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その言葉が、だんだんと楽しくなってくる、そんな謎解き。(謎解きはディナーのあとで)

シミルボンに投稿された要注目記事をピックアップ!

今回は『謎解きはディナーのあとで』(東川 篤哉 著)を取り上げます。

その言葉が、だんだんと楽しくなってくる、そんな謎解き。

謎解きはディナーのあとで

「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」

令嬢刑事(デカ)と毒舌執事が難事件に挑戦!ユーモアたっぷりの本格ミステリ、ここに登場!


国立署の新米刑事、宝生麗子は世界的に有名な『宝生グループ』のお嬢様。

『風祭モータース』の御曹司である風祭警部の下で、数々の事件に奮闘中だ。

大豪邸に帰ると、地味なパンツスーツからドレスに着替えてディナーを楽しむ麗子だが、難解な事件にぶちあたるたびに、その一部始終を相談する相手は“執事兼運転手”の影山。

「お嬢様の目は節穴でございますか?」

暴言すれすれの毒舌で麗子の推理力のなさを指摘しつつも、影山は鮮やかに謎を解き明かしていく――

書き下ろしショートショート収録!


2011年本屋大賞受賞、2011年 年間ベストセラー1位の大人気ミステリ!

櫻井翔&北川景子のW主演でドラマ化され、2013年には同キャストで映画化!

「クビ」という言葉はある意味人の心を一瞬で凍らせられる代物ではないだろうか。私は学生であり、まだ社会に出て仕事をした経験はないが、一度アルバイト先でその場面に出くわしたことがある。事務所の一角でクビだから、と告げる今までに見たことのないほどあっさりとそれを告げる、普段は優しいシフト長のあっけらかんとした口調が今でも忘れられない。告げられた社員の女性は項垂れて表情がよく見えなかったことも覚えている。明るく生き生きと仕事をしていた女性だったが、それ以降ぱったりと見なくなってしまった。クビというたった2文字で人をそこまで変えられるのだから、私は当然この言葉にはかなりの重みがあるのだと思っていた。

この作品を読むまでは、の話である。

「謎解きはディナーのあとで」は今から10年前に文芸誌に掲載され、その後単行本から実写化まで遂げた東川篤哉氏の人気シリーズだ。語り手は世界的大企業グループの令嬢であり、普段はその身を隠して刑事の仕事をしている宝生麗子。彼女はよく想像されるような高慢なお金持ちのお嬢様ではなく、きちんと良識と正義感、そしてお嬢様らしい世間知らずなところも併せ持った魅力的な女性である。そんな彼女は刑事なだけに様々な事件に遭遇するのだが、事件は全て彼女によって解決されない。いや、彼女との会話によって解決されるというべきだろうか?彼女の話を聞き、そして彼女に事件の全貌を披露してみせるのは、本来なら主人の影となる彼女の執事・影山だからだ。この作品が今までのミステリーとは一種違っているのは、謎を紐解く名探偵が現場には出向かず会話だけで全てを知りまた全てを解決してしまうという点だろう。「一を聞いて十を知る」という言葉はまさに影山に用意された言葉だろうと思うし、むしろ影山はマイナス100からでも事件を明らかにしてしまうのである。
そんな影山が、事件を実際に目にしているにもかかわらず謎が解けていない麗子に対して、数々の言葉を投げるのである。それは執事らしい主人を気遣った言葉では全くない。「お嬢様の目は節穴ですか?」彼はこうはっきりと告げるのである。それはそれは丁寧な口調で。それに対して主人である麗子は、怒りをあらわにしてこう返す。「クビよクビ!」と。だが、ここからがこの作品の面白い点であり、むしろこの暴言とクビ宣告は謎解き前の様式美であるのだ。影山は事件の真相を餌に、クビに対してひるむ様子もなく淡々と麗子に真実は知りたくないのかと聞く。麗子は、結局のところ真相を知り犯人を捕まえるために折れるしかない。私はこの作品を読んでいて非常に快感を覚えた。クビ、と宣告されることが終わりではない。そこからこうして転じていくストーリーもあっていいのだ、と強い衝撃を受けたのだ。

事件は舞台である東京・国立市を中心に巻き起こるが、この土地を知らなくても楽しめる要素がふんだんに注ぎ込まれたこの作品。ミステリー初心者でもきっと楽しめるに違いない。むしろ、次はどんな事件が起こりどんな暴言を影山は口にするのか、ページをめくるたびにワクワクするはずだ。王道とは違う、常識では考えられないようなトリックは読み進めていくたびに読者のあなたを虜にしていくだろう。そして、私と同じように、影山の暴言に少しずつ気持ちよさを覚えていくようになれば、もうそれは立派な「宝生麗子」、語り手になってしまうのだ。(尾瀬)

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