていきましょう。本とは?読書とは?電子書籍で巡る紙と電子の「これから」。
読むことで、日常が少しだけ変わって見える。本はそんな道具だと思っています。
本は道具だと思っています。そういう点では、紙の読書も、Reader™でする読書も同じです。そこで得た情報が作用して、自分の毎日が面白おかしくなること。誰かの物語をトレースして、自分の日常が少しだけ変わって見えること。それが本の最も大切な領分だと思います。
みなさんご存知の通り、本を読んでも死んだ人が生き返ったり、借金がゼロになったりすることはありません。だから、厳密に言えば、本は誰も救ってはくれない。だけれども、「救われよう」とか「得をしよう」と思って本を手に取る人が多い中、僕が覚えていて欲しいのは、本の遅効性です。
僕たちが本を読むことによって備わる、自分の中のひき出しのようなもの。これは、思いもよらないタイミングで開くひき出しだと思います。丁度、僕たちの前に現れる不条理や事故や圧倒的な哀しみなんかが、突然やってくるのと同じように。もちろん、ひき出しが開いても、大変なことにかわりはありません。だけれども、目を背けたくなるようなタフな現実から何とか自分が持ち堪えるための耐性を、そのひき出しの中にある情報は授けてくれる気がするのです。
だから、「本を読むと、賢くなりますよ、救われますよ。」なんていう即効性のある美辞麗句に賛同はできません。できないけれど、一方で「本を読むと少しは良いことがあるかもしれない。」とは言える。つまり、明日の会議でちょっといいことを言うために無理して流行りのビジネス新書を読んでいたあなたも、もっと自由に好きな本を手に取っていいということです。
新しい道具がもたらすのは、新しい読書の方法です。
電子出版の広がりによって、本の世界も全く変わってしまう。なんて言われていますが、それはあくまでも出版業界のビジネスの都合が変わるだけです。人が、誰かの書いた本を読み、何かの影響を受けて、少しずつ生きてゆくという僕らの日々の読書は、ちっとも変わらないんじゃないかと思っています。ただし、読書のやり方は増えるはずです。そう、新しい道具がもたらすのは、新しい読書の方法です。
今までとは、違った場所で、違ったフォーマットで、未知の情報に触れること。慣れないから怖いし、一方でワクワクしたりもします。ただ、最も重要なのは、その真新しい道具を、僕たちが主体としてしっかり使いこなすことだと思います。思いきって噛み砕くなら、ずっと箸で食べていた夕ご飯のテーブルに、フォークやナイフが加わるようなものです。お茶碗に白米は箸がベストだと僕は信じていますが、平皿にリゾットとなった途端、スプーンの方がベターになるでしょう。料理の種類が豊かになるほど、それに相応しい道具も出てきます。もちろん情報の場合も然り。
もちろん道具には、得手不得手があるので、どんな時にどんな道具を使うと自分にとって気持ちよく充たされるのか、意識的にならなければいけません。どんなものがReader™で読むべき情報で、どんなものが紙で保存すべき情報なのか?そんな本と自分の距離感さえ掴めれば、新しい情報フィールドを探索する準備は整っているはずです。
Profile

幅允孝 BACH(バッハ)代表、ブックディレクター
人と本が もうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提 案をしている。国立新美術館「スーベニアフロムトー キョー」などのショップにおける選書や、病院、銀行 のライブラリ制作など、その活動範囲は本の居場所と共に 多岐にわたる。現在ソニーのeBookストア「Reader™ Store」の アドバイザーも務める。
こんな本はいかがでしょう
雑誌連載中のタイトルは「『本』は届いているか」。それを流通という意味にとられないよう、少し刺激的なこのタイトルに変えたとのこと。作家から書店までを貫く”本”の論理は、いまのよの中に柔軟に対応できているのでしょうか。形はどうあれ、本は死なないと強く思う私たちがまず届けたい1冊です。
著者はあとがきで「本との出会いは、人との出会いに似ています」と言います。どんな人に出会うかで人生が変わっていくように、本との出会いは著者の人生を変えました。青春時代の読書は、十代の思い出から政治や経済、在日の問題にまで広がるのです。姜尚中を作り上げ、血肉となった読書の軌跡です。
司書教諭として長年学校図書館の普及、育成に務めた著者。読書が子どもをいかに育てるかを長年の経験から語っています。子どもの本との出会いは、親がその環境を作ってあげることが大切。子どもは本を通して、想像力と世界の広がりを知ります。0歳時から思春期まで、本と幸福な出会いをするために。
紙で味わう一冊
本を愛しなさい / 長田弘 (著) / みすず書房

この本はこんな言葉からはじまります。「本を愛しなさい、と人生のある日ことばが言った。」詩人、長田弘が描く愛すべき本たちの肖像画。この本に登場する「遠い遥かな時代の見も知らぬ人たちへの親近感」をあなたの近くに置いておくなら、紙の束こそが似つかわしい。





