
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.23 STILL CRAZY - 原発のすがた

1994年、日本全国の原発53基(当時)を撮った写真集『STILL CRAZY』を発表した写真家・広川泰士さん。1991年に撮り始めてからちょうど20年後の今年、福島原発の事故により皮肉にも改めて脚光を浴びる形となった本作を中心に話を聞いた。広川氏はなぜ原発を被写体としたのか。
原発という国家プロジェクト
『STILL CRAZY』は、ちょうど20年前の1991年から数年かけて撮ったもので、当時も今ほどではありませんが、反原発のシンクタンク・原子力資料情報室の高木仁三郎さんを中心にいろいろな議論がありました。そのいろいろな議論があったなかで、僕も原子力発電所には腑に落ちない気持ちがあったんです。
当時、電力会社はチェルノブイリの事故は当時のソ連だから起きたのであって、日本の技術なら大丈夫と言っていました。もうひとつ気になっていたのは、処理する技術も方法もないまま見切り発車をして、どんどん増え続けていく核廃棄物問題でした。
僕自身も原子力発電所を見たことがないから見てみたいという気持ちと、見たことの無いまま議論している人たちにも見せたいという思いが湧いてきたんです。それで、雑誌「アサヒカメラ」で10ページを撮ったのがスタート。最初は、日本で一番原発が多い福井の若狭湾に行ったんですが、殆ど外から撮れなくて。近所に行けば撮れるだろうと思っていたんだけど、すごくゲートが厳重で、周囲も広大な森に隠されていて外からは見えない。そこで担当編集者に許可を取ってもらい、取れた順に一気にまわり始めました。原発があるのは大体が過疎の未開発地域で、海水を冷却水とする為に風光明媚な海辺に突然ぽつんと建っているわけですけど、最初に作られるのは工事車両が通るための巨大な道路やトンネルなんです。そこへ行くための道づくりから始まる。相当な巨大開発ですよね。建築現場は大手電機メーカーの社屋が並び、建築会社も大手建築会社が一様にずらっと揃う。これは一大国家プロジェクトだと感じましたね。
“まだ馬鹿なことをやっている”/“まだお前に夢中だ”

写真集を出したからといってエネルギー系の業界からの圧力もなかったし、むしろ殆ど無視されました。
出来上がった本は撮影した所や関係各所には配ったのですが、そのリアクションもなく、タイトルにいちゃもんをつけてきたのが一つあっただけ。“still crazy”はポール・サイモンのラブソングから取っていて、“まだ馬鹿なことをやっている”という意味もあるけれども、“まだお前に夢中だ”みたいな意味もあって、両方にとれるんだという説明をしたら、妙に納得してくれましたけどね(笑)。
僕の発表の仕方や撮り方も、ことさら何かを告発するとか反対の声をあげるようなものではなくて、淡々と現代日本の海辺の風景として見せたかった。反応はむしろ海外のほうが良くて、プリンストン大学の美術館、サンフランシスコの近代美術館、ミュンヘンのレンバッハハウス美術館がコレクションしてくれています。日本では全然ですね。
定点観測で100年後の写真家に撮って欲しい
原発施設の耐用年数は40年、たったの40年で廃炉にしなくちゃいけないわけです。莫大なお金と時間と労力をかけて、立地し建設したのにですよ。撮影の時、対応してくれた担当者の中には、自分の人生を原発に捧げたみたいな人もいました。つまり企業に忠実なだけで、悪い人じゃないんですよ。立地のために村に溶け込もうと住み着いて、祭とか地域の活動とかを率先してやり、信頼されるようになって初めて土地買収とかもできていくわけでしょ。反対派もいたなか、何十年もがんばって建設を成し遂げたことを涙ぐんで話してくれました。
この作品は、例えば江戸時代の風景を100年後に同じアングルで撮って並べるのと同じように、50年後か100年後、定点観測的に僕と同じアングルで後の世代の人が撮って二枚一組で発表してくれると、そこで初めて完成かなと思ってるんです。写真集の最後に匂わすようなことをちょっとだけ書いてあります。そのためにどの写真にも日付を入れているんです。
自然の驚異的な浄化能力

強く意識したことはないんだけど、僕は、写真で社会と繋がることもひとつの表現だと思っていて、自分が撮るテーマにもそういう意味が潜んでいる気がしています。日本海でのロシアの石油タンカー座礁による重油流出の海岸を撮った『OILED COAST』も、事故後1ヶ月も経っていない、先が見えない時に行きました。現場に近い福井の三国町は報道されてボランティアがたくさん来たんですが、実際は能登半島の先の方まで重油の影響はあって、自衛隊もボランティアの手も一切入っていないところが結構あった。撮影に行っていた能登半島のほぼ突端には人の手が入らず、波が洗うくらいの自然の力しか働いていない場所があって、8年間撮りました。8年も撮っていると、油が徐々に消えていくのがわかるんです。波で洗われるのが1番大きいのですが、あとは重油を食べるバクテリアの発生。自然の治癒力って凄いんだなと思いましたね。でも、一面重油で覆われた海岸がきれいになると、今度はゴミがもの凄い。海流の流れで漂流物が吹き溜まりのように集まる場所だったみたいで、殆どがハングルが書かれたゴミなんです。アラスカの太平洋側に行くと日本の字が書かれたゴミがいっぱいあるし、そう考えると放射能も福島だけじゃなく地球規模の問題なんですよね。皆同じ空気を吸っているんだから。自分のところだけ良ければみたいな考えはやめないと、大変なことになってしまう。
人間の傲慢の象徴「BABEL」シリーズ
10年ぐらい前から、「BABEL」というタイトルで、工事中の高速道路やビルの破壊現場、砂利を取るために山を削る風景、災害現場などを撮っています。ここ10年の岩手や新潟の地震の現場にも行きました。「BABEL」は旧約聖書創世記のバベルの塔からきていて、やたら高いものを建てたがる人間の傲慢の象徴ですね。結局人類は今も昔も同じなんです。必要もないのに高いものを建てたがる。それらのものを見せることで、ひとつのメッセージにしようと思っています。
広川泰士さんの写真集 紙で味わう一冊
『昔日の客』 / 関口良雄(夏葉社)

これは古本屋をやっていた知り合いのお父さんが書いたものの復刊。良き時代の時間に浸れます。元々私家版だったらしいんですが、文人たちとの交友とか古本の話とか文章がすごく良いし、紙も良い感じで、手に持った時の雰囲気がいいですよ。この版元の夏葉社さんもひとりでやっている出版社みたいですね。
Profile
広川 泰士 (ひろかわ たいし) 写真家

1950年神奈川県逗子市生まれ。
1974年より写真家として活動を始め、パリやロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスなどを始め、世界各都市での個展、美術展への招待出展等で作品を発表している。また、撮影監督を手掛けた「トニー滝谷」(市川準監督)は世界30余ヵ国で上映され、ロカルノ映画祭において審査員特別賞、国際批評家連盟賞、ヤング審査員賞の3賞同時受賞をしている。写真集は『STILL CRAZY』(光琳社出版)、『TIMESCAPES−無限旋律−』(青木書店)、『whimsical forces—時のかたちー』(ワンストローク)他。プリンストン大学美術館、ロサンゼルスカウンティ美術館、サンフランシスコ近代美術館、フランス国立図書館、神戸ファッション美術館、東京都写真美術館、ミュンヘンレンバッハハウス美術館他に作品がコレクションされている。





