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和田竜さん『歴史は“発見”の宝庫です』

※本記事は2012.9.7時点のものとなります。

大ベストセラー・歴史小説『のぼうの城』がついにこの秋、待望の映画化! それを記念して、著者・和田竜さんにインタビューを敢行。型破りで躍動感あふれる、新しい戦国エンターテインメント小説が生まれた舞台裏から、映画の感想、和田さんの素顔にまで迫ります。

―小説『のぼうの城』はもとは映画の脚本として書かれたものだとか。

そうです。もともと映画監督になりたくて、大学時代は芝居の演出や脚本を書いたりといろいろやっていました。卒業後も働きながら脚本を書き、公募に送っては落ちて…の繰り返し。そんな中、『忍ぶの城』という作品で、城戸賞という脚本賞を初めて受賞しました。それが脚本家としてのはじまりです。ところが、賞を取った『忍ぶの城』は、映画化するにはあまりにもお金がかかりそうなのですぐには実現しない、と言われて(笑)。まずは小説化してみませんか、と提案されて書いたのが小説のデビュー作である『のぼうの城』なんです。

―脚本をもとに小説化するにあたっての苦労はありましたか?

よく聞かれるんですけれど…、実はあんまりないんです。ただ、脚本は、小説と違って、映像化されるときに必要な要素だけしか書きません。つまり、セリフや情景、人物の動作等だけで構成されるので、小説のように人物の感情は描かないんです。もちろん、その分、脚本ではセリフや人物の行為で微妙な感情の動きを表現していくのですが。ですから、小説化するにあたって、そのとき人物はどう思っていたかなど、心の中のつぶやきや感情を書き加えていきました。ただし、主役の“のぼう様”こと成田長親(ながちか)の体型については、脚本の段階ではあまり触れてなかったんです。でも、小説では主人公がどういう体型でどんな風貌かというのは重要だということで、大男という設定にしました。

―小説の大ヒットを経て、ついに映画化されましたが、試写を観た率直な感想を教えてください!

最初は、自分が書いた脚本を役者さんたちがスクリーンでしゃべっていることに、ただただ圧倒されて呆然としました。

でも観ているうちになんだか愛しい映画だな、と。手前みそで申し訳ないんですが(笑)。ダイナミックな合戦シーンはもちろん、湖上での田楽踊り、主人公が戦を決意して大見得を切る場面…、どのシーンも圧巻で美しい。何より、役者さんたちの演技によって登場人物たちに命が吹き込まれていく様子に感動しました。それから、脚本にも小説にもないシーンが映画にはいくつかあるんですよ。それらのシーンは、意外な登場人物がチャーミングに描かれていたり、思わず切なくなったりして、僕自身も試写を観ながらとても楽しみました。観客の皆さんも「どのシーンかな?」と想像しながら楽しんでいただければと思います。

―この『のぼうの城』という作品は、 成田長親という歴史上あまり知られていない人物が主人公です。この人物に出会ったことが物語を書くきっかけになったのですか?

いや、違います。実は、成田長親の存在はまったく知りませんでした。それに、“のぼう様”というのも僕が勝手につけたあだ名ですし…(笑)。そもそもこの作品は、会社員時代の同僚が埼玉県・行田市に住んでいて、「昔、ここにあった城に、石田三成や長束正家が水攻めを仕掛けたんだけれど、ついに落ちなかったらしい」と話してくれたのがきっかけです。こんな意外な場所に、関ケ原の戦いで名を馳せたビックネームたちが来てたのか!しかも城を落とせなかったなんて!これは面白いと思って、関連する資料を読み込み、史実を調べていたら、城代・成田長親に出会ったわけです。 
 
僕の場合、ほかの作品もそうなんですが、まずは人物ではなく「出来事」ありき。興味の湧いた歴史的な事実を徹底的に調べていくうち、こんな意外な人物が関わっていたのか!この出来事にも関係していたのか!など、いろいろな“発見”があって、そこからストーリーが生まれます。同じ史実でも複数の説があったりして、そのときは事実に近いか、あるいは僕が面白いと思った方を選ぶ。そうやって物語をつくっていく中で、関わっている人物たちも動き出すわけです。歴史の資料には、当時起こった出来事しか書かれておらず、感情はほぼ述べられていません。だから「この人はこう思ったからこう攻めたのではないか」など、感情を想像していくんです。

―なるほど。ちょっと歴史オタクな気が…(笑)。もともと、小さいころから歴史がお好きだったんですか?

全然!関心がないどころか、むしろ苦手なほうでした。20歳くらいのとき司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで、初めて歴史小説の面白さに目覚めたくらいですから。でも、読んだ後はもっと知りたくなって、京都まで行って坂本竜馬ゆかりの地を巡ったりしましたね。そう思うと、今の仕事につながる素地がそこにできたのかも(笑)。

 

僕自身、歴史が嫌いだったので、“歴史食わず嫌い”の人の気持ちがすごくわかるんです。ですから、そんな人でも楽しめるよう意識して書いているというのはありますね。

たとえば、『のぼうの城』なら「忍城(おしじょう)の水攻め」というように、取り上げる題材をキャッチー、かつピンポイントの出来事に絞っています。通常の歴史小説なら、その主人公が生まれて活躍して死んでいくところまで数十年かかるところを、僕の作品の場合、ある「出来事」だけに焦点をあてているので、数年前のことをさかのぼったり、数年後に飛んだり、行ったりきたりせずにすむし、物語が途切れないんです。

 

それから、どうしても歴史ものは登場人物が多くなってしまいます。ですから、ひとりひとりのキャラクター設定を明確にして、たったひと言のセリフでも誰が言ったのかわかるように心がけています。「と、○○が言った」と書かなくても、こんなセリフを言うのはアイツしかいないだろう、とすぐに想像できるように。…まあ、主人公ののぼう様は、かなりセリフが少ないですけどね(笑)。

―その“のぼう様”ですが、激動の戦国時代の武将としては、うだつがあがらないというか(失礼…)、ずいぶん不思議なキャラクターとして描かれています。

確かに“のぼう様”というあだ名は、“でくのぼう”が由来ですからね(笑)。戦国時代というのは、社会がまだめちゃくちゃで、破天荒な人物が続出した時代。血の気が多い武将がひしめく中、あえてのぼう様のように、何もできない、頼りがいのない、何を考えているかわからない、ダメそうな中年男がリーダーがいても面白いかな、と。その対極として描いているのが石田三成(みつなり)なんですけどね。そういう意味で、リーダーシップ像というのは、この作品の裏テーマでもあります。のぼう様に関しては、意識してモノローグを書かず、周囲の人物たちの目や評価を通してのぼう様像が伝わるように、読者の方がそれぞれののぼう様を想像できるように書きました。

―ご自身で書かれた小説の中で、和田さんに一番近いな、と思う人物はいますか?

うーん…。いませんね。強いて言うなら、のぼう様と一緒に踊ったり、戦ったりする百姓のうちの誰かかなぁ(笑)。

―では、歴史上の人物で憧れの人は?

今、関心があるのは母里太兵衛(もり・たへい)という戦国武将の典型のような人。めちゃくちゃ強いんですが、大酒飲みで、主君・黒田長政の言うことを全然きかず文句ばっかり言っている(笑)、英雄豪傑です。有名な福岡県の民謡“黒田節”のモデルになった人物で、福島正則から名槍「日本号」を呑み取った伝説の酒豪なんです。しかも、「富士山は日本一ではない!」と生涯言い続けた頑固者でもあるらしい(笑)。非常に興味深い人物ですよね。

―最後に、今後の野望を教えてください。

もともと、高校時代に映画『ターミネーター』を観て映画監督になりたい!と思ったくらい、大のアクション映画好き。アーノルド・シュワルツェネッガーの圧倒的にカッコいい、迫力あるアクションシーン、今観てもしびれます。そういう意味では、戦闘が日常の戦国時代を描くのは、僕の好みにハマったんだと思います。ですから、今後も戦国モノは書き続けるつもりです。と言っても、ただ合戦のシーンを描くだけではなく、人物がきちんと腑に落ちる作品を書いていきたい。B級の低予算映画と言われた『ターミネーター』なんて、サイボーグというアイディアとシュワルツェネッガーのキャラクター設定が勝利の作品ですからね。僕も、「なるほど、そうきたか!」と思わず膝を打つような作品を書いていきたいと思っています。

Photo/Mari Tamehiro
Text / Miho Tanaka(staffon)

のぼうの城 上

ときは戦国期。周囲を湖で囲まれた“浮き城”の異名をもつ難攻不落の城「忍城」。その城代・成田長親は、領民たちから、でくの坊=“のぼう様”と言われても泰然としている御仁。ある時、その忍城を攻めに、豊臣秀吉方約2万人の軍を従えて、石田三成がやってきた! 対するのぼう方の軍、わずか500人。従来の武将とはおよそ異なるが、なぜか領民の心を掌握しているのぼう様が石田勢を迎え撃つ…。

 

新しい英傑像を提示し、シリーズ累計165万部突破、戦国エンターテインメント小説の大ベストセラー。

2008年直木賞ノミネート、2009年本屋大賞2位。

Profile

 

和田 竜(わだ・りょう) 作家

1969年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2003年、映画脚本『忍ぶの城』で第29回城戸賞を受賞。2007年、その脚本を小説化した『のぼうの城』(小学館)で作家デビュー。同作はベストセラーとなり、直木賞にノミネート、2009年の本屋大賞で2位を獲得。2作目となる『忍びの国』(新潮社)で吉川英治文学賞候補、3作目の『小太郎の左腕』(小学館)で山本周五郎賞候補に。現在、「週刊新潮」にて『村上海賊の娘』を連載中。

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